夕方から参加の私が目にすることの出来たのは、「ビルとビルの谷間や、空き地など都市のすき間で、9組のアーティストが、映像作品のプロジェクションや光と影によるインスタレーションを行」う、「スライド・ショー」の作品が中心だった。地図を片手にうろうろ歩き、最初に見つけたのは佐藤時啓+WanderingCameraの「漂流するカメラ(家)」。文字通り移動するカメラ・オブスクーラ。大きめの車ぐらいの箱に乗りこむと、潜望鏡のようにまわる天井のピンホールが、周囲の景色を写し出す。夜景であっても都市のそれは、街灯や信号機、車のヘッドランプから歩行者まで、暗室の中に想像以上にくっきりと浮かび上がることに驚く。見慣れた景色が眩暈のするほど美しい映像にかわり流れてゆくさまに、一緒に乗りこんだ(通りがかりらしい)おっちゃんおばちゃんからも溜息と歓声があがる。簡単な仕掛けであっと驚かせてくれたのは高橋匡太+川口玲子の「書割空間」。ドット状のライトでビル全体をすっぽり包みあげていた。網タイツで包まれたかのような奇妙なビルの姿に、道行く人も思わず振り返っていた。田尻麻里子の、人物の足が卵の殻を踏みつけるシーンを繰り返す映像作品は、以前にWPOで見たものよりも、画像の乾き具合と卵の殻を踏みつける音に鋭さを増し、より攻撃的に映った。空間と作品との関係が光っていたのは木村望美。猫の通り道のような、文字通りのビルのすき間に、下から光を浴びて回転する透明な花のオブジェを設置。ひそやかに揺れる花の影は、見上げたビルの壁の、気が遠くなるほど上にまで伸び、その先に切り取られた空にまで、遠く視線を連れていってくれた。点滴のように液体を少しづつ垂らし「蛍光発光」させる少年少女科学クラブのガラス管(液体の名前や、発光のしくみなど、丁寧に教えていただいたんですが、すっかり忘れました……すみません)も、ビルの狭間の闇で秘密めいたあやしい美しさを放っていた。
また「スライド・ショー」とは別枠で、ビルの壁をスクリーンに巨大縦長アニメーション「build」(永田武士+モンノカヅエ)の上映も行われていた。マッドに歪んだ日用品の巨大テトリスの中で、逃げまどう男。積んでは壊れてゆく妄想の世界は、時事的な出来事のせいで余計に印象に残っているのかもしれない。
オフィスとショッピング街が中心で、都心であっても決して繁華街ではない旧居留地一帯は、昼間の賑わいとは対照的に、夕方以降、独特の静かなざわめきの中に沈む。そんな旧居留地の夜に、光の作品がぽかりぽかりと浮かび上がった。何年もこの町で活動を続けてきたC.A.P.らしく、町の空気としっくりとなじむ、それでいて作品の輪郭線がくっきり感じられるイベントだった。