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岡山 柳沢秀行
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event岡山県新千年紀記念事業 岡山駅前モニュメント制作
西雅秋『吉備沃野』制作中――11月1日(木)除幕

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西雅秋『吉備沃野』制作中1

西雅秋『吉備沃野』制作中2

西雅秋『吉備沃野』制作中3

 岡山県が新しい千年紀を記念する事業実施にあたり、アイデアを広く一般県民から募った。そして採択されたのが、なんとJR岡山駅のまん前にコンテンポラリーアートのモニュメントを造ること。
 国内の第一線で活躍するアーティスト10名を指名してのプロポーザルを実施。見事選ばれたプランが西雅秋さんの『吉備沃野』。
 しかし、この作品設置場所は、ビルや看板、そして何の機能を持つのかわからないような構造物が雑然と混在する景観のうえ、地下街があるため1平方メートルあたり500kgまでの荷重という嫌がらせのような制限がある。そのうえ防災上の規制も加わり、バリアフリーにもことさら気をつけなくてはならない。
 私も、「岡山駅前にコンテンポラリーの大規模なパブリックアート」という点には心ワクワクしながら、「選ばれたアーティストは大変」という思いが半々。でもやっぱり「そんな場所だからこそ、何をしてくれるか楽しみ」と、また凝りもせず、この事業のお手伝いに混ぜてもらった。 最初の10名の作家が選定された段階から、これなら誰が手がけてもOKというメンバーが揃い、期待も高まる。そして次々と提出されるプランは、いっそ全部を県内各地に設置したらと思わせる、いずれ劣らぬ良質なものばかり。でも、やっぱりみなさん、この設置場所にだいぶ苦労された様がありあり。
 この中から、これまでも実に巧みにその場所の特性を取り込んだり、逆手にとった自在な発想を示してきた西さんの『吉備沃野』が選ばれたのだが、今回のプランは、まさに西さんの真骨頂を発揮。
 作品は、既設の桃太郎のブロンズ像を取り込み、それを中心にして土(花壇)→木→石→土(陶)器→青銅→鉄と、人類が関わりを持ち始めた順に、各素材のゾーンが同心円状にドーナッツ型に広がる。そしてそれがやはり既設の周囲が円形の噴水と連なるというもの。わずかに地上に飛び出た設置物として万成石と備前焼のベンチが置かれるが、これが桃太郎を乗せた船に見立てられ、これから鬼退治に向かうのか、はたまた鬼退治を終えて凱旋をするのかといった物語も喚起される。
 仕掛けは、これだけではない。木=岡山県の県木の赤松、石=岡山市に産する万成石、土=備前焼の陶板と、可能な限り地元の素材が用いられる。また青銅のゾーンには岡山県の全市町村名が浮き出しになっている。
 そのうえ、可能な限り岡山の様々な人に作品制作に関わりをもってもらおうとした結果、100平方メートルにも及ぶ膨大な量の陶板制作を備前焼の若手作家の作る備前陶心会が請負うこととなり、また万成石の加工と施工は、自身もこの事業の候補作家であった地元在住の寺田武弘が「このプランは面白い」と進んで引き受けることとなった。青銅のゾーンも、何万人という人が上を歩くことで次第に凸部分が磨かれ市町村名が鮮明となる。
 このプランであれば、既存の桃太郎像と円形の噴水を作品の要素として取り込むため、極めて猥雑な景観にさらに何かを足し込むどころか、逆にそれを整理することになる。また、すでに敷かれているレンガを他の素材に敷き代えるから荷重も問題もなし。
 なにより、この作品は、素材であり人材でありと、広く岡山県が抱える資源を集結して成っており、景観の中で威圧的に焦点を作るモニュメントとは異なり、人々の記憶や行為を束ねた新しいタイプのモニュメントになっている。
 たとえば、組織はあっても日頃せいぜい5〜6人で組になって窯焚きを手伝う以外には共同作業をすることが少ない備前の若手作家達が、皆が集って成形し、窯焚きすることで互いのノウハウを出し合ったり、よその窯の様子を知ったりすることとなる。また寺田さんは西さんのコンセプトに刺激を受けつつ、一方で西さんからのリクエストが明確にできるように、自身の作品設置場所を二人で丁寧に見てまわりながら、石の加工や施工の仕方を検討しあい情報を提供していった。またおのずと作家同士で酒を飲みながら話し合う機会もあったが、こうした中で寺田さんと備前の若手作家のように日頃は同じ県内にいながらもディスコミュニケーションである作家同士が互いの制作について語り合うことは、これだけでも、双方にかけがえのない刺激が生まれたことだろう。
 また完成した作品は、美術なぞ関係なく駅前をとおりすぎる人々が、青銅部分をそれと思わずに磨きあげたり、ベンチに座って人を待ち合わせたりと、特に意識させることなく、多くの人々と関わりを持つこととなる。それにおなじみの桃太郎像が船に乗せられることで、特に美術に関わりの持っていなかった人も、ある種の親しみやすさを入口にして、この作品が抱える意義へとアクセスできるような仕掛けまでなされている。
 このように、このプロジェクトは、制作のプロセス、実現される作品、それに作家の手を離れた作品が岡山の人々とこれからの経る時の中でのどのように関わるのかと、わくわくする出来事や想像をはばたかせる仕掛けに満ちている。
 最後にあえて付け加えておきたいが、今回のプロジェクトで、ここにプラスの側面ばかりを書きとめることができたのも、このプロジェクトの担当部署である岡山県企画振興部企画振興課が、関係諸方面との調整等こうしたプロジェクトにつきものの実に煩雑な諸作業を周到に行なったためである。
 「コンテンポラリーアート?」といいながらプロジェクトを立ち上げ、審査員や作家のもとを訪ね、やがては次々と届くマケットを前に見事な批評をはじめられた企画振興課のみなさん。ほんとにご苦労様でした。この新千年紀記念事業は岡山県庁にとっても見事なインリーチ活動になったようです。
 すでに9月の終わりから設営作業が始まっているが、すでに何万人もの人々が、この現代美術モニュメントの公開制作を目にしている。突如飛び出した意味不明な物体ではなく、人々をつなぎながら、すこしずつ姿を表す、この西雅秋を媒体とした岡山県民のモニュメントは11月1日(木)に完成披露されます。
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exhibitionThe STANDARD スタンダード展

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The STANDARD スタンダード展


 瀬戸内の小島を舞台にしながらも、直島コンテンポラリーアートミュージアム、そしてそれを運営するベネッセコーポレーションは、これまでも展覧会や収蔵作品において、またヴェネチアビエンナーレにおけるベネッセ賞の制定など、常に世界の美術界と向き合ってきた。
 ここ数年は、島内に対象を広げた家プロジェクトも含めコミッションワークに重きを置いてきたが、今回は開館10周年を記して13名の日本人作家による展覧会を実施。もっともこれも会期設定からして明らかに横浜トリエンナーレ開催を意識しての企画であろう。
 作品は、いずれも美術館の展示スペースを離れ、長い年月を経た民家や、路地、それに床屋や診療所として使われていた旧い建物など、直島の各所が会場となっている。
 こうした場の選択は、直島という地域の固有性が特殊な形で突出するのではなく、かえって島の日常に浸透し、姿を見せていると捉えてのことだろう。そのうえで、現代の日常的な問題をとらえ、形で示したものとする作品達を選び、そうした島の日常の場=島の規範であり、他地域と比較した場合に直島の固有性を示す場、にあつらえることで、作家達、そして直島という場が示す「スタンダード」=「基準・規範」に対し、観客達自らがスタンダードとする状況を振り返ることをも目指しているとも言える。これもひそやかにカウンターパートとしての横浜トリエンナーレを意識したコンセプトなのだろうか。
 さて、出品作家は、これまで展覧会や作品収蔵により直島との関わりの深い大竹伸朗、杉本博司、宮島達男といった国際的にも高い評価を受けている作家。今回のヴェネチアビエンナーレ出品の中村政人、また横浜トリエンナーレ出品の折元立身といった高注目度の作家。それに村瀬恭子 (1963年生) 、金村修(1964年生)、須田悦弘(1969年生)、野口里佳 (1971年生) といった若手をバランス良く配している。
 特に地元岡山から1915年生まれの緑川洋一と、1980年生まれでまだ大学4年の鷹取雅一の二人を招いたてくれたのはとても嬉しい。
 写真家として全国的な評価を受ける緑川は、近年の光溢れる瀬戸内の風景を見慣れた目には、こんな仕事もあったのだと、その足跡を再確認させる直島の精錬所やそこで働く人々を取り上げたルポルタージュ写真。
 またこれまで、この欄でも幾度か取り上げてきた鷹取は、B5程の白い紙に露悪的とも受止められるほどのダイレクトな性的イメージをペン画で描きとめたものを、旧診療所跡の8畳ほどの部屋を使って、天井、壁、床とびっしりと並べている。
 あまりの紙の量に、まずはその白い紙により占拠された空間が先にインパクトを与え、のちにそれぞれに書きとめられたイメージが顔を出してくるこのインスタレーションは、これまで表立って人に見せることのなかった彼の一面を、生理臭を巧みに取り除きながら提示しており、保護者のような気持ちの私はほっと一安心。
 その他、宮島達雄のホスピスプロジェクトは、いつもながら周到な完成度の高さを見せ、また島に降り立った観客がまず目にするであろう大竹や折元の作品は、その作品を既に知る者にとっても、一瞥では立ち去れない力を発している。
 もっともまだ開会当初に訪れたせいだろうが、ところどころに、こなれていない点が目についた。
 たとえば、金村修の写真、木下晋の絵画などは、外光が直射する展示場所ゆえ、光の乱反射や映り込みで作品を正視することができなかった。また現在もお住まいの方がいらっしゃる場を使用しての展示では、杉本の作品は極めて限られた時間しか見ることができないことが現場に行って初めてわかり、また須田の作品を見るために、建物のどこまで入ってよいかがわからず難儀した。
 また広域に渡る作品の設置場所を把握するための地図も最後まで入手することができず、チラシに表記された設置地域名と、これはこまめに設置された立て看板を頼りに探すこととなったが、それでもある地区ではまるで場所がわからず、ボランティアスタッフに聞いても道に迷うばかりであったのには閉口した。最初にガイドブックを買えばよかった。こうした点については、12月までの長い会期のなかで少しずつ是正され、熟成するだろう。
 ともあれも、これだけ広域に島内に展開できたのも、また国際的に高い評価を受ける作家と共に、思い切った若手登用に踏み込めたのも、これまでの地道で、かつ確固たる積み上げがあったからこそ。不思議なもので同じ場所に同じ作品があっても、時が経つとそれがおさまり落ち着いて見えてくるものである。また改めて、今度は一泊くらいかけて、美術館周辺の作品、そしてついにお披露目となる内藤礼の家プロジェクト作品「ぎんざ」を含めて、この10年間の直島コンテンポラリーアートミュージアムの成果を堪能しに行きたい。
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The STANDARD スタンダード展
会期:2001年9月4日(木)〜12月16日(日)
会場:直島各所 香川県香川郡直島町
問い合わせ:FAX. 086-227-6111 直島コンテンポラリーアートミュージアム
作家:大竹伸朗/折元立身/金村修/加納容子/木下晋/杉本博司/須田悦弘/鷹取雅一/中村政人/野口里佳/緑川洋一/宮島達男/村瀬恭子

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report学芸員レポート [岡山県立美術館]

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 財団法人地域創造のプロジェクト「全国市町村立美術館等活性化事業」として、『中山巍と1920年代のパリ』という展覧会のお手伝いをしている。現在、静岡県掛川市で開催中。その後、兵庫県氷上町、そして尼崎市へと巡回する。
 中山巍がパリで交友をもった佐伯祐三、里見勝蔵、前田寛治などの日本人画家、それにマチス、ヴラマンク、シャガールなどの作品から中山作品への影響がうかがえるものを集めたもので、小規模ながらなかなかのできばえ。お近くの方はぜひ御一見を。
 それから岡山に目を移せば、またまたじんじんさんが来て中心市街地で野点はするは、20歳台の若者達がJR岡山駅の周辺にある奉還町商店街を舞台に店舗の一画を活用しての展示、またオリジナルTシャツ等の販売やワークショップを実施する「アート商店街」というイベント実施するなど、その他にもあれこれ企画が続く元気の良い秋です。なかでも中四国山陰10県の若手現代美術アーティストが集う「クロスオーバー10 2001」(岡山県総合文化センター)は、ますます充実。見てまわるだけでも大忙しです。
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中山巍と1920年代のパリ展 巡回日程
豊科近代美術館 2001年9月1日〜9月24日
掛川市二の丸美術館 2001年9月29日〜10月21日
氷上町立植野記念美術館 2001年10月27日〜11月18日
尼崎市総合文化センター 2001年11月23日〜12月16日

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