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ベルリン・ビエンナーレ――都市の大変貌のなかで……市原研太郎
T/O
1:トビアス・レーバーガー
  オラフール・エリアッソン
 ドイツのベルリンで、ビエンナーレが開かれているのを知っているだろうか。ビエンナーレといえば、ヴェネツィアサンパウロ、シドニー、そしてニューヨークのホイットニー美術館で行なわれる、2年に一度の国際展が有名だが、この形式の展覧会をベルリンでも行なうことになり、今年の10月その第1回目が開幕した。
W.T
2:ウォルフガング・ティルマンス

J.M
3:ジョナサン・メーセ

 90年の再統合の後、ベルリンはドイツの首都に返り咲いた。そして、「壁」によって分断されてきたメトロポリスの深い傷跡を消し去り、全面的な化粧直しを施す作業を、市内の至る所で繰り広げている。この大規模な都市づくりと並行するように、ベルリン・ビエンナーレは計画されたわけだ。しかし、もともと定期的に開かれる現代アートの国際展をもたなかったベルリンで、このようなイヴェントの実現を思い立ったのは、アートに専門的に携わる国や市の行政の側ではなかった。再統合と同時に、「壁」のあった地帯からほど近い東ベルリンの一角、ミッテ地区にオルタナティヴのスペースを立ち上げ、精力的な活動を展開してきたインディペンデントのギャラリスト、クラウス・ビーゼンバッハである(彼に、ナンシー・スペクターとハンス=ウルリッヒ・オブリストといった著名なキュレーターが協力するという形をとって、ビエンナーレの企画は遂行された)。  
 したがってこのビエンナーレには、長い歴史がある、あるいは権威のある公共機関が組織する、他のエスタブリッシュされた展覧会とはまったく異なる、個人の手作りの際立った特長や魅力がはっきりと現われている。たしかに同じドイツで開かれるドクメンタと比べれば、会場編成は似ているけれども規模は小さく(とはいえ、日本で行なわれる同一の企画のものと比べれば、はるかに大きい)、また展示スペースとして用意された会場の環境も、きれいに整備されているとはいえない。しかし、逆に殺伐とした雰囲気を背景にしたほうが、現代アート、とりわけ新しい傾向の作品には好都合だったり、またそれらを見る人々にとっても、堅苦しい気取った観賞の仕方を押しつけられることなく、より解放的なリラックスした心構えで作品に接することができる。 M.P/W.T
4:オブジェはマンフレッド・ペルニス。
左の写真はウォルフガング・ティルマンス
M.B
5:モニカ・ボンヴィチーニ
A.S
6:アンドレアス・スロミンスキー
 都市の大変貌のさなかにビエンナーレを開くことについては、この若いオーガナイザーに、特別の思惑があったに違いない。展覧会の場を通して、ビエンナーレとベルリンの再開発をリンクさせ、官民こぞって推進している都市計画に、あからさまな賛成や反対の意思を表明することは不可能ではない。しかしながら、教条的な宣言はどちらにしても有効ではない。そうではなく、そうした流れにじっくりと寄り添い、上からではなく下から、言い換えれば草の根の個人、あるいは小さなグループの多種多様な活動でもって、積極的に都市の文化づくりに関わっていこうとする姿勢が、ビエンナーレの全体から感じられた。ビエンナーレのタイトルの意味ありげなロゴタイプにも、それが示されているのではないだろうか。ベルリンの文字を反転させて印刷し、斜線を挟んでもう一度繰り返す。つまりこのロゴが仄めかしているのは、ベルリンの現在を裏から見据え、もう一つのベルリンの姿を指し示すこと、である。
 残念ながら、今回の展覧会に日本人のアーティストは参加していない。その理由の一端は、いま述べたベルリンの都市づくりに密着した作品が、今回のビエンナーレの主役を果たしていたということにあるのだろう。しかしそれだけでなく、日本の現代アートに、現実の問題にストレートに切り込んでいく姿勢が欠けているからではないだろうか。抽象的に捉えられた調和や生と死といったテーマにいつまでも拘泥し、現実を顧みない矛盾に満ちた創作態度はもはや許されない。ビエンナーレの諸作品が雄弁に語るように、アートの活動はすでに現実であり、現実はアートが最後に生き残る唯一の場所なのだから。
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berlinベルリン・ビエンナーレ「Berlin/Berlin」

会場:ドイツ、ベルリン市内
会期:1998年10月1日〜1999年1月3日
問い合わせ:tel. (49) 30 28 59 91 48
      fax (49) 30 28 59 91 50
      e-mail: presse@berlinbiennale.de

Erste berlin biennale 1998 bis 2000
http://www.berlinbiennale.de/

現代美術によるアーバニズム
――ベルリン・ビエンナーレ1998−2000
……槻橋修

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1:台座の上の花瓶と花はトビアス・レーバーガー(それぞれの作品にアーティストの名前のタイトルがついている)。手前に天井から吊るされたファンがあり、それが引き起こす風によって大きく揺れる作品は、オラフール・エリアッソン
2:壁の写真はウォルフガング・ティルマンス。手前の金属製の円筒は、カーステン・ヘーラーの滑り台(人が自由に滑れる)
3:ジョナサン・メーセの部屋全体を使ったインスタレーション(壁には映画スターのポスターや落書き、天井からはミラーボールが吊るされ、大音響のロックミュージックが流れる)部分
4:右のオブジェはマンフレッド・ペルニス。缶を巨大化したものの模型。左の写真はウォルフガング・ティルマンス。
5:モニカ・ボンヴィチーニ 白い壁とモニターからは家の模型をかぶった女性が、その頭を打ち続けるシーンが流される。
6:アンドレアス・スロミンスキーの3000リットルのペンキ缶。ベルリンのテレビ塔を塗り替えるだけのペンキの量がある。
7:マリケ・ヴァン・ワルメルダス 白と黒の風船の中に自動車のボンネットをふく手のジェスチャーが映写機から繰り返し投影される。

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