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Art Watch Index - Jan. 21, 1997
【スウィンギング・ロンドン、あるいは 60年代とはほんとに何だったのか ―ローリング・ストーンズ『ロックンロール・サーカス』】 ………………●西山菊衛
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スウィンギング・ロンドン、あるいは ●西山菊衛
たくさんの「あの」に満ちた「サーカス」 この映像に感動するとしたら、それはあのローリング・ストーンズの、しかもあのブ ライアン・ジョーンズの最後の出演映像であり、さらにあのジョン・レノン、あのエ リック・クラプトン、そしてあのザ・フーが出演しているからだ。あるいはもっと通 ならあのジェスロ・タル(ギターはあの一週間しか在籍しなかったトニー・アイオミ !)、へそ曲がりならあのミッチ・ミッチェル、芸能ネタ好きならあのマリアンヌ・フェイスフル(当時ミック・ジャガーの恋人だった!)、ブラック・ミュージック党 ならあのタジ・マハール(バックでギターを弾いているのはあの伝説のジェシ・エド・デイヴィス!)が出ているからだと言っても良い。もちろんオノ・ヨーコやましてアイヴリー・ギトリスというイスラエル人のクラシック・ヴァイオリニストについて蘊蓄をたれる御仁もおられよう。これらの人たちの出演を得て、あの1968年に制作されながら、なぜかお蔵入りになっていたあの番組なのだ。これだけたくさんの「あの」に満ちたこのビデオが面白くないはずがない。そしてなぜか設定が、中原中也からフェリーニに至るまでノスタルジアの温床である「サーカス」なのだから! あの60年代がここにある こいつぁ、こたえられない。彼らを見ながら、さまざまな「あの」をプルダウンする。そうしたことがロックの楽しみになったのは、いつごろからだろうか。「フーに喰われたからお蔵入りになった」という話を誰が言い出したかは知らないが、ピート・タウンゼンドの右腕ブン回しもキース・ムーンのクレイジー・ドラムも確かにエクセレントだとはいえ、ストーンズの演奏が彼らに「負けている」という印象はうけない。 むしろそうした噂を楽しむこと自体が、いまやロックで社交する人々の不可欠なアイテムになっているのだ。ミックの体はキムタクと比べてどうだとか、ブライアンがかまやつひろしに似ているとか、ミーハー的に楽しめるネタも豊富だし、ヨーコが奇声をはりあげるときクラプトンが困惑の表情を見せるとか、ミックがジョンに接する態度はどうだとか、深読みの余地も多々ある。あるいは端的に彼らがみな若いことに、学生時代の写真を見るようなノスタルジアを誘発される人もいるだろう。ミッチ・ミッチェルのようなその後の追加情報が少ない人ほど、存在感が薄い。これを見れば60年代とは何だったのかがわかるのではなく、「あの60年代がここにある」ことがミソなのだ。「60年代とはほんとに何だったのか」というような問いには、正解は得られない。 貴重なジェシ・デイヴィスの映像 「ポピュラー・カルチャーの楽しみの一つは、それについて語ることだ」とサイモン ・フリスも書いているが(Performing Rites, p.4)、彼は控え目すぎる。ポピュラ ー・カルチャーの楽しみのほとんどは、それについて語ることなのだ。現在のメディ ア・アートにまで至る全ての芸術とポップ・カルチャーを隔てる境界は、たぶんここ にある。現代音楽が面白くないのは、その音楽的内容もさることながら、それについてのおしゃべりを誘発しないところにあるのだ。冗談をさておくと、それぞれの演奏が素晴らしいことは言うまでもない。一番の見ものはやはりクラプトン、キース・リチャーズ、ミッチェルを従えて歌うジョン・レノンだろうが、個人的にはジェシ・エド・デイヴィスの姿が印象的だった。スライド・ギターの名手として一時はライ・クーダーと並び称された彼は、70年にタジのバンドを脱け、3枚のソロ・アルバムを発表したが、70年代後半になると全く動静が伝えられなくなった。そしてつぎに彼の名を見たのは、88年の訃報だった。このビデオの彼は23歳。物静かで、不器用な人柄を感じさせる。ウェスト・コーストにはジェシのようなネイティヴ・アメリカンや、チカノ、アジア系のロック・ミュージシャンも多くいた。ソフト・ロック・バンドのアソシエーションにはハワイ人のメンバーもいたのである。 [にしやま きくえ/ポップ美学]
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