Mar. 11, 1997 Apr. 15, 1997

Art Watch Index - Mar. 18, 1997


【フィッシュリ&ヴァイス《In a Restless World》
 at Wexner Center for the Arts, Ohio, U.S.A.】
 ………………●四方幸子


Art Watch Back Number Index



《In a Restless World》
会場:
ウェクスナー・センター・フォー・ジ・アーツ(オハイオ州立大学所属)
会期:
1997年2月8日
 〜4月13日
問い合わせ:
ウェクスナー・センター・フォー・ジ・アーツ
Tel.614-292-3535
*《In a Restless World》は、エリザベス・アームストロングの企画により ウォーカー・アート・センターで1996年に開催されたもの。

巡回展

会場:
サンフランシスコ近代美術館
会期:
1997年5月29日
 〜8月31日
問い合わせ:
サンフランシスコ近代美術館
Tel.415-357-4000
会場:
ボストン現代美術研究所
会期:
1997年10月8日
 〜1998年1月4日
問い合わせ:
ボストン現代美術研究所
Tel.617-266-5153
会場:
ヴォルフスブルク美術館(ドイツ)
会期:
1998年2月7日
 〜5月3日
問い合わせ:
ヴォルフスブルク美術館
Tel.05361-26690
Ein Unfall

Ein Unfall
ポストカードより

The Way Things Go

The Way Things Go
「事の次第」(ビデオ作品)より

Son et lumiere

Son et lumiere
プラスチックコップの台が回転することで、壁面のイメージがつねに変化

Surrli

Surrli
このような図形を何枚もスライド・プロジェクションで見せる作品

Peter Fischli David Weiss: In a Restless World
(C)1996 Walker Art Center カタログより






ArtistGuide: Peter Fischli / David Weiss
http://www.artistguide.com/
artists/fischli_peter_
_weiss_david.html

FISCHLI AND WEISS
http://www.telefonica.es/
fat/efischli.html

Wexner Center for the Arts
http://www.cgrg.ohio-state.
edu/Wexner/

San Francisco-Museum of Modern Art
http://www.cityinsights.com/
sfmoma.htm

The Institute of Contemporary Art, Boston
http://www.swift-tourism.
com/ica.htm

Kunstmuseum Wolfsburg
http://www.germangalleries.
com/Kunstmuseum_
Wolfsburg/index.html

フィッシュリ&ヴァイス
《In a Restless World》

at Wexner Center for the Arts, Ohio, U.S.A.

●四方幸子



日常のドラマの虚無性

日常の事物および世界は、それがあまりに 自明である(かのように無意識化されている) がゆえに、わたしたちにあえて強列な印象や驚きをよびおこすことがほとんどない。しかしそのような驚きが、日常の襞の中から突如浮上しはじめ発見にいたったときの喜びはひとしおだろう。
  しかし本当にそこには驚きやドラマが隠されているのだろうか。それ自体がじつは巧妙につくられた虚構であり、つまり驚きは、驚くという行為それ自体を目的としてわたしたち自身が無意識的に待ち望み制作したものだったとしたら。じつは世界には何の驚きも感動もなく、あるのは無意味に動き続ける現象だけだったとしたら……。このような考えは人を不安にする。人々は世界や人生になんらかの意味付けをしたいという衝動にかられながら日々をやり過ごしている。特に神話を喪失し、モノそして情報がただ加速的に飛びかう現代においては。
  もちろん世界には驚きもドラマもない。それが生まれるのは、それを期待する折り込まれた人間の心理においてのみである。そしてそれをお互い容認してしまえば、世界は共有しあえ、ドラマに満ちたものとなるのだ。

レストレスなオブセッション

けっして大規模ではないものの、フィッシュリ&ヴァイスの70年代から現在までの作品が紹介されたこの展覧会では、さまざまな角度から扱われた日常的な事物もしくは風景があらわれる。キッチンやピーナツなどをモチーフにした粘土細工や彫刻、椅子やビン、ソーセージなどを組み合わせたりストーリー仕立てに構成した写真(時に大仰なタイトルがつけられる)など、どうしようもないほどバナルな即物性によるペーソスとドラマが結果的にかもしだされる(ことがねらわれている)。あたかも神が舞い降りるように、意味が宿る(ように思われる)一瞬である。胸あたりまである大きな壷の内部には、だれしも世界や人生に関してふとわきおこるモノローグとしての問い(「ワタシはみんなに好かれてる?」など)が、底を中心にいくつも渦巻くように書かれている。それはまたプレーヤー上のレコードの回転や、えんえんと穴の中をめぐっていくのみの映像へと変奏される。つねに転移によって影響が連続していく「事の次第」の世界。ヴェニス・ビエンナーレのスイス館で発表された、多くのモニターによるさまざまな日常の光景(そこでは表面的な差異のむこうにすべてが反復的で等価的なものとしてあらわれる)の脱中心性。
  〈レストレス〉、つまり落ち着かず不安で、絶えず動き静止することがない/いやできない世界。疑問で頭がいっぱいで、世界そして自分の存在理由を探しつづけないといられないオブセッション。そんな人間の欲求を尻目に、世界がただそこにあるだけだとしたら。

暴露される世界の無意味性

フィッシュリ&ヴァイスはまったく関係のないものを恣意的に組み合わせることによって、そこに一瞬のスパークをもちこむ。あくまで冷静な、事故や出会いの制作である。
  実際世界は勝手に存在し、作動しているだけであり、たまたま偶然にさまざまなものが出会い、ぶつかったりすると、人は何らかの意味をそこに読み取ろうとする。現象から意味の配列を、もっともらしくねつ造してしまう。世界によるべもなく投げだされている人間は、〈レスト〉(休息、よりどころ)を求める。無意味への恐怖、それは人間の不安の創造物なのだ。そのような妄想で仕立てあげられたヴァーチャル世界にフィッシュリ&ヴァイスは、あえて偶発的な所作を加えることによってその虚構性を暴露する。そこで定位される世界の無意味性は、はからずもアートの無意味性をも露呈してしまうだろう。
  ウェクスナー・センター・フォー・ジ・アーツというピーター・アイゼンマンによる建築空間が、フィッシュリ&ヴァイスの作品から発される一種のオブセッションとうまく連動していたことを付記しておく。

[しかた ゆきこ/美術批評家]

toBottom toTop



Art Watch Back Number Index

Mar. 11, 1997 Apr. 15, 1997


[home]/[Art Information]/[Column]


Copyright (c) Dai Nippon Printing Co., Ltd. 1997
Network Museum & Magazine Project / nmp@nt.cio.dnp.co.jp