The Best of 1997/1998 1997年のアートシーン/1998年のアートシーン |
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山口裕美 美術ジャーナリスト | |
1997年のアートシーン 1――評価した展覧会/イベント/作品など ●《「漂流教室」-イメージの図書館から-》 京都国立近代美術館 これは、今までの学芸員がある意味では、なめていた、ワークショップを非常に丁寧に構成したもので、18人の中学生に個性豊かな展覧会を企画させ、それぞれの考えを深め、「自分の頭で考える」ことを実践させた日本では希有の展覧会だったと思います。実際に展示されたものでは、中学生が自分で描いた絵にまじって、所蔵品のオリジナルである写真作品(アンセル・アダムスやエバンスなど)が展示されたり、彼らが美術館の壁に自由に絵を描いたりしている姿は本当の意味での美術体験であったろうと感じました。企画者の河本学芸員とそのワークショップ講師をつとめた関西在住のアーティストの皆さんに心から敬意を表する。 ●《ドクメンタ10》 ドイツ、カッセル市 世界中の美術関係者がブーイングする中で、私個人はいやではないし、非常に貴重な展覧会だったと考えている。また、カタログに書かれた20世紀を総括するテキストは今後のたくさんの課題を提示している。特にディレクターがカタログに明示した「アジア的熱狂を避けた」という一文は的確だと思うし、所詮、階級闘争のない社会にアートが根付かないのではとも思う内容だった。 ●スティーブ・ライヒ『THE CAVE』 日本人には理解しにくいユダヤ教とキリスト教、旧約聖書、新約聖書そしてニューヨークのユダヤ人たちと言った、ほとんどがなじみのない、しかし非常にアートワールドとは密接なものを入門編として体験するのに非常に良いものだったと思う。また、その綿密な作り方、映像と音楽の一体感、ライヒならではの「非常にいい仕事」振りだったと思う。 2――活動が印象に残った人物 海外で精力的な活動をした、宮島達男、柳幸典。 新しいタイプのアーティストの出現として、森万里子。 ニューヨーク近代美術館のコンペを勝利した、建築家の谷口吉生。 3――記憶に残った動向/トピックスなど 安藤忠雄さんの東大教授就任。(蓮実学長就任も含む) 揺れる14才。(酒鬼薔薇事件、エヴァンゲリオンのヒット) ネットの急激な普及。 セゾン美術館の休館宣言。 |
《「漂流教室」-イメージの図書館から-》 (下)西岡 勉氏(デザイナー) との打ち合わせ 写真:京都国立近代美術館 nmp.j 1997年7月24日号 ドクメンタ10 ●名古屋 覚 作品ガイド:ドクメンタ10 ●名古屋 覚+村田 真 nmp.j 1997年10月16日号 洞窟から踏み出す一歩 ライヒ+コロット『THE CAVE』 日本公演&ヴィデオ・インスタレーション ●伊東 乾 『THE CAVE』のステージ 写真:シアターコクーン nmp Art Watch 1997年4月29日号 いかにエヴァンゲリオン・スタイルは 生成したか 『新世紀エヴァンゲリオン劇場版/ シト新生』 ●五十嵐太郎 |
1998年のアートシーン 1――期待する展覧会/プロジェクト/作品など 若手のアーティストの先駆けとして行われる春の森村泰昌展 東京都現代美術館がいよいよ、その真価を問われる展覧会であると思う。 この展覧会を成功(現在、成功とは何かという定義が難しいが)させることによって、今後の企画にも少なからず影響がある、のではないか...。 2――活躍が期待される人物 ●ポストペットでデジタルマルチメディアグランプリを受賞した八谷和彦の今後。 ●非常にダイナミックなプロジェクトを次々と成功させているアメリカ在住の田甫律子。 ●90年代のアーティストにふさわしく、謎のパフォーマーとしても活躍中の岡崎太威。 ●銀座から渋谷方面へアートシーンの中心を変えるかもしれない、若手の仕掛人たち。P-HOUSE秋田敬明、福嶋輝彦、レントゲンクンストラウム池内務ら。 3――1998年はどのような変化があると思いますか ●個人的に追いかけている分野でもあるが、映像表現をする若手に期待している。新しい機材・ツールが出現し、デジタルな表現がより身近になりつつあるので、今までのような制限を超えた表現が可能になり、またその普及もより速く、より正確に、より大量に伝えることになる。その意味では、映像の周辺にいる、イラストレーターやコンポーザーなどを含む、様々な分野のアーティストがユニットを組んでの活動がより面白くなると思う。大変楽しみである。 ●アムステルダム、ボスニアヘルツェゴビナ、トロント、バンフというように移動しながら、メッセージを発信しているネット系のアーティスト達や、ニューヨークのチャイニーズ系アメリカンのアーティストも非常に面白い活動をしているので、期待している。 *アーティストのみなさんへ一言。 命がけ、の気合いの入った作品を見せてください。 そういう作品を展示するのであれば、世界中どこへでも見に行きます。 |
nmpj.1997年11月27日号 東京アートフィールド 漂白された部屋の血痕 P-House Gallery 《Phantom-Limb》小谷元彦展 ●槻橋 修 |