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ArtDiary ||| 村田 真のアート日記
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5月20日(水)

昨日に続いて2匹が相次いで変態。なんの話かって?「アゲハの観察日記」だ。鉢植えの山椒の木にアゲハの幼虫が孵って、今マイブームなのだ。6匹のうちこれで4匹が緑色に変身。一番でかいヤツ(イチロウと命名)はすでに4センチ近く、朝と夜とで大きさが違ってるのがわかるほど。つい先週まで木の下のほうで存在感なく暮らしてた一番小さいヤツ(末男)も、いつのまにか2センチを超し、もうすぐ脱皮だ。
 しかし、でかくなるにつれ食べる量もスピードも加速度的に増してきた。前は葉っぱ1枚食べるにも半日がかりだったのが、今じゃ2〜3枚たて続けに平らげて、茎までかじってる。糞も巨大化して、つい2週間ほど前の自分の体くらいの黒い固まりをまき散らす。体長が2倍になれば食べる量は8倍、それが6匹もいるんだから、サナギになる前に葉っぱが食い尽くされてしまう心配も出てきた。
 これを見て、月並みですが、地球上の人類を思いますね。限られた環境の中で人口が急増し、資源が食い尽くされ、廃棄物がたまっていく。個体によって進歩の速度が違うのも人間と同じ。すると、脱皮の時期が産業革命で、資源が枯れる前にサナギになりそうなイチロウと次郎がアメリカとEU、まだ脱皮前の黒い五郎と末男が東南アジアとアフリカあたりか。実はこの山椒には体長1センチほどの尺取虫もいて、こいつはスリムなので、慎ましく葉の表面をこそげるだけなのだが、今、イチロウ改めアメリカの脅威にさらされて、居場所を追われようとしている。ネイティブアメリカンだろうか。

5月22日(金)

五郎が変態。残る末男は相変わらず黒い皮を被ったままじっとしている。ここだけ読むとヘンタイ日記か。イチロウと次郎の食欲は増す一方で、まるまる太って体長は5センチ近く、太さ約1センチ。おかげで山椒の樹冠はほとんどハゲ上がってしまった。
 昼過ぎ、末男が大きく体を伸ばし始めた。「お、これは!」と思って見てると、体をくねらせながらニョキニョキと皮を脱ぎ始めたではないか。5分足らずで青い肌が露わに。全部見ちゃいましたよ奥さん。いや、末男だった。青い性。

5月23日(土)

銀座の画廊に寄って、東京ステーションギャラリーの「ファッションinアート」展を見る。19世紀後半から20世紀初頭までの絵に描かれたファッションを通して、ヨーロッパの市民生活にモダニズムが成熟していく過程を示すというもの。狙いはいいんだけど、作品はクリムト以外2流3流品ばっかなんだから、もう少し当時のファッションや生活について突っ込んでほしかった。
 夕方、仕事場に行くと、うわっ大変、山椒の葉っぱがほとんどなくなってる! 今日1日で、これまで20日間に食べた量と同じくらいの葉っぱを食っちめえやがった。イチロウや次郎はもういつサナギになってもおかしくないほどでかいけど、五郎や末男はこれから育ち盛りなんだぜ。少しは兄弟のことも考えろよ。人口問題と同じで、今日あたりが人口が爆発的に増大する20世紀だったか。いや、もう世紀末だ。この山椒を買ったスーパーにあと1鉢売れ残ってたのを思い出し、買いに行く。

5月25日(月)

わっ、2鉢目の葉っぱももうほとんどない。早くサナギになっちくり〜と思ってたら、イチロウと次郎を差し置いて三郎が下痢便を出した。下痢便はサナギになる兆候なのだ。サナギになる場所を探してるらしく、あっちこっち盛んに動き回るので、ゴムの木に移す。いつのまにか尺取虫も3センチくらいに成長して、葉っぱをバリバリ食ってやがる。

アゲハの蛹化
http://www.crdc.gifu-u.ac.jp/mmdb/ageha/youka/index.html
5月26日(火)

次郎も下痢便。今度はボール紙で箱をつくってその中に移す。三郎は紡錘形に固まってしまった。あと4匹は丸裸になった山椒の枝をかじってる。もう知らないからね。

5月27日(水)

とうとう4匹はいなくなってしまった。エサを求めて壁を這っていったか、あるいはカラスにでも食われたのか……。三郎と次郎は完全にサナギに姿を変えた。内部はどうなっているのやら。表面はそれぞれ緑色と灰褐色でカモフラージュ。

5月30日(土)

久々にアートの話。月刊ギャラリーの元編集者、斎藤博美のクルマに愛する妻と乗せてもらって、群馬県立近代美術館の「ヨーロッパからの8人」展を見に行く。斎藤はイジメがいがあっておもしろいのだが、今日はイジメないという約束で同乗を許される。途中、ファストフードとサービスエリアでつまみ食い。
「ヨーロッパからの8人」は、ぼくの聞いた範囲では評判はあまり芳しくなかったけど、従って期待しないで行ったのだが、意外とおもしろかったっすよ。こけおどしでもなければこびるふうでもなく、淡々とアチラ側の世界をかいま見せてくれる。まさにこれがアートなんですね。特にフランツ・ウェストとフィッシュリ+ヴァイスは最高。まだ見てない人はぜひっつってももう終わりか。
 帰りに高速に乗る前に蕎麦屋でうな重と天丼とソバ食って、高速を降りたら練馬で斎藤の母ちゃんの店で無銭飲食。よう食うなあ3人とも。

現代美術棟開館記念《ヨーロッパからの8人》展
会場:群馬県立近代美術館
会期:1998年4月11日〜6月14日
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