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美術教育を考える-3

レッツ・トーク・アバウト・アートセンター
――CCA北九州「Let's Talk about Art 1998」
村田 真

1997年5月に発足した現代美術センター〈CCA北九州〉は、グローバルな視点から運営されるコンテンポラリー・アートの公的な研究・学習機関。その活動内容は、20〜30代の若い世代のアーティストおよび研究者向けの1年間のリサーチ・プログラムを中心とするが、出色なのは、国際的に活躍するアーティストや専門家を教授・講師陣に迎えていること。
 先月、そのうちの数名が来日し、3月19日にスパイラルでCCA北九州主催の東京セミナー「Let's Talk about Art 1998」が開かれた。出席者は、クラウス・ビーゼンバッハ(ディレクター/クンストヴェルケ、ベルリン)、アラナ・ハイス(ディレクター/PS1、ニューヨーク)、マリーナ・アブラモヴィッチ(アーティスト)、中村信夫(ディレクター/CCA北九州)ら、計6人。以下に各氏の発言概要をお伝えする。

クラウス
今日の出席者はみなアートセンターの創設者。私は23歳の時にベルリンの壁が崩れ、東側に移った。初めはだれかがアートセンターをつくるだろうと思っていたが、そんな人はいないので、自分が〈クンストヴェルケ〉をつくった。クンストヴェルケはギャラリーや事務所のほか、レジデンス、カフェ、ブックショップなどを備えているが、従来の美術館とは違ってコレクションはない。特徴は、アート、音楽、演劇を含めてコンテンポラリーであること、つまり今日的な表現を求めている。それから国際的であること。アートセンターは開放的で移り変わる場だが、美術館は対照的に閉鎖的で静的。

アラナ
〈PS1〉とは「パブリック・スクール1」(日本流にいえば第一小学校)のこと。廃校になっていた小学校をアートセンターにしたもので、あえてもとの名を使っているが、PS1のディレクターというと学校の校長に間違えられる。創設は1976年。有名無名を問わず、一緒にやっていきたいアーティストを呼んでいる。70年代の特徴は、現状に満足しないアーティストの主導でギャラリーやセンターができたということ。90年代も若いアーティストが同様の動きを見せている。PS1は97年に800万ドルかけて増改築した。

中村
89年に北九州に講演に行った時、「お祭り騒ぎだけでなく将来に残るものをつくりたい」と地元の人から相談を受けた。ポントゥス・フルテンもパリで学校をやっていた(昨年閉鎖)ので、彼の協力でサマーセミナーを始めた。こういうことは行政に関わってもらわないとできないが、100パーセント自分たちの考えでやりたい。97年5月にオープンしたが、予算はほとんどなく、建物も間借り。図書館、事務室、ギャラリーは地元の大学から借り、スタジオは小学校の体育館。なぜCCAをつくったかといえば、今の美術館に不満を持っているから。アートセンターなら毎年方針を変えてもかまわないし、アメーバのように変化できる。

マリーナ
パルチザンの両親のもと、ベオグラードに生まれ、69年からパフォーマンスを開始。その時「センター・フォー・アンプリファイド・アート」というアートセンターを自分で勝手につくった。なにしろユーゴスラビアでは自然発生デモを起こすにも、2年前に申請しなければならなかったのだから。アートセンターの場合、どういう機関かよりだれがやっているかが重要。PS1ではなく、アラナ・ハイスだから信用できるというように、その人の信念とヴィジョンが必要。私がCCAで教えるのは経済的な問題からではなく、私自身が没入できるから。そして、若い人と接触できるから。

cca
CCA北九州
校内
校内
ギャラリー
プロジェクト・ギャラリー
プロジェクト・ギャラリーでは、1997年、マリーナ・アブラモヴィッチ、ジョン・ミラー、チェン・ゼン、ジュリアン・サルメント、ラングランズ&ベル、ダニエル・ビュレンヌらの展覧会が開催された。

以下はディスカッションから、コンテクストを無視して抜粋。

クラウス:アートセンターは、我々の創造性や可能性を開花させてくれる。

中村:CCAでは教育ではなく学習といっている。教えるのではなく、学ぶ。講師も生徒も相互に勉強になる。

マリーナ:CCAは世界一のアートセンターになりたいという明確な意志がある。東京にあっても意味がない。北九州だからこそ意味がある。

クラウス:CCAはひとつのテーブル。議論のテーブルであり、ケンカのテーブルだ。

中村:CCAは100パーセント北九州市の出資。今年から地元とのプロジェクトを始めるが、地元に対して義務はないと考えている。

マリーナ:日本は巨大な官僚組織という感じ。変化に対して柔軟でなく、アートがやりにくい。東京都現代美術館の館長も、美術の人というより官僚の人。

アラナ:日本にはデパートの中に美術館がある。もし私がアメリカでそれをやれば、きわめてラディカルに見られるだろう。

中村:そろそろホンネで話し合おう。我々はその場を提供するだけ。その輪にひとりでも多くの人が参加してほしい。

このあと、クラウス・ビーゼンバッハによるベルリン・ビエンナーレのプレゼンテーションが行なわれ、閉会。


ライブラリー
石飛ライブラリー

スタジオ
スタジオ

◆CCA北九州ディレクション(運営陣)
中村信夫…ディレクター
三宅暁子…アシスタント・ディレクター

◆インターナショナル・コミッティー
マリーナ・アブラモヴィッチ(アーティスト)
ダニエル・ビュレンヌ(アーティスト)
ハミッシュ・フルトン(アーティスト)
ローレンス・ウィナー(アーティスト)
クラウス・ビーゼンバッハ(ディレクター/クンスト・ヴェルケ、ベルリン)
サスキア・ボス(ディレクター/デ・アペル現代美術センター、アムステルダム)
デイヴィッド・エリオット(ディレクター/ストックホルム近代美術館)
河本信治(主任研究員/京都国立近代美術館)
ジャン・ユベール・マルタン(ディレクター/国立アフリカ・オセアニア美術館、パリ)
ハンス=ウルリッヒ・オブリスト(キュレーター/パリ、ロンドン、ウィーン)

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美術と教育を巡って――中村政人インタヴュー
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