2019年06月15日号
次回7月1日更新予定

キュレーターズノート

Radlocal Practiceがめざすもの──メディア×地域の教育プロジェクト

石川琢也(山口情報芸術センター[YCAM]エデュケーター)

2019年01月15日号

前回までの2回の寄稿では、YCAMが行なう「食」をテーマにした新プロジェクト「ひと口から考える食のエコシステム StudioD」について、その背景や、狙いについて紹介してきた★1。今回は、このプロジェクトのサブタイトルである「Radlocal Practice」の意図、また現在の地域をめぐるアクティビティについての考察、そして今後の展望について紹介していきたい。

★1──次の記事を参照「『食』をめぐるYCAMの新プロジェクト──ひと口から考えるエコシステム」(2018年06月01日号)、「ハンバーガーの『ひと口』から食のあり方を考える──YCAMの新プロジェクト『StudioD』のしくみ」(2018年10月01日号)。

Radlocal Practiceとはなにか

RadlocalはYCAMが2014年と2016年に開催した人材育成プログラムである★2。地域や公共空間に対し、その課題を見つけ出し、幅広い発想力によって適切な解決策を提案できるプロデューサーやプランナーなど、新しい視点から地域の文化の創造を担うエキスパートを育成することが狙いである。

YCAMが展開している「スポーツハッカソン」や「コロガル公園」など教育プロジェクトに通底している事のひとつに、モノや空間の役割を機能として捉え直し、メディアテクノロジーをサンプリング的に組み合わせ、新しい用途へと変化させることが挙げられる。例えば、スポーツハッカソンにおいて、玉入れは完結した競技としてではなく、新しい競技を生み出すための素材となる。玉を拾ってカゴに向けて投げる、落ちてきた玉をまた広い投げる、という一連の行為として参加者は捉え直し、そこにメディアテクノロジーが介在することで新たなルールを設計することを試みていく。それらは伝達される知識ではなく、行為を通じて自ら知識のなかに入っていくことを目指している★3

★2──「Radlocal」の「Rad」は、革新的という意味を持つ英語「Radical」の頭3文字であるとともに、YCAMが活動するうえで重視している「R&D(Research and Development=研究開発)」と両義的な狙いが意図されている。これらのマインドを持ちながら、メディアと地域を掛けあわせることによって、常識をくつがえす新しい提案が生まれてくることを期待している。
★3──ほかにも、過去のYCAMにおける2014年に実施したThink Thingsでも共通していることである。



スポーツハッカソン 2017[撮影:山中慎太郎[Qsyum!] 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]]



スポーツハッカソン 2018[撮影:塩見浩介 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]]


そうしたYCAMの教育アプローチを地域や公共空間といった舞台に転用できる人たちを増やそうと試みたのが、Radlocal である。Radlocalのレポートページでも言及されているが、こうした都市圏を含めたハッカソンのプログラムでは参加者がすぐ持ち帰れる手法、視点、体験、人との出会いが生じ、高まる意欲のまま各地域に戻ることとなる。一方で、実践を進めていくなかで生じる、合意形成のためのハードルや、活動資金、住民のコーディネーションなどの困難については、実体験として中長期での実現に向けた試みが必要である。ここは既存の教育プロジェクトと大きく異なる点でもある。

それゆえ、Radlocal Placticeでは、ひとつのテーマを年間を通じたアクティビティのなかで、試行錯誤を繰り返していくことを試みた。今回の「ひと口から考える食のエコシステム StudioD」はその第一弾として、店長を担う人物が「食」というテーマで、さまざまな転用を試みていくR&Dシェフの育成を目指した。次年度以降は、食以外での分野でも同様の取り組みを模索していくこととなる。今後の展開を見越して、現在の地域をめぐるアクティビティについて言及したい。



Radlocal2(2016)講評会の様子。全国から集まった参加者は4日間でレクチャー、リサーチ、グループワークを経て、最終日にプレゼンテーションを行なう。テーマは「5年後のセンシングツールが日常的になった地域社会」。
[撮影:萱野孝幸 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]]



Radlocal2(2016)のプレゼンテーションで発表された案「で会いましょうベンチ/夜の商店街運動会」(チームB)
[イラスト:望月梨絵 提供:山口情報芸術センター[YCAM]]


地域を舞台に活躍するプレイヤー──スケールとサスティナブル

Radlocalの2回目が開催された2016年から現在を比較すると、都市圏から地方に人を集めるようなタイプのハッカソンは、一定の役割を終えたように思える。一方で、地域を舞台に活躍するプレイヤーたちの存在は日増しに増えている。例えば、瀬戸内圏域で活躍するクリエイターやアーティストを集め、各地の取り組みを共有し、瀬戸内の未来を考える「瀬戸内経済文化圏 OPEN SUMMIT」という取り組みがある。和歌山、大分、岡山、広島、山口、福岡、愛媛、香川、徳島、兵庫、大阪からそれぞれ1つの事業体やプレイヤーが参加し、地域どうしの新たな交流の顕在化を試みている(2018年は山口県からYCAMが参加した)。個人から企業まで、活動のレベルにはばらつきはあるものの、全体の傾向としては、イベントや商売を通し、活動している人たちが多く見受けられる。



瀬戸内経済文化圏 OPEN SUMMIT


また別の地域をめぐる動きとして、人口に応じたインキュベーションやローカルベンチャーがある。人口5万未満、10万〜20万、100万人といったスケールごとに、特徴的なインキュベーションやローカルベンチャーの活動を見聞するようになった。例えば、人口1,500人ながら、林業を中心に10社以上の起業家を生み出している岡山県西粟倉村や、2001年に慶應義塾大学先端生命科学研究所(先端研)の誘致に成功し、これまで合成クモ糸の量産技術を開発したSpiberなどのベンチャー企業群を生み出した山形県鶴岡市などである。スモールサイズのアクティビティから、自治体が本腰を入れて地方の未来を形成していく動きなど、産業創出を軸にさまざまな取り組みをみることができる。

ここで海外の動向にも目を向けてみたい。世界的、特にヨーロッパでは近年、「オランダ版SXSW」ことボーダーセッションが示すような、サスティナブルがデフォルトの条件としたサービスや起業が主流となっている。日本でも地球環境にコミットしたサービスなども増えてきているものの、こうした動きはそれほど多くなく、特に地方においては探すことが難しい。地方にとっては、明日の地域を存続させることが何よりも課題としては大きく、サスティナブルの意味合いが異なり、産業創出こそ地方の至上命題とも言える。

Radlocal Practiceがめざすもの──たとえばスケートボードを使いこなすように

上記の動きと相対するように都市圏での興味深い動きがある。声高にサスティナブルを掲げるでもなく、シリコンバレー的なイノベーションを意欲的に目指すでもなく、社会起業家のように「世のために」という意識でもない、もっと軽やかでありながらも、大胆に、自分たちが見つけたやり方で社会のあり方を変えようと動く人たちである。ひとつの例として、モバイルハウスの制作を通して「住む」ことを再定義するSAMPO.inkを挙げたい。20代前半の彼らは、必要なものに過不足なく満たされた都市だからこそ、肌感覚で社会の違和感を捉える。スケートボードを使いこなすように、等身大のアイデアとテクノロジーで、違和感に対するアンサーを形作りだそうとする実験的な心意気を感じさせる。

不足の充足を目指す地方において、上記のようなマインドをどのように育むことができるだろうか。このあたりが現在、構想している次のRadlocal Practiceのコアなテーマとなる。中心となるのはYCAM近隣の高校・大学生たちであり、YCAMのような地方のアートセンターが担う新しい学びの動きを目指していきたい。その軸のひとつはOJT(On-the-Job Training)をベースに、デザイン、アートについて知り、実践的なスキルを学ぶ機会をつくること。ここでのjobとは、YCAMが定常的に開催しているワークショップの運用から、地域にあるクライアントワークまで含めてグラデーションを広く捉えている。そしてもうひとつは、参加メンバーのなかでの自発的なサークル、アソシエーションがうまれる循環をつくりだすことである。これは東京都美術館と東京藝術大学が進める「とびらプロジェクト」が行なっている活動に近い部分もあるだろう。そのアソシエーションでは、スポーツハッカソンで行なわれるようなテクノロジーや道具の転用からうまれる遊びであってもよいし、起業を目指すものでもよい。地方でのアクティビティがスモールサイズから大きなインキュベーションまで、多様かつ、充実してきている状態だからこそ、この場所だからできる、実験的な精神を抱いた人が学び育つ環境を模索していきたい。

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