2020年12月01日号
次回12月15日更新予定

キュレーターズノート

アッセンブリッジ ・ナゴヤ 2019
現代美術展「パノラマ庭園─移ろう地図、侵食する風景─」

吉田有里(MAT, Nagoya)

2020年01月15日号

前回の記事に続き、アッセンブリッジ・ナゴヤ 2019の後編(前編はこちら)。

2016年から、港まちを庭に見立てた「パノラマ庭園」のタイトルのもと「移ろう地図、侵食する風景」を副題に2年に渡るプロジェクトを展開してきた。
アッセンブリッジ・ナゴヤがスタートしてからの4年間、港まちの風景は変化を続けている。建物の取り壊しや商店の閉店、空き地や空き家の増加の一方で、駐車場や高層マンションの建設などが進んでいる。このようなまちの変化を受け止め、観察を続けるとともに、このエリアを起点としたアーティストの滞在や調査、パフォーマンス、コレクティブワークなど、制作活動の総体を「プロジェクト」と定義し、この場で生まれた新たな表現を紹介してきた。
今回は、後編として参加アーティストの中から、折元立身、千葉正也、山本高之を紹介する。

アッセンブリッジ・ナゴヤ2019
現代美術展「パノラマ庭園─移ろう地図、侵食する風景─」

折元立身
《おばあさんのランチ》

折元立身は、1970年代のニューヨークで前衛芸術運動やフルクサスに関わり、帰国後は川崎を拠点に活動。認知症を抱えてきた母親を20年近く介護しながら母親との共同制作とも言える「アート・ママ」シリーズや顔一面にフランスパンを貼り付けコミュニケーションをはかる「パン人間」などのパフォーマンス、ドローイング、写真、オブジェなど数多くの作品を発表し続けている。

今回は、これまでポルトガル、イギリス、ブラジル、デンマーク、川崎、広島など世界各地で開催してきたプロジェクト「おばあさんとのランチ」の記録写真やドローイング、記録映像を一堂に公開しプロジェクトのドキュメント展示を行なった。

このプロジェクトは、戦争、災害をはじめとした社会変動とともにさまざまな時代を生き抜いてきた女性たちへの尊敬と感謝、賞賛の意を込め、各地で女性たちを招待し、ランチを振る舞うというパフォーマンスである。その土地ごとに、参加者を集め、その土地にまつわるメニューが構成される。

[撮影:三浦知也]

場所や時代、言語が違えど、折元と参加する女性たちとの関係からは、個人的な経験や記憶を超えて「食」という場を共有することで「生」を肯定し、奇跡的な瞬間や愛おしさに満ちた時間が普遍的で当たり前のものとしてその場に創出される。

会期中、この名古屋港エリアでも《おばあさんとランチ in 港まち》を開催した。折元と港まちを巡り会場に選んだのは、名古屋港らしい風景が広がるガーデンふ頭にある公園。約10メートルのテーブルを設え、折元が港まちの女性26名をエスコートして入場してくる。アーティストランスペースのArt Space & Cafe Barrack(近藤佳那子、古畑大気)とともに用意したこの日の特別メニューは、名古屋の喫茶店文化からイメージした味噌カツサンドイッチやポタージュ、サラダなどのプレート。正装した折元とともにサーブするのは、港まちの社交場である「NUCO」のカフェメンバーたち。

[撮影:三浦知也]

中盤で折元の「パン人間」パフォーマンスが始まり、躊躇する者、歓声を上げる人、さまざまな反応が起こり、自分たちの暮らす土地での非日常的な体験を楽しみ、会話の絶えない賑やかな時間となった。

[撮影:三浦知也]

パフォーマンスを終えた折元は、名古屋の観光地がプリントされたポストカードに参加者を顔をドローイングし、今は亡き母親宛にメールアートとして投函した。その後、ドローイングは、展示室に追加展示された。

[撮影:冨田了平]

千葉正也

千葉正也は、自身が飼っている陸亀とその水槽、さらにそれらを取り囲んだ状況をつくり込み描く「タートルズ・ライフ」シリーズや、自作のオブジェや日用品、既存のイメージなどを構成し、それらをモチーフとした絵画やドローイング、インスタレーションを制作している。今回は約2か月ほど港まちに滞在制作し、旧・名古屋港税関寮の2階建、約500平方メートルの建物全体を用いた大規模なインスタレーションを発表した。

状況を列記していくと、建物のそれぞれの窓から、ベニヤでつくられたラフな造形のハート型の立体が飛び出している。室内からは、音の破れたスピーカーからハワイアンのサウンドが流れ、入口にあるスリッパに白字で、トイレの壁にマジックで、庭にはスプレーで「?」マークが描かれている。また?柄のジャケット、?がプリントされたワインのラベル、インターネット上から集めてきた?の画像など、無数に広がる「?」のイメージが空間に増殖し、その様子は一部監視カメラによって撮影されている。

[撮影:冨田了平]

階段や部屋の角には何台もの扇風機が稼働し、風を送り続ける。その風に乗って90年代に流行した香水が微かに匂う。カルバン・クラインの香水の箱から構造体が飛び出すオブジェ。暴力的な描写のドローイングシリーズ、ネット配信ドラマのタイトルが描かれたドローイングたち。スローモーションで揺れる植物の映像。「Please give me a plenty of water every thursday」と描かれた絵画が引っ掛けられたオリーブの木と、庭には金色のチェーンが巻かれた木。貴乃花、貴花田の手形のあるサイン色紙が壁に貼られ、その手形に向かって3本の手が伸びる立体作品などが展開されている。

[撮影:冨田了平]

[撮影:冨田了平]

それぞれが混沌として関連性が掴みにくいのだが、そのうちのいくつかの作品がそれらを結びつける役目となって関係性をつくり出している。

まずひとつは「There are 45 artworks」と記された絵画があり、この館内にあるドローイング、サウンド、映像、オブジェなどを含む45作品が存在していることが示唆される。

また、2階中央の畳の大広間には《タートルズ・ライフ#7》として、千葉自身が長年飼っている陸亀が暮らす部屋が設えてあり、その中には、館内中の「?」を撮影した監視カメラの映像がモニター上で映し出されている。室内の囲われた場所で暮らす陸亀に外の世界を見せる構図が示すように、この建物内にある作品群が、室内だけで完結するのではなく、外部の風景を反転して取り込むかのように、時間、空間のレイヤーが複雑に交差していることがわかる。

[撮影:冨田了平]

《ハートに光を当てる》では、約30名のエキストラが、バスターミナルを隔てた向かいの市営住宅から飛び出すハートを目掛けて、手鏡で太陽光を反射させ、ハートを着火させるドキュメントである。建物内から飛び出すハートは、内と外、時間と場所をつなぎ、目に見えない光を火に変化させて、可視化させる存在として際立つ。

《ハートに光を当てる》撮影の様子

実はこの空間自体が、千葉が絵画を描くためにつくり出してきたさまざまなものを配置した状況であり、ここでの試みがひとつの絵画作品へと至る過程を体験する装置のようである。そして一部種明かしをすると、会場内で流れていたハワイアンは、港にある展望室にあるスピーカーから流れる音を採録したものであり、植物が揺れる映像は、滞在期間中に通過した大型台風の風に巻き上げられる植物であり、貴花田の色紙は、近所の赤提灯で飾られていたものから着想を得て、貴花田から貴乃花への時間軸の層位を示していたりと、千葉自身がこの場所に滞在した時間から即興的に拾い上げたさまざまな事象が、具体性を持ちながらも抽象的である表現へと取り込まれている。この作品を鑑賞する観客が、いつしか千葉の作品内部へと入り込むような体験となった。

山本高之
山本高之と名古屋オリンピック・リサーチ・コレクティブ[ N.O.R.C. ]
《Days of Future Past》

2017年にアートラボあいちで立ち上がった山本高之による「名古屋オリンピック・リサーチ・コレクティブ」プロジェクトでは、「オリンピック」や「博覧会」など都市型イベントについて学び考える場を継続的に開いてきた。

たとえば、1988年のオリンピック候補地として(88年の開催地はソウル)愛知県と名古屋市も誘致活動を行ない「幻の名古屋オリンピック」に関する資料の収集やインタビュー、フィールドワークなどを行なってきたのがこのプロジェクトである。

リサーチワークショップの様子

リサーチワークショップの様子

そのなかで、さまざまな事象が因果関係で結びついていることがわかる。当時推進・反対ともに多様な活動が展開されていたこと、メイン会場に想定されていた名古屋市・平和公園に、かつて陸軍の演習場であった時期があり、鉛による土壌汚染のため現在も一部立入禁止の場所があること、1984年の東山動植物園へのコアラ登場以来ユーカリを育てている場所があるなど、複雑な歴史を知る。またオリンピック構想の挫折後、1989年の世界デザイン博覧会、2005年の愛・地球博、そして2010年からはあいちトリエンナーレが始まり、文化を軸とした地域づくりが展開され、現在に至っている。

[撮影:冨田了平]

[撮影:冨田了平]

幼少期に、名古屋で博覧会などの大型イベントに参加したときの違和感や疎外感が、少なからず現在の制作活動に影響していると語る山本が中心となりスタートしたこのリサーチでは、山本が小学生のときに初めて見たという東山動物公園のコアラ、その餌となるユーカリ、「タイムボカン」シリーズや「燃えよドラゴンズ!」などの作曲で知られる山本正之へのインタビューなど「オリンピック」や「博覧会」に直接関わりのないような個々の事柄が、展示というフォーマットに落とし込むことで、点と点を線で結ぶような展開となった。

[撮影:冨田了平]

80年代から変わらず現代日本がいまなお見続けている「幻の夢」を冷ややかな目で観察する山本の視点が、本展では編集され、提示されていた。

港まちブロックパーティー

アッセンブリッジ・ナゴヤ最終週には、昨年に引き続き「港まちブロックパーティー」を開催した。ブロックパーティーとは、ブロック(街区)の住民が集まって行なう地域のお祝いや祭りを意味し、築港以来、多くの人やモノが行き交ってきた港まちらしく、さまざまな分野の表現者が集う一日となった。韓国伝統舞踊、DJ、ラッパー、ドラァグクイーン、弦楽四重奏、ゴスペル、アーティストなどのパフォーマンスに加えて、マーケットや地域の飲食店の参加、学区のバザーや子ども服の交換会などのブースも充実した。

[撮影:三浦知也]

[撮影:三浦知也]

今回は、惜しくも6月に閉店した公設市場のレジフロアや、港まちポットラックビルやその周辺の屋上を会場に、ライブやDJタイムなどを行なった。

港まちの風物詩である盆踊りの音に合わせて、季節はずれながらも住人や来場者、さまざまな分野のアーティストたちが、混ざりあって路上いっぱいに輪となり広がるクライマックスの光景は、これまでの活動が積み重なった瞬間であった。

[撮影:三浦知也]

[撮影:三浦知也]

同時期に開催していた「あいちトリエンナーレ2019」での出来事によって名古屋市が主催するこのフェスティバルもさまざまな場面で影響関係があった。私自身もあいちトリエンナーレの元スタッフとして、また芸術に関わるひとりの人間として、めまぐるしく変化する状況や、ネット上のコメント、ニュースだけでなく、直接届く声に対して、さまざまな感情が湧き上がり、自分にできることは何かと問い、多くの人たちと対話を重ねて、思考し続ける時間を過ごしてきた。この問いをこの名古屋で活動する者として受け止めつつ、このフェスティバルやアートプログラムの活動のなかで、引き続き考えていきたいと思っている。

今回発表したプロジェクトが必ずしも作品という最終形態だけではなく、今後どのようなかたちに変化し、まちや人びとにどのような影響を与えるか、まだ定かではない。アーティストは変化の連続をいかに掴み、プロジェクトを通じてどのようなアクションを起こすのだろうか。「地図」は現在地を示す記号の集合であり、土地の移り変わりを記憶し、記録するものでもある。

この場所から多彩な表現を発信し「現在」と過去や未来を接続することで、思考の場を広げるプラットフォームとなる場を維持していきたいと考えている。


アッセンブリッジ・ナゴヤ 2019

会場:名古屋港~築地口エリア一帯
会期:2019年9月7日(土)~11月10日(日)
※会期中の木曜、金曜、土曜、日曜、祝日開催
公式サイト:http://assembridge.nagoya/

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