2021年07月15日号
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キュレーターズノート

「Swing! Swing!! 大島よしふみ彫刻展」──50年の軌跡をたどる

橘美貴(高松市美術館)

2021年06月01日号

この春、彫刻家・大島よしふみの個展「Swing! Swing!! 大島よしふみ彫刻展」が高松市塩江美術館で開催された。
大島は1954年香川県生まれの彫刻家で、県内では駅前などに彼の彫刻作品が設置され、日常風景の一部になっているところもある。また、瀬戸内国際芸術祭には2010年の初回から継続的に関わっているため、「瀬戸芸」「男木島」「オンバ」というイメージをもつ人も多いだろう。しかし、大島の作品は、石と金属を併用した初期作品、2000年以降の「動く彫刻シリーズ」、2010年代の男木島での活動、今回コロナ禍で新しく制作した「揺れる作品シリーズ」と、多彩な展開を見せている。
本稿では、塩江美術館での個展とともに大島のこれまでの活動を振り返る。

素材を対比して見せる──石と金属を用いた初期作品

大島は、画家を志しつつも、高校1年生のときに先輩の彫刻制作を見て彫刻へと方向転換した。愛知県立芸術大学に進学して溶接と鋳造を学び、帰郷後に石を使い始める。鋳造による作品は中が空洞なのに対して、中身が詰まった石にパワーを感じたという。

ここで香川の彫刻について当時の状況を振り返ってみよう。香川県は庵治石が有名で、産地である牟礼町はイサム・ノグチ(1904-88)が1969年に住居とアトリエを構えたことでも知られる(現イサム・ノグチ庭園美術館)。高松市内の公園には《Play Sculpture》をはじめ、彼の遊具彫刻がいくつも設置されていることからも、県民には身近なアーティストだ。また、同じく庵治石に魅了された流政之(1923-2018)も1966年に牟礼にアトリエを構えており、大島が彫刻へ意識を向けたころは、ちょうど世界的な彫刻家が香川に集まり盛り上がりを見せていた時期と言えるだろう。


左:《MANDARA》(1993)高松市塩江美術館蔵/右:《聖の領域》(1996)高松市塩江美術館蔵


大学院卒業後、香川に戻った大島は石を使った彫刻作品に挑戦し始める。初期は、重くて硬い石と、軽くて(制作過程では)柔軟な金属を用い、素材の特徴を対比的に生かした作品群を制作した。

県立がん検診センターに設置された《WIND・OW》は、山状の二つの石の先端に流線形をしたゴールドのオブジェが乗っている。四万十川で見たトンボに着想を得たといい、不安を抱えた人が訪れるこの場所で、光と風を感じてもらいたいという願いが込められた作品だ。

1983年頃から始めた「地と空の接点のプラン」はステンレスパイプに石をつけた作品シリーズで、塩江美術館にある《MANDARA》(1993)もこの系列に属する。ハシゴ状になったパイプが石を貫き、石が宙に浮いているような作品だ。丸亀駅前で展示した《トンボの枝》(1992)も同じタイプの作品で、地面に置かれた直方体の石からハシゴ状のパイプが伸びる。人々の視線はハシゴに沿って空へと向かい、再び歪んだハシゴをなぞって地面に横たわる頑丈な石へと戻っていく。

これらの作品が伸びやかな印象を与える一方、《聖の領域》はどっしりとした存在感が強い。一見、数個の石が芝生に置かれているだけのようだが、石は真っ二つに割られ、そのわずかな隙間を覗くと小さなハシゴが見える。小さな生き物が本当にハシゴを上り下りしているのではないかと思わせる作品だ。

これらの石と金属の作品は、後の大島作品と比べるとオーソドックスな美術作品という佇まいをしているが、素材の特徴を対比的に見せる表現には、大島らしい遊び心を感じる。


枠組みを飛び越える──「動く彫刻シリーズ」

石と金属の作品群の次に登場するのが「動く彫刻シリーズ」だ。今回の個展でも入口の扉を開けてすぐに《トンボ》(2005)、《トンボⅡ》(2017)、《まいまい new》(2020)が登場する。3点のうちもっとも大きい《トンボ》は手で漕ぐ作品で、ハンドルを回すと後方のプロペラが回り、羽ばたくように羽が上下に動く。同じくトンボがモチーフとなったキックボード《トンボⅡ》も動かすことで羽ばたく作品だ。《まいまい new》はサドルに乗ってペダルを漕ぐ作品だが、いくら一生懸命に漕いでもその場でくるくると回転するだけで、その様子は少し滑稽でもある。


《トンボ》(2005)作家蔵


《トンボⅡ》(2017)作家蔵


《まいまい new》(2020)作家蔵


これら「動く作品シリーズ」の始まりは2003年に香川県文化会館で開催された「アート見にきまい!」展がきっかけだったという。この展覧会で「触ってもいい作品」をリクエストされたものの、大島の作品は屋外設置のものが多く、もともと触れることを制限していなかった。そこで、触ってもいい作品ではなく、触ってみたくなる作品を目指し、この「動く作品シリーズ」が生まれ、安全性を確保するために、石から木へと素材を変更していった。

「動く作品シリーズ」は遊具のようでもあり、大島は動かして初めて完成するものだと語る。まるでSF映画に出てきそうなこれらの作品では、楽しむことが重視され、芸術作品といった概念は取り払われているようだ。


島の風景になる──男木島での活動

より多くの人が大島の取り組みを目にしたのが、瀬戸内国際芸術祭だったろう。大島は初回の2010年の芸術祭に向けて2009年にオンバ・ファクトリーを結成し、2012年にもTEAM男気を結成している。どちらも男木島を舞台にした活動だ。大島は高校生のときに訪れた男木島の風景がいまなお変わらずにあることや、島民の人間性に惹かれて、活動の場所をこの島にしたという。そしてこの活動をきっかけに2014年には自身が男木島に移住し、島民となった。

芸術祭では、何人ものアーティストが島に滞在し、島の環境や歴史をリサーチして作品へと昇華させる。アーティストによって島を捉える視点は異なり、島民との関係性もさまざまであるなかで、大島が意識したのは、芸術祭終了後に撤去されるものではなく、島で使ってもらえるものだった。そこには、自分が関わることによって、昔見た景色を残す男木島を変えてしまうことになるのではないかという恐れもあったという。

斜面にたくさんの家が密集している男木島の集落は、細い路地や坂道が入り組んでおり、生活にはオンバ(乳母車)が欠かせない。このことに着目した大島は、アーティスト仲間たちとともに、オーダーメイドでオンバを制作するオンバ・ファクトリーを結成した。男木島を訪れたことのある人なら、おそらく見たことがあるだろう。古い家並みのなかでカラフルなオンバは目を引くが、いまやそれは特別な風景ではなく、島の日常の景色となっている。


《めおん4》(2016)


芸術祭が3年ごとに開催される一方で、ファクトリーは島の生活に寄り添って継続的に機能し続けた。オンバが島民のほとんどに行き渡ったこともあり、2019年の芸術祭を機にファクトリーの活動は終了した。

この活動においては、オンバを大島ひとりがつくっていたわけでもなく、大島個人の作品として示されるモノはない。しかし、アーティストとして島の社会に介入することに敏感になった理由の根本に、作品をつくる際にそれが置かれる場所のことを考えるという、彫刻家らしい視点がある。

風を表現する──「揺れる作品シリーズ」

瀬戸内国際芸術祭は世界中から人々が訪れ、大島たちの活動も多くの人が知った一方で、良くも悪くも大島には「オンバの人」というイメージがついてしまっていた。このたびの塩江美術館での個展は、芸術祭での活動が10年を迎えたタイミングで決めたもので、オンバのほか、石と金属の作品、「動く作品シリーズ」など、彫刻家大島よしふみの多面性を見せることがひとつの目的になっていた。

さらに、今回の展覧会では、コロナ禍という社会の変化を受け、新しく「揺れる作品シリーズ」が展開されたが、ここに到るまでには《ひろとの海》(2020)と《じぃじの空》(2021)という二つの作品がある。来場者に作品を触ってもらえなくなったコロナ禍において、動かして完成という「動く作品シリーズ」の制作に戸惑った大島は、孫のひろと君がのびのびと絵を描く様子を見て、そのイメージを作品化することにした。それが今回展示されている《ひろとの海》である。これは、ひろと君が描いた絵に大島が着色して制作した男木島の海だ。大島のもとでたくさん絵を描いてきたのだろう、大きな画面に怯まないひろと君の絵は空間のなかで生き生きとしている。対になる《じぃじの空》は絵も大島が手掛けたもの。これまでも美術史的な観点からの芸術や彫刻、アーティストなどという線引きに縛られず活動をしてきた大島らしい制作スタイルだ。


手前:《Swing!》(2021)作家蔵/右:《ひろとの空》(2020)作家蔵


《じぃじの空》(2021)作家蔵


《ひろとの海》や《じぃじの空》を経て生まれたのが「揺れる作品シリーズ」だ。今回の展示では、土からのびる細いステンレスの先に木の球をつけた《Swing!》(2021)が展示室の中央に置かれ、その奥に起き上がりこぼしの要領でつくられた《Swing! Swing!!》(2021)、さらにその向こう、窓辺に設置されたモビール状の《Flyaway!》(2021)が展示された。どれも風で三者三様に独特の動きを見せる作品だ。《Swing! Swing!!》と《Flyaway!》には小枝と和紙でつくられた羽を持つ、鳥のようなものがゆらゆらと揺れる。大島作品のモチーフとしてよく登場するトンボもそうだが、彼は風を捉えることに関心があると言い、「揺れる作品シリーズ」は作品の動きによって風を表現した作品シリーズとなった。


《Swing! Swing‼》(2021)作家蔵



今回の展覧会では、石と金属の作品から最新作「揺れる作品シリーズ」まで、それぞれに素材もコンセプトも異なる多様な作品が揃った。彫刻に興味をもった高校時代から半世紀が過ぎているのだから、作風の変化は不思議ではない。一方で、どの作品も場所への意識が根底にあり、遊び心をエネルギーにして、枠組みに縛られず制作が行なわれていることは特徴と言えるだろう。

「揺れる作品シリーズ」はコロナ禍で出口を信じ求める願いや希望が込められた作品ともいう。しかし、コロナウイルス感染拡大防止のため、会期途中で美術館が臨時休館に入り、展覧会はそのまま終了してしまった。作品に込めた願いはまだ実現していないが、十数年ぶりという個展を終えた大島は、すでに次の展示に向け思いを膨らませている。


Swing! Swing‼ 大島よしふみ彫刻展

会期:2021年4月6日(火)~5月16日(日) ※会期途中、臨時休館のため5月3日(月・祝)で終了。
会場:高松市塩江美術館(香川県高松市塩江町安原上602)
公式サイト:https://www.city.takamatsu.kagawa.jp/museum/shionoe/event/exhibitions/2021/kikaku/artm202154329.html


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