2020年07月01日号
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キュレーターズノート

混浴温泉世界 別府現代芸術フェスティバル2009/井上雄彦──最後のマンガ展 重版[熊本版]/天草在郷アンデパンダン展

坂本顕子(熊本市現代美術館)

2009年04月15日号

 別府〜熊本〜天草、東から西へと九州を横断していくルートには、新幹線に象徴されるスピードや効率、経済優先の移動とは異なる、車窓や旅情を楽しみ、昔ながらの人との触れ合いを慈しむ、人間的な時間が今も流れている。この春、九州のアートの現在を追って東西に移動した距離は約400キロ。そこで見えてきたのは、都市との絶対的な距離が生む、土臭く、濃密な人とアートのつながりだった。

 60年代には新婚旅行のメッカとして栄えた温泉地、別府。立命館アジア太平洋大学の開設など、近年再び脚光をあびる「昭和」の町にスカイブルーの「混浴温泉世界」のフラッグがはためく。4月11日にオープンしたばかりのこのプロジェクトは、アーティスト8組がアーケード周辺の民家や空き店舗をリノベーションしたPlatformを主な拠点に、市内各所で展示される作品を廻る「アートゲート・クルーズ」や、「ベップダンス」や「ベップオンガク」などのパフォーミング・アーツなどからなるが、本レポートがもっとも注目したいのが若手アーティストによる「わくわく混浴アパートメント」だ。
 別府駅にほど近い旧清島アパートに、会期中50組以上の九州及び、東京などの若手のアーティストが滞在し、作品展示や近隣の公園でのイヴェントを行なう。現場のディレクションは、以前本レポートでも紹介した浦田琴絵と遠藤一郎によって行なわれ、これまで築き上げたアーティストのネットワークとノウハウを駆使した総決算的な内容となっている。
 アパート内に一歩足を踏み入れると、立ち並ぶ4畳半ほどの小さなグリッドの部屋、共同トイレ、階段、外壁などあらゆるところに作品が展示される。これまで、ギャラリーのホワイトキューブの中では、ひとりごちてどこか頼りなげに見えた作家たちの作品が、このアパートの中では生き生きと存在感を放ち、賑やかに会話をはじめるかのようだ。
 窓越しに見える作業部屋や炊事場、立ち上るカップラーメンの匂い、すりガラス越しの小さな緑。かつてこのアパートに暮らした人々と同じように、労働し食事し睡眠する。そこで文字通り作品とともに寝起きをする、作家たちの姿そのものが「清島アパート」という舞台装置を背景とした、シアトリカルなひとつの作品となっている。そのセットの中では観客も出演者の一人となって、俳優たちとの会話を楽しみたい。会期終了まで随時作家や作品は入れ替わるため、また別の幕間のステージも見てみたくなる好企画だった。


わくわく混浴アパートメント」会場風景


混浴温泉世界 別府現代芸術フェスティバル2009

会場:大分県別府市内各所約20カ所
会期:2009年4月11日(土)〜6月14日(日)

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