キュレーターズノート

混浴温泉世界 別府現代芸術フェスティバル2009/井上雄彦──最後のマンガ展 重版[熊本版]/天草在郷アンデパンダン展

坂本顕子(熊本市現代美術館)

2009年04月15日号

 熊本市内からさらに車で3時間、美しい紺碧の海に囲まれた天草下島の田んぼの中の、車一台がやっと通るほどの道の脇にぽつんと現れるのが天草在郷美術館だ。この知る人ぞ知るアートスペースは、いわゆる「美術館」という名前で想像される外観とは180度異なる、古い作業小屋を改装した、半オープンの空間である。けっして広いとはいえない、しかしそこには「美術館」の名に恥じない、館長の加藤笑平による渾身の企画が次々と行なわれている。
 筆者が訪れた3月の企画は、「天草在郷アンデパンダン展」。宮島達男やヒグマ春夫といったベテランから熊本の若手作家までの作品がひしめく。展示にも工夫が凝らされており、すべて無記名で作家の作品のデータはそれぞれの茶封筒におさめられ、名前も肩書もなく作品と対話をして欲しいという趣旨からだ。都会のギャラリーのようにさっと通って避けることは許されない、真剣な対話の場だ。
 ここは九州の西の果て。さっと出された番茶を啜り、ガラスの無い小屋の窓越しに広がる田んぼを背景に作品をみつめ、加藤の熱い話に耳を傾ける。虫も入ってくる。土のにおいもする。そんな場所でも美術は求められている。

「在郷美術館」外観

同、内観

天草在郷アンデパンダン展

会場:天草在郷美術館
天草市佐伊津町4683/Tel.0969-23-3815
会期:2009年3月9日(月)〜3月31日(火)

キュレーターズノート /relation/e_00001306.json l 1203302