キュレーターズノート
第53回ヴェネツィア・ビエンナーレ Re: Membering - Next of Japan
住友文彦(ヨコハマ国際映像祭2009ディレクター)
2009年07月01日号
学芸員レポート
ヨコハマ国際映像祭は4月にウェブサイトをアップし、7月末締め切りのコンペで作品を募集している。とにかく映像を使っていればあらゆる表現方法に開かれていて、審査の方法についてはブログにアップしているので参考にしていただきたい。コンペの案内は転送、転載大歓迎。メールニュースの登録もぜひ。
この準備をしているなかで最近とても感動したのは、ICAロンドンの本屋で見つけたミシェル・ゴンドリーの"You'll Like This Film Because You're In It: To Be Kind Rewind Protocol"という、小さな本。彼の『僕らのミライへ逆回転』という手作り感覚満載の映像づくりに目覚めた素人たちの葛藤を描いた映画を、まさに昨年、ニューヨークのギャラリー、ダイチ・プロジェクトで誰でも2時間で映画が撮れる場をつくりあげて実践し、そのノウハウを記した本である。もちろんこれを読んでもゴンドリーの映像作りを模倣できるわけではないが、とにかく映画をつくることの愛情に溢れていて、とんでもなくクリエイティヴな人だというのがよくわかる。帰国する機内で一気に読み終えてしまった。
映像をつくることができたのは、これまで映画やテレビの制作に関わる一部の人のみで、それ以外の多くの人々は鑑賞者という立場でしかなかった。しかし、これがいま大きく変わろうとしている。文字も、一部の人だけが読み書きできた時代から、多くの人々にその能力が広まったことで知識の伝播における革命的な変化が生じた。写真だけではない画像コミュニケーションの時代に、マスメディアだけではなく映像が私たちのあいだを膨大に行き交うことに対して、批評的でありながら、かつ自由な表現の可能性を広げていくための映像祭を行ないたいと考えながら、テーマなどを準備してきている。9月には参加アーティストの名前も発表する予定。
それと、ソウルのオルタナティヴ・スペースLOOPで日本の若手作家を集めた「Re: Membering - Next of Japan」というグループ展を行なった。普段はあまり若手作家と接する機会が多いわけではないので、はじめはじつは躊躇していたのだが、ここ最近の日本の美術シーンを振り返るとてもいい機会になった。ジャック・アタリが韓国の文化を高く評価している点は非常にオープンであるためで、これは、本当に重要なことだと思う。実際に、グローバルなアートのネットワークにおいても、また過去の歴史を現在へとつなぐ作業においても、日本よりも進んでいる。日本の作家はどんどん韓国で作品をみせるべきだと思う。
昨年からやることが決まっていたとはいえ、猛烈に忙しいなかで実現できたのは、参加アーティストはもとより、素晴らしい働きをしてくれたアシスタント・キュレーターの長内綾子さんのおかげで、彼女なしには実現はありえなかった。彼女が展覧会の記録をウェブにあげてくれているので、ぜひ参照していただければと思っている。
ヨコハマ国際映像祭2009
会場:新港ピア(メイン会場)、BankART Studio NYKなど
会期:2009年10月31日(土)〜11月29日(日)
Re: Membering - Next of Japan
会場:Alternative Space Loop
会期:2009年5月14日(木)〜6月25日(木)