キュレーターズノート
ARITA-mobile/祝祭と祈りのテキスタイル──江戸の幟旗から現代のアートへ
坂本顕子(熊本市現代美術館)
2010年04月15日号
学芸員レポート
さて、翻って、ここ熊本ではどうだろうか。今夏、熊本市現代美術館では、この「ARITA-mobile」にも出品したアートホーリーメン、加藤笑平を軸に、櫻井栄一、竹之下亮、ワタリドリ計画を加えた「熊本アーティスト・インデックス」を企画している。ギャラリーIIIという小スペースの展示ではあるが、熊本でアートスペースやNPOを運営したり、積極的に“開かれ”ていこうとする若い作家に焦点を当て、美術館という場所をきっかけに、新たな表現、観客、目標をみつけていけるような展覧会になればと考えている。その詳細はまた改めてお知らせしたい。
そして現在、筆者がいままさに展示のただなかにあり、本稿が更新されるころに無事開幕を迎える「祝祭と祈りのテキスタイル──江戸の幟旗から現代のアートへ」を紹介させていただきたい。本展は、テキスタイル=布をテーマに、民衆の切なる祈りや願いの表われである節句幟や奉納幟から、熊本ゆかりの山鹿八千代座の15m超の巨大な定式幕、ハイヤ節で知られる牛深港の100枚以上の大漁旗と6m超の木造船によるインスタレーション、天草の漁師の清貧の美を物語るドンザ(刺し子)のほか、齋藤芽生、手塚愛子、ひびのこづえといった布を巧みに取り込んだ現代アートの作家までを含んだ、総展示数約280点のパワーとボリュームに満ちた展覧会である。私たちがこの世に生まれ落ちた瞬間から身にまとい、そして死の瞬間までを見届ける「布」に込められた、人々の敬虔な祈り、そしてさく裂する歓喜の祝祭を、どうぞこの展覧会で堪能していただきたい。