アート・アーカイブ探求
小林正人《Unnamed #7》──反重力の光「保坂健二朗」
影山幸一
2011年06月15日号
対象美術館
裸にされた絵画
キャンバスは剥がされ、ついに木枠が露出してしまった作品がある。福島原発でメルトダウンした建屋がそれを想起させたのかもしれないが、「絵画」とは何か、という問題の行きつく先にこの裸にされた絵画のような作品があることを改めて見直しておきたいと感じた。
1990年代前半からぼんやりと人体のような形が浮かぶ赤い抽象画が表われた。画家の小林正人が描いたこれらの作品は、代表作《絵画=空》(1985-86, 東京国立近代美術館蔵)の青以上に、私にとってはオレンジ系の赤色が心に残り印象的だった。小林の作品は、見るたびに四角い画面が歪み激しく崩れていった。単純な赤い絵ではないことは明白だった。進化しているのか、退化しているのか、小林は東京藝術大学を卒業後ここまでくるのに13年をかけている。この《Unnamed #7》というタイトルの作品を初めて見る人は、壊されたキャンバスを用いたインスタレーションと見るかもしれない。少なくとも絵画というよりオブジェに見えるだろう。
《Unnamed #7》を所蔵する東京国立近代美術館の研究員、保坂健二朗氏(以下、保坂氏)に、《Unnamed #7》の見方を伺いたいと思った。保坂氏は、芸術学、美術史、美術批評、絵画論、現代建築、ミュゼオロジーなどをキーワードに研究を進めており、作品と空間と社会の関係、あるいは作品の成立する仕組みなども研究し、刺激的な言説を発する今期待されている近現代美術の研究者である。「イケムラレイコ うつりゆくもの」展(2011年8月23日〜10月23日)ほか、展覧会の企画を数本抱えているという多忙のなか、時間を快くとってくれた。閉館後に東京・竹橋の東京国立近代美術館へ向かった。