アート・アーカイブ探求

杉戸 洋《two tree songs》──知覚の転換「松井みどり」

影山幸一

2011年07月15日号


杉戸 洋《two tree songs》2006, アクリル・岩絵具・キャンバス, 280.0×450.0cm, 国立国際美術館蔵
Copyright Hiroshi SUGITO, Photo Yoshitaka UCHIDA, Courtesy Tomio Koyama Gallery
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絵本のような絵画

 最近ドローイングが心地よい。世の中が画一化されているためなのか、コンピュータを使う生活が続いているせいなのか、何ともいえない閉塞感のなかで、自由な気分の線描が生き生きとして見える。勢いのある線や揺れを伴った不格好な線は、気ままで身近な温かみのある線画となる。2007年水戸芸術館で開催された「マイクロポップの時代:夏への扉」展の図録のなかで、《two tree songs》(2006, 国立国際美術館蔵)という杉戸洋の風景画に目が止まった。カラフルな線が単純にきれいだった。今までは杉戸の作品をカーテンのある絵として、メルヘンの絵本のような物語性のある作品と決め込んでしまい、しっかりと探求してこなかった。しかし発色のいい線の色など細部にフォーカスして見ると、一瞬では感知できないさまざまな仕掛けがありそうなのだ。パウル・クレーを連想する理知的で緩やかな絵柄に潜む謎を探求してみようと思った。
 図録『マイクロポップの時代:夏への扉』や『under the shadow 杉戸洋作品集』で杉戸洋の作品に文章を寄せている美術評論家の松井みどり氏(以下、松井氏)に《two tree songs》について伺ってみたい。“子どもの想像力と時代遅れの事物の再利用を通した制度によらない創造の自由”について考えさせてくれたマイクロポップ★1を提唱した松井氏から、どのような言葉が聞けるのだろうか。蒸し暑い梅雨空の下、英文の論文締切り間近という松井氏と横浜で出会うことができた。

★1──日常の断面を組み合わせたり、廃棄物や忘れられた場所に新たな使い道を与えたりすることで、独自の表現言語をつくり、世界の知覚を刷新し、新たなコミュニケーションと共生の場を開いていくための方法であり姿勢。


松井みどり氏

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