アート・アーカイブ探求
土佐光信《清水寺縁起絵巻》静に動を重ねた室町のクリエイション──「相澤正彦」
影山幸一
2011年12月15日号
絵巻奉納
500年前、応仁・文明の大乱後、大混乱している京の都。清水寺では縁起絵巻がつくられた。寺の由来や伝説などの縁起(えんぎ)を、巻物に描いたものである。絵巻が寺に奉納されることで、この世に安寧がもたらされるという。絵巻がこの世の再生に機能する。東日本大震災にも活かしたくなるようなプロジェクトであるが、その《清水寺縁起絵巻》(東京国立博物館蔵)を描いた絵師が土佐光信である。宮廷画家の系譜をもつ土佐派のひとりだが、武家の御用絵師として繁栄した狩野派に隠れた感があり、今ひとつ特徴がつかめなかった。
『土佐光信』というタイトルの本の表紙に《清水寺縁起絵巻》の一部分として雷神が描かれていた。下手と思えるほどラフなタッチである。くだけすぎではないか。この絵のどこが見どころなのか、著者である相澤正彦氏(以下、相澤氏)に伺ってみたいと思った。絵巻の探求は、手に余ると思い込んで敬遠していたが、狩野派のずっと奥の方に見え隠れしていた土佐派の存在に引き寄せられ、絵巻の世界に分け入ることになった。
《清水寺縁起絵巻》は上、中、下の全3巻(合計約63メートル)で、本来は通して見なければ絵巻としての面白味は十分伝わらないかもしれないが、中巻だけでも18メートルにもおよぶ書画。雷神が出ている中巻第一段のこの戦闘シーンは、《清水寺縁起絵巻》の名場面であり、光信独特の構図や筆致が表われていた。この絵巻の一場面に焦点をあて、ひとつの絵画として見みることにした。