2019年06月15日号
次回7月1日更新予定

アート・アーカイブ探求

菊畑茂久馬《天河 十七》──赤の実在「野中 明」

影山幸一

2012年07月15日号

菊畑茂久馬《天河 十七》2003年, キャンバス・油彩・蜜蝋, 260.0×583.0cm, 長崎県美術館蔵
無許可転載・転用を禁止
画像クリックで別ウィンドウが開き拡大表示します

昭和の前衛

 オブジェの作家と思っていた人が、パステルカラーの絵画を発表していたことを発見し驚いた。菊畑茂久馬の実像を知らなかったことに気づいた。幾多の変遷を経た結果としてのパステルカラーではなかったのか、これが到達点なのか、新たな出発点なのか、素朴な疑問が湧いてきた。私は50年ほど前に福岡で結成された前衛美術家集団“九州派”を思い出した。地方から中央を変革していこうとする構図は政界の動向より早く美術界にあった。アンフォルメル(非定形抽象)という絵画革新運動が世界的に広がった時期に、権威や既成概念を全否定し、反東京の地方主義をもって破天荒な表現を繰り広げた若き美術家たちだ。同時代に起きた実験工房具体美術協会ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズなど、60年安保闘争や三井三池炭坑争議をはじめ、政治や社会状況を背景とした反芸術活動である。昭和という時代が生み出した“前衛”という突っ張った呼称が青くも熱をもちながら懐かしく光っている。
 代表者のいない九州派において、当時から注目されていた菊畑茂久馬の『菊畑茂久馬:戦後/絵画』という厚い図録を手にした。根源的な美しさを孕むオブジェを創造していた菊畑は画家だった。吉原治良や村上友晴、齋藤義重、モーリス・ルイスの作品を連想させるその画風から《天河 十七》(長崎県美術館蔵)の赤い色彩表現に引き込まれた。大画面のくすんだ赤い絵具は叩きつけられ、押さえられ、えぐられ、それでもキャンバスからは離れない。そんな強い意志を表わしているタブローである。
 福岡市美術館と長崎県美術館の2館によって編まれたこの図録のなかで菊畑の絵画について解説している長崎県美術館の野中明氏(以下、野中氏)に《天河 十七》の見方を伺ってみたいと思った。図録では《天河 十七》は作家蔵とあったが、2011年に長崎県美術館の収蔵品になったことを初めて野中氏から知らされた。梅雨空のもと大雨が心配される長崎へ飛んだ。


野中 明氏

  • 菊畑茂久馬《天河 十七》──赤の実在「野中 明」

文字の大きさ