アート・アーカイブ探求

北城貴子《Reflection─muison-so─》──光に溶け込むただならぬ気配「柳沢秀行」

影山幸一

2014年04月15日号

生まれ変わったような体験

 2005年からスタートした大原美術館のARKOは、「若手作家の支援」「大原美術館の礎を築いた洋画家児島虎次郎の旧アトリエ活用」「倉敷からの発信」を3つの柱としており、滞在制作と完成作品の展示公開を行なう事業である。選出されたアーティストは、主に倉敷市酒津(さかづ)にある、大原家の元別荘であり、1912年に滞欧から戻った児島虎次郎(1881-1929)が暮らした無為村荘(むいそんそう)内に残る高さ約3m、広さ70平方メートルを超す児島虎次郎の旧アトリエで制作する。空調や電気設備はない。この第2回には38名の応募者がおり、そのなかから町田久美とともに北城が選出された。その応募コメントには「より具体的な風景を用いてゆき、画面を『攻撃的な』であったり、『溶け合う』であったりするような、より感情的な画面にすべく立ち向かいたい」(柳沢秀行『ARKO 2006 記録集』p.25より)と書かれていた。
 北城が倉敷市に滞在したのは、2006年夏の7/16〜9/18で北城が好んでドローイングをする季節であった。児島虎次郎の美意識によって整えられた無為村荘は「描かれることを待っていた場所。ここで光への身のゆだね方を教わった」と、北城は述べている。倉敷の光や湿度、柳沢氏らの支援などもあり、それまで抽象的だった北城の画風は具象度を増し、40枚を超えるドローイングと200号の《Reflection─muison-so─》と《Prism─muison-so─》、そして正方形の100号を3点組み合わせた《Waiting Light─muison-so─》が生まれた。
 後年北城はARKOを振り返り「生まれ変わったような体験だった」と言い、「世界は常に光に包まれていると意識することで、日常が美しく見えてくる。そのことを感じてもらう些細なきっかけになる作品をつくっていきたい」(松﨑裕子『新美術新聞』No.1236(8)より)と語っている。《Reflection─muison-so─》をはじめARKOで生まれた作品たちを倉敷・無為村荘で一堂に観賞してみたいと思う。

原器

 柳沢氏が《Reflection─muison-so─》の魅力について述べた。「過去に彼女がやってきたことと、新しくチャレンジした風景の再現性との統一的なバランスが秀逸である。例えば画面左下の水面に反射した光の部分はそれまでのタッチとまったく一緒、かつてはこの表現だけで作品全体を描いていた。現在は以前からの表現も用いるが、それは画面の一部分。一つひとつのタッチは、個々に自立した筆致であると同時に、まるで写真のような木漏れ日が写り込む描写を全体として成立させている。また、写真に撮ったように描いただけではない、何かうごめく、もしかしたらおぞましい、何か得体の知れない感じをさせる。鑑賞者が、それぞれに感じた何かを引っ張り出せるものがあり、見れば見るほど、見つけられるものがある。単に視覚的に説明的な図像ではなく、そこにある何か、清涼とか崇高ではない、ただならぬ気配がある。さらに《Reflection─muison-so─》は、原器、あるいはメトロノームみたいなもので非常に重要な作品だと思う。まだまだ変化し成長を続けていく彼女にとって基準ではなく、いまの仕事を計るための原器として、とてもいい作品。それはミュージアムが持つべき作品で、ミュージアムが所蔵し、半永久的に残しておく価値がある作品だ」。
 北城の2014年の新作では、博物館内に展示された標本の骨を取り巻く光を描いた。屋外の生命みなぎる自然光から、屋内へ差し込む複雑な光を描き進化を見せている。原器が大原美術館に存在することで、大いに変化できるのかもしれない。
 2014年の《Reflection─muison-so─》は、秋田県立近代美術館で開催される「大原美術館展」(7/19〜9/15)、福島県・喜多方市美術館の「せぴろまの夢」展(11/8〜24)で展示される予定だ。大原美術館は、2013年から4年間福島復興支援に協力するため「せぴろまの夢」という展覧会事業を行なっている。喜多方市が主催する「喜多方・夢・アートプロジェクト」の一環であり、大原美術館の所蔵作品を展示するとともに、2014年は北城の《Reflection─muison-so─》が展示され、またレジデンスプログラムとして北城が喜多方で滞在制作を行なうことになっている。


柳沢秀行(やなぎさわ・ひでゆき)

公益財団法人大原美術館学芸課長・プログラムコーディネーター。1967年埼玉県熊谷市生まれ。1991年筑波大学芸術専門学群芸術学専攻卒業。同年岡山県立美術館学芸員を経て、2002年より大原美術館に勤務し現在に至る。専門:日本の近現代美術史研究、また美術(館)と社会の関係についての調査、実践。主な編著書:『大原美術館で学ぶ美術入門』(JTB,2006)、図録『モダン・パラダイス:大原美術館+東京国立近代美術館─東西名画の饗宴』(日本経済新聞社,2006)、『ARKO 2006 北城貴子 町田久美 記録集』(大原美術館,2007)、図録『オオハラコンテンポラリー=Ohara contemporary』(大原美術館,2013)、など。

北城貴子(ほうじょう・たかこ)

画家。1975年大阪府生まれ。1999年京都精華大学美術学部造形学科洋画専攻卒業、2001年京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程修了、2004年同大学院美術研究科後期博士課程修了、作品と論文『視覚と触覚の交差する場としての絵画と画家の身体』で博士号取得。主な個展:ARKO2006 北城貴子(2007,大原美術館)、holy green(2008,INAXギャラリー2)、The day I touched you(2011,エスプリ・ヌーボー)、浸透する光(2014,ART FRONT GALLERY)など。主なグループ展:TABURA RASA(1997,京都四条ギャラリー)、京展(1998,京都市美術館)、FEED BACK “ONEDAY GALLERY project”(2000,ギャラリーそわか)、神戸アートアニュアル2001(2001,神戸アートビレッジセンター)、Season(2002,大阪芸術大学)、SPIRAL TAKE ART COLLECTION 2004(2004,スパイラルガーデン)、京都府美術工芸新鋭選抜展(2004,京都府京都文化博物館)、VOCA 展2004(2004,上野の森美術館)、ヘイリ・アジアプロジェクトII─日本現代芸術祭(2007,韓国ヘイリ芸術村)、FLAT LAND─絵画の力(2010,京都市立芸術大学ギャラリー @KCUA)、Ohara Contemporary(2013,大原美術館)など。パブリックコレクション:大原美術館。主な作品:《Reflection─muison-so》《雪盲》《かれとの時間》《Saturation 5》《Cherry Blood》など。

デジタル画像のメタデータ

タイトル:Reflection─muison-so。作者:影山幸一。主題:日本の絵画。内容記述:北城貴子,《Reflection─muison-so─》,2006年,縦194.0×横259.0cm,キャンバス・油彩,大原美術館蔵。公開者:(株)DNPアートコミュニケーションズ。寄与者:大原美術館,(株)DNPアートコミュニケーションズ。日付:─。資源タイプ:イメージ。フォーマット: Photoshop,63.7MB(600dpi,8bit,RGB)。資源識別子:Tiff,85.57MB(600dpi,8bit,RGB),reflection_b.tif(カラーガイド・グレースケール付)。情報源:大原美術館。言語:日本語。体系時間的・空間的範囲:─。権利関係:大原美術館






【画像製作レポート】

 《Reflection─muison-so─》を所蔵する大原美術館へ電話をする。作品画像使用許可願いの申請書を作成後、郵送。メール連絡により指定されたURLにアクセスし、画像をダウンロード。画像使用料10,000円。
 iMacの21インチモニターをEye-One Display2(X-Rite)によって調整後、画像の色調整作業に入る。画面に表示したカラーガイド・グレースケールと作品画像に写っているカラーガイド・グレースケールを参照しながら、目視により色を調整し、時計回りに0.2度回転後、縁に合わせて切り抜く。Photoshop形式:63.7MBに保存。モニター表示のカラーガイド(Kodak Color Separation Guide and Gray Scale Q-13)は事前にスキャニング(brother MyMiO MFC-620CLN,8bit,600dpi)。セキュリティーを考慮し、画像には電子透かし「Digimarc」を埋め込み、高解像度画像高速表示Flashデータ「ZOOFLA」によって、コピー防止と拡大表示ができるようにしている。
 作品の画像に10カ所ほど繊維のようなものが写っており、ポジフィルムをスキャナーでデジタル化する際に残ってしまったのかもしれない。
[2021年4月、Flashのサポート終了にともない高解像度画像高速表示データ「ZOOFLA for HTML5」に変換しました]



参考文献

北城貴子『視覚と触覚の交差する場としての絵画と画家の身体』(博士論文)2004, 京都市立芸術大学
Webサイト:藤田千彩「reviews 北城貴子展 ささやかな風の動きを筆でつかんで」『PEELER』2007.2.26(http://www.peeler.jp/review/0702okayama/)PEELER, 2014.4.8
柳沢秀行「ヒカリノタマリ」『ARKO 2006 北城貴子 町田久美 記録集』pp.24-28, 2007.3.3, 大原美術館
Webサイト:「LIXILギャラリー 現代美術個展GALLERY2展覧会案内 北城貴子展─holy green─」『LIXIL ウェブサイト』2008(http://www1.lixil.co.jp/gallery/contemporary/detail/d_001159.html)(株)LIXIL, 2014.4.8
上田恭嗣「無為村荘に夢見たもの 画家児島虎次郎の思いと建築家・薬師寺主計」『住宅建築』No.417, pp.74-75,2010.1.1, 建築資料研究社
楢村徹「大原家・倉敷酒津「無為村荘」の実測について」『住宅建築』No.417, p.76,2010.1.1, 建築資料研究社
松﨑裕子「フェイス21世紀 143 北城貴子 光に包まれた日常世界を絵画で伝える」『新美術新聞』No.1236, 8, 2011.1.1/11合併号, 美術年鑑社
Webサイト:西野華子「bibliography 北城貴子Saturationによせて」『北城貴子』2012(http://hojotakako.com/bibliography.html)北城貴子, 2014.4.8
Webサイト:「北城貴子スタジオ訪問」『dialogue ART FRONT GALLERY』2012.3.13(http://dialogue.artfrontgallery.com/?eid=89)(株)アートフロントギャラリー, 2014.4.8
Webサイト:近藤俊郎「北城貴子インタビュー Vol.1」『ART iT』2012.3.22(http://www.art-it.asia/u/artfront/bwJV50irmsDxGk4q2gzf/)(株)アートイット, 2014.4.8
Webサイト:『喜多方・夢・アートプロジェクト』2013(http://kitakatayumeart.wix.com/2013)喜多方・夢・アートプロジェクト運営委員会, 2014.4.8
Webサイト:藤田千彩「アーティストはどういう人?〜画家編」『All About』2013.7.12(http://allabout.co.jp/gm/gc/422441/)(株)オールアバウト, 2014.4.8
Webサイト:柳沢秀行「ニコライ堂」『柳沢秀行のブログ』2013.9.18(http://www.clubohk.tv/blog/yanagisawa/diary/1379458258047/)岡山放送株式会社, 2014.4.10
潮江宏三「侵される「私」─北城貴子論」『浸透する光─北城貴子』(個展リーフレット)2014.3.28, ART FRONT GALLERY
Webサイト:「北城貴子Takako Hojo」『Esprit Nouveau Gallery』(http://www7b.biglobe.ne.jp/~esp-ibj/esp-WoksandArts/HT-Hojo_Takako.html)エスプリ・ヌーボーギャラリー/IBJ 池田美術事務所, 2014.4.8
Webサイト:『北城貴子』(http://hojotakako.com/)北城貴子, 2014.4.8



主な日本の画家年表
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2014年4月

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