アート・アーカイブ探求
鳥居清長《美南見十二候 六月 品川の夏》五感を刺激する直線美──「藤澤 紫」
影山幸一
2014年05月15日号
縦横十文字
国際浮世絵学会の創立50周年を記念する展覧会「大浮世絵展」を見るために、江戸東京博物館へ行ってきた。浮世絵の名品が世界各地から一堂に集められており、浮世絵の全史を通観することができた。すでに東京、名古屋の展示は終了したが、5月16日から7月13日まで山口県立美術館へ巡回する。
気軽さと奥深さを備えた浮世絵は、さまざまに楽しめる。見慣れた優品や初めて見る作品もあって、一点一点に異なる江戸庶民の豊かな世界を発見できた。なかでも鳥居清長の垂直線が印象に残った。肉筆画も版画も線が生き生きしていたが、特に見ごたえのあったのは版画作品の《美南見十二候(みなみじゅうにこう)六月 品川の夏》(シカゴ美術館蔵)である。画面一杯に詰まったように描かれた人物は現代のスーパーモデルのように背が高く、垂直方向に引き延ばしたような画面で新鮮だった。それはすらっと立つ人物の姿勢とプロポーションによるところが大きいが、中央の男性と右端の女性の着物柄がともに縦縞という効果もあるだろう。また水平線と欄干が画面を横断していることも効いており、縦横十文字の直線美が感じられた。今回展覧会で鑑賞した米国・シカゴ美術館所蔵の《美南見十二候 六月 品川の夏》の画像は入手できなかったが、フランスのギメ東洋美術館が所蔵する同作品の画像を借用し掲載した。ヨーロッパ美術へも影響を及ぼした浮世絵である。
国際浮世絵学会の常任理事であり、國學院大學教授の藤澤紫氏(以下、藤澤氏)に話を伺いたいと思った。藤澤氏は「役者絵の名門鳥居派の功労者 鳥居清長」や「浮世絵の美人─メディアとしての機能」などを執筆し、浮世絵美人画に詳しい。この4月より文学部史学科教授となられた藤澤氏の研究室を訪ねた。