アート・アーカイブ探求

小西真奈《Awesome Rocks》──日常に潜む険難の気配「堀 元彰」

影山幸一

2009年12月15日号

小西真奈《Awesome Rocks》
小西真奈《Awesome Rocks》2007, キャンバス・油彩, 194 ×194 cm, 府中市美術館蔵
撮影:早川宏一, courtesy of the artist and ARATANIURANO 無許可転載・転用を禁止
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絵画鑑賞の速度

 一枚の絵画を鑑賞する時間が最近短くなった気がしている。見るべき絵画が少ないわけではなく、また目利きとして絵画の良し悪しを識別できるようになったわけでもないが、直感によって絵画の好き嫌いは即断となってきたのは確かだ。作品の気に引き寄せられ見入っても、展覧会では一作品を3分以上見ることはない。そんなスピード鑑賞で無自覚に見ていた作品でも、記憶の隅から立ちあがってくる不思議な絵があった。
 2007年に開催された小西真奈の東京・第一生命南ギャラリーでの展示。そのときも会場をさぁーと2周回った。大きな画面の絵画は一見引き延ばされた風景写真のようだ。作品に近づいて見ると、意外にもラフな筆のタッチから絵であることがわかる。「写真をもとに上手に構成した作品だなぁ」と思った。そして2年が経過した。サスペンス映画の一場面を思わせる、自然の中に小さく人物を配した不気味な風景画が浮かんできた。フォトリアリズムの絵画はインパクトの強さゆえに賞味期限が短いと感じていたが、リアルにも関わらず不自然さが漂うなど、忘れ難い新鮮さを含んでいたのだ。作品の記憶とは、五感によって一瞬に空間全体を把握するものなのかもしれない。小西の作品は、無意識に瞬時に取り込められ、2009年「山と渓谷──小西真奈、横山裕一、渡辺豪 展」(ARATANIURANO)を機に甦えってきた。
 この謎めいた小西作品の絵を言語化しているテキストが、東京オペラシティアートギャラリーのWebサイトにあった。

「project N」

 チーフ・キュレーターの堀元彰氏(以下、堀氏)が、新人作家を紹介する展覧会「project N」で小西真奈展を開催した2004年に書いたテキストだった。写真と絵画のはざまにある曖昧な領域から、的確な言葉を掘り起こしていた。小西の代表作のひとつ《Awesome Rocks》(府中市美術館所蔵)を採り上げ、堀氏にこの絵の見方を伺いたいと思った。東京・西新宿にある東京オペラシティアートギャラリーを訪ねた。
 小西作品と堀氏の最初の出会いは2003年の夏頃、ギャラリストから紹介された。「おや?」と思った。大きく分類するとフォトリアリズム。だが絵を見たときに感じる不穏さや雰囲気は独特だった。洗練された作風は「project N」に相応しいと思えた。堀氏は小西を翌年の「project N」の選考委員会に推薦することを決めた。それまでは抽象や半具象的な作家が多く、リアリズムの作家を紹介することが少なかったことも小西を選択した理由だそうだ。
 堀氏は神奈川県立近代美術館の学芸員を経て、2003年より東京オペラシティアートギャラリー(財団法人オペラシティ文化財団)に勤める。特に好きな作家はいないという堀氏であるが、自宅が日本画家の中村岳陵の家と近所だったことや、画廊巡りで若い作家との出会いもあり、自然に自由な感じのする美術の世界に入って行った。
 堀氏は《Awesome Rocks》を2007年に第一生命ギャラリーで見たと言う。2004年に開催した「project N」の小西作品は俯瞰したような構図が多かったが、2007年あたりから構図が水平になって、作品の大きさは実物より大きく感じていたらしい。「project N」では暗めの照明だったが、2007年のときは明るい照明になっており、また一歩突き抜けた感じがあったと言う。

堀元彰氏
堀 元彰氏

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