2021年07月15日号
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アート・アーカイブ探求

小西真奈《Awesome Rocks》──日常に潜む険難の気配「堀 元彰」

影山幸一

2009年12月15日号

デジタルカメラは画材

 風景を真空パックしたかのように、自然を加工した科学的な香りがする不思議な空間を出現させる小西作品。デジタルの力がどこかに及んでいるからなのだろうか。「誰でも簡単に写真を撮れる今の環境が、デジタルとアナログのはざまにある作品を増やしていると思う。コンピュータのモニターを見たりするその眼差しは、今まであったアナログ写真を絵画に写す行為の眼差しとは異なるような気がする。小西はアナログにもデジタルにもないもうひとつの世界を絵画によってクローズアップしている」と、堀氏は写真を絵画化するのは新しい表現ではないが、デジタル社会が背景となって小西は現代を反映した絵画を生み出しているのではないかと言う。
 デジタルカメラで撮影した画像をもとに、筆のタッチを活かした絵画を制作する小西。デジタルカメラは一種の画材とみることができる。小西は写真をもとに風景を描いてはいるが、小西の思い出を留めておくスケッチ的記録として写真を用いており、描くべき風景はすでに小西のなかにあるのだろう。

絵画にしかできないこと

 小西の絵画には、都会や郊外の光景を描くエドワード・ホッパーに似て、孤独でありながら懐かしさを感じさせる部分がある一方、現実から逃れている心理的不安も感じる。イメージを浮遊させるための具象はここで成功しているわけだが、一体小西は絵画に何を求めているのか。日本で初めて小西真奈展を企画展示した学芸員である堀氏は、その作風の変化を「最近、ポートレートを発表したのは小西の大きな変化だが、2004年の展覧会の準備で小西のアトリエに行ったときにポートレートの絵があったので、アメリカ時代にすでに描いていた。《Awesome Rocks》のように風景画は、再現の度合いが写真に近づいているが、ポートレートはより絵画性が強い」。また「絵画にしかできないことを考えていると思う。風景にせよポートレートにせよ描く対象との距離が親密で本質をとらえて描いている。写真や実際の風景を再構成するところが小西の目指している絵画なのだろう」と語る。
 《Awesome Rocks》は、ひとつの物語に定着する以前の豊饒な逸話の断片を集め、再構成し完成した。現実の裏側の世界を少しめくり、日常に潜む険難の気配を漂わせて……。その記憶の風景は、実在する絵画であったと改めて気づかされるのだ。


主な日本の画家年表
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【画像製作レポート】

 小西真奈の作品《Awesome Rocks》は、府中市美術館が所蔵している。小西の作品を取り扱っている画廊ARATANIURANOに伺ったところ、《Awesome Rocks》の4×5カラーポジフィルムを保管しているとのこと。画廊を通じ、作家から著作権の許諾を得て作品のフィルムを借用した。
 フィルムのスキャニングはプロラボへ。300dpi・20MB・TIFF、ポジフィルム1点で2,100円。iMacの21インチモニターをEye-One Display2(X-Rite)によって調整後、カラーガイド(Kodak Color Separation Guide and Gray Scale Q-13)をスキャニング(brother MyMiO MFC-620CLN,8bit,600dpi)し、そのカラーガイドを実物のカラーガイドに合わせて色を調整。そして画像カラーガイドと《Awesome Rocks》に写っているカラーガイドを目視によって合わせていった。画像を時計回りに0.45度回転させ、切り抜き、Photoshop形式・12.1MBに画像データを保存。セキュリティを考慮して電子透かし「Digimarc」を埋め込み、高解像度画像高速表示Flashデータ「ZOOFLA」によって拡大表示できるようにしている。
[2021年4月、Flashのサポート終了にともない高解像度画像高速表示データ「ZOOFLA for HTML5」に変換しました]




堀 元彰(ほり・もとあき)

東京オペラシティアートギャラリー・チーフ・キュレーター。1961年神奈川県生まれ。1987年東京大学文学部国文学科卒業、1991年早稲田大学大学院文学研究科美術史専攻課程修了、1993年早稲田大学大学院文学研究科美術史博士課程中退。同年神奈川県立近代美術館学芸員、2003年東京オペラシティ文化財団、現在に至る。専門:近現代美術史。主な著書(いずれも共著):『まんが日本美術史 第3巻 明治→現代の美術』(1996, 美術出版社)、『近代日本美術家列伝』(1999, 美術出版社)、『カラー版 20世紀の美術』(2000, 美術出版社)など。

小西真奈(こにし・まな)

画家。1968年東京生まれ。1993年Corcoran School of Art卒業(ワシントンDC, 米国)、1996年Maryland Institute College of Art, Hoffberger School of Painting修了(ボルチモア, 米国)。主な個展:1999年「ポラロイド ─ スモール・オイル・ポートレイツ」(モッツ・マーケット・アーツ, ワシントンDC)、2002年「The Other World」(土日画廊・Art M, 東京)、2003年「美しい場所」(Space Kobo & Tomo, 東京)、2004年「project N」(東京オペラシティアートギャラリー)、2007年「どこでもない場所」(第一生命南ギャラリー)など。主なグループ展:1993年「Walk the Goddess Walk-Multi Media Exhibition」(DCAC, ワシントンDC)、1994年「肖像画 ─ 7人の作家による油彩と素描展」(ジョージタウン大学, ワシントンDC)、1995年「Superbia-Biennial Emerging Artists Exhibition」(WPA, ワシントンDC)、2005年「Aランチ」(AXISギャラリーANNEX)、2006年「VOCA2006  The Vision of Contemporary Art」(上野の森美術館)、2009年「山と渓谷──小西真奈、横山裕一、渡辺豪」(ARATANIURANO)など。主な受賞:1995年「The Graduate Painting Award」(Maryland Institute College of Art)、2002年「The S&R Washington Award」(The S&R Foundation)、2006年「VOCA賞」(VOCA展2006)など。

デジタル画像のメタデータ

タイトル:Awesome Rocks。作者:影山幸一。主題:日本の絵画。内容記述:小西真奈, 2007年制作, 縦194×横194 cm, 油彩・キャンバス。公開者:(株)DNPアートコミュニケーションズ。寄与者: ARATANIURANO。日付:2009.11.27。資源タイプ:イメージ。フォーマット:Photoshop, 12.1MB。資源識別子:4×5カラーポジフィルム, FUJIFILM RTP 75582 CGBEJI QL。情報源:ARATANIURANO。言語:日本語。体系時間的・空間的範囲:─。権利関係:小西真奈, ARATANIURANO, 早川宏一, 府中市美術館

参考文献

堀 元彰「海市を描く画家」『project N』No.19 小西真奈, 2004, 東京オペラシティアートギャラリー 『project N』No.19 小西真奈, 2004, 東京オペラシティアートギャラリー
http://www.operacity.jp/ag/exh57.php)2009.12.3
高橋美伊「小西真奈 あの光景へ」『TAMA ViVANT2005 美術・そのひろがる輪郭』p.10-p.11, 2005.9.13, 多摩美術大学美術学部芸術学科海老塚耕一コースTAMA VIVANT2005企画室
図録『VOCA展2006 「現代美術の展望──新しい平面の作家たち」』2006, 「VOCA展」実行委員会
「VOCA展2006 VOCA賞」『登竜門』2006(http://compe.japandesign.ne.jp/report/voca2006/01.html)2009.12.3
橋本誠「小西真奈展〔金華山〕」『TOKYO ART BEAT』2006.3.21(http://www.tokyoartbeat.com/tablog/entries.ja/2006/03/post_34.html)2009.12.3
阿部知代「阿部知代アナの@artlover」『Fuji-tv ART NET』Vol.10, 2006(http://www.fujitv.co.jp/event/art-net/abe/al_10.html)2009.12.3
高嶋雄一郎「どこでもない場所」図録『小西真奈 どこでもない場所』p.3, 2007.10.27, ARATANIURANO
「小西真奈展〔どこでもない場所〕」『関心空間』(http://www.kanshin.com/keyword/1263680)2009.12.3
倉林靖「イメージの遠心性と求心性」『JDN』ウェブ スカイドア現代篇, 第53回小西真奈, 2007.1.10(http://www.tokyoartbeat.com/event/2007/8471)2009.12.3
「小西真奈〔どこでもない場所〕ARATANIURANO(アラタニウラノ)」『art –index』(http://www.art-index.net/art_exhibitions/2007/10/post_67.html)2009.12.3
大石礼那「どこでもない場所を描く」『TOKYO ART BEAT』2007.11.20(http://www.tokyoartbeat.com/tablog/entries.ja/2007/11/paintings-of-nowhere-in-particular.html)2009.12.3
「小西真奈〔どこでもない場所〕」『TOKYO ART BEAT』(http://www.tokyoartbeat.com/event/2007/8471)2009.12.3
「風景ルルル 〜わたしのソトガワとのかかわり方〜〔静岡県立美術館〕 小西真奈 途方もなく寂しくて、美しい」『草薙すくえあ』2008(http://kusa.squares.net/tokusyu/rururu/konishi.html)2009.12.3
高階秀爾「小西真奈 浄土2」『日本の現代アートをみる』p.108-p.111, p.154, 2008.11.27, 講談社

2009年12月

  • 小西真奈《Awesome Rocks》──日常に潜む険難の気配「堀 元彰」

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