2021年07月15日号
次回8月2日更新予定

アート・アーカイブ探求

小西真奈《Awesome Rocks》──日常に潜む険難の気配「堀 元彰」

影山幸一

2009年12月15日号

オープンな心

 小西真奈は1968年東京に生まれ、1826年に設立された米国のMaryland Institute College of Art(MICA)を修了し、現在は東京に住んでいる。堀氏は「オープンな心が小西の一番いいところ」と小西を形容する。どこでも広くアンテナが張れ、感知したものを吸収消化して、絵の中に再現していくその人は決して神経質ではないと言う。
 堀氏は、なぜ小西が《Awesome Rocks》をはじめ《Dark Lake》《山のひと》など、多く風景を描くのかはわからないが、アメリカに長く住んでいたため、日本の風景を見る目は独特であるのは間違いなく、日本人が何気なく見ている風景を、深く見ているのだろうと述べた。水に惹かれるのか、池や海辺の風景が多い。好奇心旺盛な小西は、海に対する憧れがあるのかもしれないと堀氏は言う。「project N」後、小西は2006年にVOCA賞を受賞した。若手作家の登竜門であるVOCA展(VOCA2006  The Vision of Contemporary Art)で小西の《キンカザン 1》《キンカザン 2》を推薦した坂元暁美(上野の森美術館学芸員)は、「動きや音を感じさせない、現実離れした静けさ。固まって動き出しそうにない人物のポーズ。褪せて微妙な中間色が飛んでしまったカラー写真のような色。静寂の中に不気味さを漂わせている」(図録『VOCA展2006 』)と小西の絵画作品の特徴を書いている。
 1959年にスコットランドに生まれた現代絵画の旗手ピーター・ドイグがお気に入りという小西は「むき出しの自然に、独りきりで対峙するのは、恐ろしいこと」、また「無視していれば気が付かない感覚を絵のなかに確認できるようにしたい」と言う。雑誌などに掲載された風景写真を利用するドイグとは異なり、写真を自分で撮る小西の手法で、自然に対する畏怖の念を視覚化することに挑戦している。《Awesome Rocks》の「awesome」とは光景などが恐ろしい、すさまじい、すごい、とてもいいといった意味がある。

【Awesome Rocksの見方】

(1)モチーフ

岩、人物。描かれている顔の見えない人物に、見ている人自身が投影される。また人物を描くことによってスケール感を出すことができる。

人物《Awesome Rocks》(部分)
人物《Awesome Rocks》(部分)

(2)構図

水平線を背景とし、真ん中に巨岩、両側にも大きな岩を配して安定感を出している。仏像の配置にも見える。

(3)構成

写真そのままの風景を描写するのではなく、パースペクティブのゆれや多少のデフォルメなど、計算して画面を構成している。実際の風景をベースに、違う場所で撮影した人物を組み合わせ、またスケールを変えることがある。

(4)色

自然の風景とも写真とも異なる色。黄色の使い方が特徴で、写真では表わしにくい色を使い、絵画であることを主張している。

(5)制作年

2007年。

(6)技法

デジタルカメラで風景を撮影し、その画像をもとに絵画を起こしていく。油彩本来の描き方で手数は少なく、リアルに見せるという的確な筆触と配置、技量を備えている。岩手県宮古市の浄土ヶ浜周辺に取材している。

(7)サイズ

縦194 ×横194cm。正方形。一辺は人間ひとりが収まる長さ。写真サイズとは異なるサイズにより絵画作品であることを強調している。風景なので本来ならば横長のサイズの方が安定しているが、中央の岩が競り立っている感じがこのサイズで生きている。

(8)画材

キャンバス、油彩。画家であるという意志を感じさせるシンプルな画材。

(9)表現内容

風景全体と、ひとりの人間の対比は見どころ。遠目で見ると写真に見え、近寄ると絵画であるという発見が、この絵の魅力のひとつ。人物は何をしているのだろうか、歩いているようでどこへ向かっているのだろうか、ほかに人物はいないのか、人物がひとりだけという不思議さなどを感じる。現実の裏側にひそむ違う世界、もっと怖い現実が隠れているようだ。

(10)季節

初夏。

(11)音

音は聞こえない。現実の風景だが一瞬、時が止まって風も止んでしまったような感じがする。作品を見る人が耳を澄ましたくなり、作品に引き込まれていく。

  • 小西真奈《Awesome Rocks》──日常に潜む険難の気配「堀 元彰」

文字の大きさ