2021年06月01日号
次回6月15日更新予定

アート・アーカイブ探求

歌川広重《蒲原 夜之雪》静寂なる日本の詩情──「森山悦乃」

影山幸一

2010年02月15日号


歌川広重《蒲原 夜之雪》東海道五拾三次(保永堂版), 大判錦絵, 1833年頃, 静岡県立美術館蔵
無許可転載・転用を禁止
画像クリックで別ウィンドウが開き拡大表示します。

コミュニケーションのアート

 立春の2月4日、北海道の中央に位置する占冠(しむかっぷ)村では、マイナス34.4度を記録した。新潟市でも81センチの記録的な積雪で、日本海側は例年にない大雪となった。この気象は地球温暖化の夏の水蒸気と関係があるそうだから、人間が未来に生き残るためにも、文明の進歩ばかりを考えていてはいけないのだろう。最近見た映画『アバター』の影響もあるが、1968年に公開された『2001年宇宙の旅』が現実になりつつあることを想像すれば、あと150年もすればアバターの世界になっているかもしれない。イメージは連鎖するが、人類の歴史から未来が学ぶことは多いのは確かだ。
 江戸文化が生み出した生きるための知恵は多い。アートを庶民のものとした浮世絵版画の存在は、振り返って見直してみる価値がある。浮世絵には肉筆画もあるが、粋を集めた印刷物である木版画によって、多くの庶民に何かを喚起し、リアリティを感じさせられるかどうかが浮世絵師の腕の見せどころとなる。一点ものの名画は、支配階級層を市場として、見る者の素養を強いるところがありそうだが、浮世絵版画はそれとは対極だ。民衆に近づいてくるアートである。子どもの頃、永谷園のお茶漬けのおまけに付いていた浮世絵版画が懐かしく思い出される。きれいな風景の裏に解説があり集めた記憶がある。広告を“コミュニケーションのアート”と言ったのはデザイナーの田中一光(1930〜2002)だが、他者とのコミュニケーションが不足、あるいは恐れている現代社会の停滞ムードのなかで、江戸庶民に開花した浮世絵版画は、現代の絵画のあり方に一石を投じてくれそうだ。

「天ぼかし」と「地ぼかし」

 歌川広重が描いた東海道五十三次の16番目に《蒲原 夜之雪》がある。切手の絵柄にもなった有名な浮世絵だが、蒲原は静岡県である。しんしんと雪が降る静岡は不思議だ。何か仕掛けがありそうだ。インターネットで検索してみると絵柄が2種類あった。天空に墨が引かれている初摺りと、それ以外は画面の中ほどに墨が引かれている作品。2種類の《蒲原 夜之雪》を「天ぼかし」「地ぼかし」とそれぞれ呼んでいる。今まで私は「地ぼかし」の《蒲原 夜之雪》を見ていたことに気づかされた。これらの簡潔な作品解説を現在、平木浮世絵美術館UKIYO-e TOKYOの主任学芸員である森山悦乃氏(以下、森山氏)がしていた。静岡県庵原郡蒲原町(現静岡市清水区)が、東海道400年祭記念に制作した伝統手摺木版画による復刻版《蒲原 夜之雪》に寄せたときのテキストだった。見慣れていて知っているようだが、よく知らない絵だと改めて思った。森山氏に私の見ていたこの《蒲原 夜之雪》(静岡県立美術館蔵)の見方を伺ってみることにした。2種類の作品が生まれた経緯など、浮世絵版画の制作にまつわる話も伺ってみたい。東京・豊洲にある平木浮世絵美術館UKIYO-e TOKYOを訪ねた。

森山悦乃氏
森山悦乃氏

  • 歌川広重《蒲原 夜之雪》静寂なる日本の詩情──「森山悦乃」

文字の大きさ