アート・アーカイブ探求
中村一美《連差─破房XI(斜傾精神)》──伝統的な感覚の現代的な出現「小泉晋弥」
影山幸一
2010年05月15日号
画家の意志
美術品のオークション価格が最高記録を更新した。パブロ・ピカソの油絵《ヌード、観葉植物と胸像》(1932)が、2010年5月4日米国ニューヨークのクリスティーズで約100億8,600万円で落札されたという。絵画の価値とは一体どこにあるのだろうか。2006年東京都現代美術館
の常設展示「MOTコレクション──1960年代以降の美術」で開催されていた「特集展示:中村一美──追求・絵画の可能性展」での絵が忘れられない。なんと言ってもでかい。生半可では描けない画家としての意志を感じる作品である。縦4m×横9mの大きな絵画。ダイナミックなストロークで絵具を大量に使った華やかな色彩の《連差─破房XI(斜傾精神)》(2002, 豊田市美術館
蔵)である。壁画を連想させるサイズはコレクションにも覚悟のいる大きさだ。
「この大きさはなんだ」→「なぐり描きか」→「抽象画か」→「何なの?」と、これが真っ当な作品鑑賞、体験なのではないだろうか。あるいはこの迫力にアメリカ抽象表現主義と納得するだろうか。中村一美という男性作家が大きな絵を精魂込めて描いた事実と、鑑賞者が全身を包まれて大きな絵を体験したという事実が記憶に刻まれる。同時に、絵の意味を理解したいという欲求も生まれる。絵は理解するものなのかどうか。近づけば近づくほど分からなくなる不安もよぎる。
「中村一美の絵画」という論文を書いている茨城大学教育学部教授の小泉晋弥氏(以下、小泉氏)に《連差─破房XI(斜傾精神)》の見方について伺いたいと思った。小泉氏は、日本近現代美術史を専門に、現代美術や美術館の教育に関する研究を行なっている。岡倉天心の研究者でもある小泉氏から、日本の絵画史と現代美術の接点を伺うことができるかもしれないと期待していた。東京駅から水戸駅行きのバスに乗り約1時間40分、茨城大学前まで直行で行けることを知り、ちょっと嬉しい。