デジタルアーカイブスタディ
「Google Art Project」世界とつながっているアート
──グーグル 村井説人
影山幸一
2012年05月15日号
Google社について
世界中に2万人以上の社員がいる御社をどのように紹介すればいいのですか。
富永──1996年、スタンフォード大学の大学院生だったラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが出会い、開発した検索エンジンがそのルーツです。1998年の設立以来、検索に加えて、Googleマップや、Gmail をはじめとするさまざまなWebサービスを開発、提供しています。
どのようなビジネスなのですか。
村井──広告です。
富永──広告はキーワードに対して意味のある広告を出しています。例えば「美術館」と検索すると、広告はなく、美術館の情報が表示されます。一方、「絵画」と検索すると、絵画購入に関する広告も表示されます。ユーザーにとって意味のない情報は提供したくないので、画面をシンプルにして無関係な情報を出さないのがわれわれのポリシー。検索してきたキーワードに対して、関連のある広告はユーザーにとって必要な情報になりえます。
村井──検索しているユーザーにとっては広告があった方が多様性があります。実はこの表示をより意味あるかたちにするためにGoogleはずーっとエンジニアを投入して研究をし続けています。検索した人が間違ってクリックしたわけではなく、意味があってクリックして初めてそれが収益となります。われわれのメインのビジネスは広告ですが、「ないよりあった方がいい」情報で、利用者の探している情報を提供することができますし、広告を出す企業のニーズにも沿う、ということを目指しています。
デジタルデータの保管を専門に扱うデジタルアーキビストのようなスタッフはいますか。
村井──「Art Project」だけを専門に見ている担当者はいません。基本的にクラウド技術の会社なので、この世の中にあるインターネット上の情報を常にアーカイブしているわけです。インターネットが出来上がってからの膨大な量のデータがあるなかで、今回の「Art project」で集めたものはその内のわずかなデータ量です。当然われわれのナレッジとテクノロジーがサーバでも運用されていますし、管理はしています。
富永──Googleのサービスはすべてクラウド技術がなければ提供できないものですので、データセンターを管理している者はもちろんいます。ただし「Art Project」専属のデータを見るという担当は特にありません。
Google社は“デジタルアーカイブ”という言葉をどのように使っているのですか。
富永──われわれがデジタルアーカイブを使う文脈は、インターネットで誰もがアクセスできるようにするといったときに使います。人類の遺産や文化財、それらが共有されることで大きな意味があるというところに対して、インターネットができること、世界中からアクセスできるようにすることについて、“デジタルアーカイブ”という言葉を使います。
村井──ストリートビューも50年後に見れば、結果としてデジタルアーカイブになります。
ありがとうございました。
インタビューを終えて
世界共有のアート作品のプラットフォームができたことは嬉しい。奥行きと広がりのあるおしゃれなバーチャル空間で、世界の美術作品を旅し、見る者が主人公になるロールプレイングゲーム感覚で見せてくれる「Art Project powered by Google」。デザイン性は画像の価値を高めている。時代をとらえる機動力もさることながら、見る者を楽しませてくれるGoogleワールドは、20%プロジェクトというユニークな社内制度から生まれていた。好きなことに使っていい自由時間は発想が孵化する貴重な時間でもある。永続性を前提とするデジタルアーカイブを一企業であるGoogleが保持できるのかといった不安は否めず、Projectの言葉が想起させる一過性に終わらせないためにも、精神的所産であるアート作品の巨大な保管庫として、デジタルアーキビストを常置したアーカイブズとなることを期待したい。《モナ・リザ》を擁するルーブル美術館の参加の行方が気になるところではある。