デジタルアーカイブスタディ
アイサミット2008 札幌 ──デジタルアーカイブの第2ステージ
影山幸一
2008年08月15日号
デジタル素材を生む大地
今回のアイサミット実現のきっかけを作り、開催までのロードマップを作成してきた札幌市立大学
附属図書館長・デザイン学部教授であり、デジタルアーカイブに詳しい武邑光裕氏(以下、武邑氏)にアイサミット札幌の感想を、デジタルアーカイブの視点からお尋ねした。アイサミット終了後に北海道庁旧庁舎前にある市立大学のサテライトキャンパスへ伺った。
武邑氏がアイサミットに関係することになったのは、2006年より大学で行なっている産学連携講演公開講座「Creative
Economy(価値創造経済*1)」に、CC創立者でスタンフォード大学ロー・スクール教授のローレンス・レッシグ氏と、2008年4月からCCの
CEOに就任した(株)デジタルガレージ創業者の伊藤穰一氏を招いたことに始まる。このとき札幌市が目指す創造都市と、アイサミット開催の意義が合致したのは言うまでもないが、弁護士出身という上田札幌市長の法律に対する世界観が札幌での開催を現実的なものにさせたにちがいない。
3年前に東京から札幌へ移住した武邑氏は、「札幌は直接世界へつながるデジタル素材産業の拠点となっている。メタクリエイターが会社のモットーで、音の素材を制作し“初音ミク”現象を起こしたクリプトン・フューチャー・メディア(株)や、ロイヤリティフリーの“素材辞典シリーズ”を提供している(株)データクラフト、業務用ビデオやビデオ作品などの映像素材の貸出しを行なっている(株)札幌テレビハウス
など、北の大地の特徴を活かした素材産業が、自然の食材を全国に提供してきたように盛んな地域である。一方、新しい文化様式を生み出すクリエイティブクラス(創造的な仕事に就いている人々)も必要だが、都市を決定するには市民の活力が重要だ。その点札幌市民のモチベーションは高い。全国の優れたものを客観的に選択して受け入れる能力があり、そして洗練させ、素材をうまく料理していく“コンテント産業”を成長させていく力も十分ある。また札幌を好きになってもらった外部市民を視野に入れる必要性もある」と語った。
トンコリと電子
アイサミット札幌のプログラムに直接関与していなかったという武邑氏は、クリエイティブという名称をもつCCならば、もっとアート・文化の本質的な議論がほしかったと言う。今回のアイサミットはオープンカルチャーの情報交換として意味はあったが、クリエイティブな面の議論が少なく、CCの運営論や方法論が中心だったようだ。日本の著作権法の議論についても次へというよりも後退感があったそうだ。また告知活動が遅れたためか、札幌市民との接点が足りなかったようだ。地域行政がこうした国際会議を誘致する際の経験不足や地域への波及効果を促す仕組み作りなど、誘致した札幌市のコンベンション施策にも課題が残ったと指摘した。
武邑氏が企画に関わったという「SPECIAL
DANCE PARTY」は、すすきののJASMAC PLAZA ザナドゥに600名の観衆を集め、クリエイティブでエキサイティングだったそうだ。北海道のネイティブ・アイヌの伝統楽器“トンコリ”を現代に復活させた
OKIが率いる「OKI DUB AINU BAND」、北海道各地の伝承歌(ウポポ)や踊り(リムセ)を披露する4人の女性ユニット「MAREWREW」、コンピューターや生楽器を緻密に、しかも荒々しく使う革新的サウンドを発するサンフランシスコを拠点に活動する「SUTEKH」が、DJの「DJ
TOBY」とVJ の「OVERHEADS」と一緒にライブを行なった。
営利と非営利
最終日に開かれたシンポジウム「クリエイターから見た権利と文化」では、クリプトン・フューチャー・メディア(株)代表取締役の伊藤博之氏、(株)角川デジックス代表取締役社長の福田正氏、ゲームデザイナーの飯野賢治氏、そして伊藤穣一氏が登壇した。
日本とアメリカの著作権に対する意識の違い、コンテンツの営利/非営利目的利用の区別、コンテンツ利用の際の権利処理コストの問題、CCとYouTubeの有用性などについて、活発な議論が交わされた。
伊藤穣一氏は、ユーザーがどこで気持ち悪いと思うかが一番重要な基準であり、ユーザーは広告の有無に、その判断のメルクマール(指標)を置いていると述べた。ただ、グーグル・アドセンスが入っているだけで、営利目的と判断してしまうとブログなどの多くの有用なWebサイトが営利目的となってしまう。そのため、CCの感覚としては“営利が主目的”という場合以外は、非営利目的とするべきであると語った。CCでは、物の販売や広告が主な利用目的である場合を営利、サイト運営などのインフラのために広告をつける場合を非営利であるとしており、これによればYouTubeは非営利団体にあたると判断している。