デジタルアーカイブスタディ
アイサミット2008 札幌 ──デジタルアーカイブの第2ステージ
影山幸一
2008年08月15日号
「インフォメーション・アッセット・マネージャー」
美術館・博物館の収蔵作品をデジタルアーカイブするという、1990年代中頃に日本で生まれた文化創造のサステナビリティの仕組みであるデジタルアーカイブは、第1ステージから第2ステージを迎えている。武邑氏は個人のパソコンに膨大な情報がアーカイブされていく現状から、たとえば自分のライフログ・アバターに自分のすべての情報を送信し、アバターの動きをシミュレーションすることの身体性記録など、それがデジタルアーカイブといえるかはともかく、そういう時代がきていると示唆を与える。
大学の図書館長も兼任している武邑氏は、学生と映像資料を見るにも図書館法や慣習に縛られてスムーズにいかないこともあり、不自由な場面があるらしい。著作権法だけでなく、従来の司書のレファレンスサービスだけでもなく、種々課題がある中で改善の余地は多い。司書や学芸員、アーキビストでもない、社会基盤として情報を検索するプロフェッショナルである「インフォメーション・アッセット・マネージャー(IAM)」の育成を考える議論が、今後必要だと主張する。
英国では図書館に似て非なる施設「Idea
Store 」が作られ、従来の図書館法が及ばないところで新サービスを提供しているそうだ。日本でもミュージアム・ライブラリー・アーカイブズの制度的な垣根を越えたMLAの連携や、法の整備を進めるか、法律の関与しない新たな施設を造るかどうか、対策が求められている。日本の図書館は貸し本屋、貸し勉強部屋状態となっている施設が多いことを武邑氏は指摘し、図書館は本来何をするべき施設なのか考えるべきと語った。
第2ステージの鍵
「デジタルアーカイブの第2ステージは、CGMのようなユーザー主体の再創造にみられるように、誰もが価値を創造する段階に入ってきた。20世紀の各システムが崩壊してきている中、市民の創造的活力を基本とした行政改革が行なえるかが問われている」と武邑氏。過去の芸術作品や文化遺産だけでなく、現代の作品の中にも新しい価値を生むエッセンスは秘められている。CCがスムーズに機能していけば再創造のスパイラルは速度を増していくだろう。だが
WikipediaのようにCCが普及するにはまだ時間がかかりそうだ。
アイサミット札幌に参加して、CCを利用しているクリエイターは美術家よりも音楽家の方が多いと感じた。アートの環境を広める必要性はあるだろう。世界ではCCを教育普及に活用する事業など、よい事例が出てきているだけに、各国著作権法を越えてもっとシンプルにわかりやすく展開するCCのシステムを整備してもらいたい。デジタルアーカイブの第2ステージが進展していく鍵でもある。
アイサミット札幌閉会後、地元の子供たちと3人の作家(高幹雄・高橋喜代史・平塚翔太郎)がクレヨン・ワークショップで描いた巨大なペイントの前で世界中から集まった参加者が記念撮影をした。そして、イサムノグチが設計した広大なモエレ沼公園のエクスカーションへ出発。アイサミットは来年も地球のどこかで開催される。
iSummit2008 Sapporo概要
開催日:2008年7月29日(火)~8月1日(金)
会場:札幌コンベンションセンター(札幌市白石区東札幌6条1丁目)
主催:iCommons
共催:札幌市、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン、
後援:(株)デジタルガレージ、(株)ネットプライス ドットコム、(株)ロフトワーク、(株)トライ・ビー・サッポロほか
料金:[2日券]33,000円、[一般・営利企業]78,100円、[NPO・学術研究者・政府関係者]56,100円、[学生]23,100円、[札幌市民]1日1,000円