展示の現場

最適な照明、光をつくり出す:岡安泉

白坂由里2009年01月15日号

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 鑑賞を快適にし、作品や空間を引き立たせ、なおかつ作品保存を考慮に入れなければならない展示照明。現代美術の企画展では、空間全体を作品として見せる傾向が高まり、アーティストが光をどう考えるかも大切になっている。施工業者、照明技術者、作家自身の手で行なう場合が多いが、近年では、照明デザイナーがサポートするケースも出て来た。美術館やギャラリーの考え方、予算規模、作品の性質などにより、踏み込み方がかなり異なる領域でもある。

制作から施工まで

 エンジニアとしての経験から、独自に器具も制作する岡安泉という若手照明デザイナーがいる。美術館・博物館・商業施設などのライティングにおいて、照明計画から器具の設計・製作、施工までを手がけてきた。大学では機械工学、農業機械を専門に学び、農林水産省の関連団体の研究所に就職したが、民間企業のほうが、報酬がよさそうという幻想を抱いて6年で退職。1999年に、就職情報誌で見た「一人目の社員になりませんか」という広告に惹かれて、ベンチャー企業「アイティーエル」に転職したのが始まりだ。
 「そこが、特殊照明器具の設計・組み立てを行なう町工場のような会社だったんです。とりあえず機械製図のスキルが生かせるな、くらいの気持ちで。最初に取り組んだのが、美術館や博物館の照明でした」。
 リサーチしてみると、当時は、大手メーカーの高額な特注品が主流を占め、紫外線や赤外線はある程度カットできても、光の美しさや器具のデザインにまで考えが及んでいるとは思われず、そこに新たな開発のチャンスが見出せたという。

1.jpg岡安泉氏

 「例えば、当時よく使われていた、12V100Wのダイクロハロゲンランプを設置する際には、発熱による膨張破裂を防ぐためのファンも取り付けなければなりませんでした。そこで、光源と熱源を離せるファイバー光源を用いて、ファンの要らない照明器具を設計、製作したんです。反射鏡や、色を調節するためのフィルターなども取り付けて。無駄な光線をカットし、光を制御しやすく、音も出ない。これがヒット商品として、多くの美術館や博物館で採用されました」。
 併せて、さまざまな美術館や博物館の照明計画にも携わるようになる。また、ブランドショップのファサード照明のような特殊照明も依頼され、例えば20cm~40cmの幅で30m先まで照らすといった特殊なオーダーでは、一般器具は使えないため、器具制作から施工まですべて自身で手がけるような仕事になった。2003年からは並行して、スチール家具をデザインするSuper Robotの一員として照明の仕事も行なった。
 その当時、若手作家の展示設営の現場で、相談されて手伝ったりしたこともよくある。筆者も「間接的にせよ、現場で岡安さんに世話になっている作家は少なくないはず」という話を耳にしていた。しかし、照明計画やプロダクト製作のようにいちからつくったわけではなく、その場で対応したことであり、事例として記録を残してはいないという。ひとつ挙げてもらったのは、写真家の水谷太郎の個展。ピンホールカメラで撮影したバリ島の写真を展示する際に、「覗いて見える、作品本来の世界を再現したい」という相談を受け、写真展示用スタンドを製作。照明器具と作品を一体化させ、インスタレーションできるようにした。

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「水谷太郎写真展」フォトスタンド(2004)。ポジフィルムを乳白色のアクリル板で挟み、スタンドにバンドア(仕切り板)を取り付け、裏からハロゲンランプを当てる。白が鮮やかに見えるように、色温度変換フィルターも挟まれている。 

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白坂由里

『ぴあ』編集部を経て、アートライター。『美術手帖』『マリソル』『SPUR』などに執筆。共著に『別冊太陽 ディック・ブルーナ』(平凡社、201...

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