デジタルアーカイブスタディ

慶應義塾大学 樫村雅章氏に聞く:『貴重書デジタルアーカイブの実践技法────HUMIプロジェクトの実例に学ぶ』出版について

影山幸一

2010年11月15日号


樫村雅章『貴重書デジタルアーカイブの実践技法──HUMIプロジェクトの実例に学ぶ』
(慶應義塾大学出版会, 2010)

 電子書籍元年と言われる2010年。iPadなどの電子書籍読みとり機器が発売され、それに呼応してコンテンツとしての文章も徐々に増えてきた。いわゆるデジタル本だが、アナログである従来の本とは異なり、印刷やデザインなど製作や流通の工程が省かれ、印刷出版業界の再編成が著作権問題を抱えながら進んでいる。
 その一方、15世紀半ばにドイツで初めて活版印刷術によってつくられた本格的な書物であるグーテンベルク聖書が、見直されている。印刷革命を象徴するこの書物を原点に、情報革命の今後を予測する人もあろう。しかし200部ほどしか製作されていないこのグーテンベルク聖書。大冊の本の形として現存しているグーテンベルク聖書は48部。欧州に36部、米国に11部、日本に1部。その1部は1996年に慶應義塾に収蔵された一冊である。
 慶應義塾大学では、これを契機に貴重書のデジタルアーカイブに関する研究を開始。デジタル化の実践、及びデジタル画像情報の活用による書誌学をはじめとする人文科学分野の研究の推進を目的とした、先進的な事業を世界的な規模で行なってきた。1996年から2009年までに取り組んできたプロジェクトの技術的成果を詳細に伝える本『貴重書デジタルアーカイブの実践技法──HUMIプロジェクトの実例に学ぶ』(慶應義塾大学出版会)が2010年4月に刊行された。
 グーテンベルク聖書をはじめとする貴重書のデジタルアーカイブの画像は美しく、15世紀の古典が宿すアウラの断片を記録するに至った。世界で最も多くグーテンベルク聖書を直接手にしながらデジタル化してきた著者の樫村雅章氏(以下、樫村氏)に、貴重書のデジタルアーカイブとはどのようなものなのか。その目的と方法など、その体験から得たデジタルアーカイブにとって必要なものやこととは何かを伺った。
(2010年10月26日 慶應義塾大学にてインタビュー)


樫村雅章氏

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