[台湾、台南/台北]

5周年を迎えた《台南市美術館2館》(2019)は、充実のラインナップだった。まず1館の会場も使う大がかりな現代アート展「沃克、海怪、炮火與他們:熱蘭遮堡400年」と、日本からも多くの作家が参加しているアール・ブリュットの企画展「藝術是自由的力量, アートは自由の力, Art: The Power of Freedom」を開催している。特に前者は、1624年にオランダが築城したことを受け、市の400周年を意識したものだ。

そして「陳其寬:雙曲.交響 Chen Chi-kwan: A Duet——Art and Architecture」展は、建築と絵画の二刀流で活躍したチェン・チー・クワァンの回顧展である。「雙曲」というタイトルは、I.M.ペイと協働した代表作である東海大学のチャペル、すなわち《路思義教堂》(1963)が、HP(ハイパボリック・パラボロイド:双曲放物面)のシェル構造をもつことにちなみ、建築とアートの両方を並行して手がけたからだ(英題は「DUET」を使う)。彼はアメリカで学び、東海大の建築群とキャンパス計画、その他のモダニズム建築を手がける一方、動物などをモチーフとした愛らしい絵も制作している。意外と日本でこのタイプの建築家は少ない。ちなみに、ペイは共にグロピウスの事務所TACで働いた同僚であり、彼の似顔絵も展示されていた。

陳其寬の絵画(台南市美術館2館「陳其寬:雙曲.交響 Chen Chi-kwan: A Duet——Art and Architecture」展より)

《路思義教堂》(1963)の模型とタイル(台南市美術館2館「陳其寬:雙曲.交響 Chen Chi-kwan: A Duet——Art and Architecture」展より)

この翌日に鑑賞した台北市美術館の「モダンライフ:台湾建築1949-1983」展は、数多くの図面、写真、模型を揃え、とても充実した内容だった。これまで国立博物館など、台湾の近代建築展を数カ所で見てきたが、おそらくアーカイブの整理がだいぶ進み、その総集編というべき企画である。時代の設定は、中華民国政府が移転してきた1949年から、会場となる台北市美術館が誕生した1983年まで、つまり戒厳令下における戦後の建築史だ。大まかなテーマとしては、モダニズム、中華復興、アメリカの援助、脱日本などが交錯するデザインの流れである。美術館なのでアート作品も展示物に含まれていたが、先述のチェン・チー・クワァンは台南市美術館に絵画がまとめて展示されているためか、建築のみの紹介だった。

同展では、建築教育、女性建築家、丹下健三やゴットフリート・ベームなど国外の建築家による仕事、集合住宅、商業施設やオフィスなどのビルディングタイプにも注目している。また美術館の窓から《台北園山大飯店》(1973)が見える部屋にその模型や図面を設置したり、美術館の隣で進行中のプロジェクトを同様に見せるといった工夫も行なわれていた。また美術館の隣に再現された王大閎の自邸(1953)も取り上げており、彼の活動を全体の歴史的な位置づけから俯瞰できるのはありがたい。まだカタログはないようだが、制作しているらしい。そして忠泰美術館では、この後の時代の現代建築の流れに焦点を当てた展覧会を予定していると聞いたので、これも楽しみである。

台北市美術館の模型(台北市美術館「モダンライフ:台湾建築1949-1983」展より)

女性建築家、修澤欄の図書館(台北市美術館「モダンライフ:台湾建築1949-1983」展より)

丹下健三設計の《天主教聖心女子高級中学(旧台北聖心女子大学)》(1967)、奥にベームの模型(台北市美術館「モダンライフ:台湾建築1949-1983」展より)

《台北園山大飯店》(1973)が見える部屋と展示(台北市美術館「モダンライフ:台湾建築1949-1983」展より)

王大閎の国父紀念館(台北市美術館「モダンライフ:台湾建築1949-1983」展より)

ところで、入場料が安く設定されているせいか、建築の関係者だけでなく、多くの市民で賑わっていた。正直、わずか30元=約150円では申し訳なくなるほど充実した展覧会である。もっとも、円安のため食費などは日本と比べて安いという実感はなくなったが、文化施設を安く抑えているのは学生にとっても良いだろう(日本の美術館のチケットは高くなったが)。


関連レビュー

台湾の文学史と近代史|五十嵐太郎:artscapeレビュー(2024年05月16日)
王大閎の自邸と台北市立美術館|五十嵐太郎:artscapeレビュー(2023年06月01日号)

鑑賞日:2024/04/30(火)、2024/05/01(水)