[提供:ニコンプラザ東京 THE GALLERY]
会期:2024/4/30~2024/5/14
会場:ニコンプラザ東京 THE GALLERY[東京都]
公式サイト:https://www.nikon-image.com/activity/exhibition/thegallery/events/2024/20240430_tgt.html
第43回土門拳賞を受賞した写真展「石川真生 私に何ができるか」(東京オペラシティアートギャラリー、2023年10月13日~12月24日)の受賞作品展が新宿エルタワーのニコンプラザ東京 THE GALLERYで開催された。展示室には「沖縄芝居」シリーズから4点、「港町エレジー」から3点、「大琉球写真絵巻」から14点が壁に沿ってぐるりと並ぶ。
展覧会場における「大琉球写真絵巻」は巨大なロール紙にプリントされる作品だが、ここでは写真集に収まるサイズで展示され、そのことによる親しみやすさも心地よく感じた。いつもであれば鑑賞者の全身をくるむ甚大な歴史の帯が、圧縮された面である。
「大琉球写真絵巻」は薩摩藩による琉球侵攻から現在に至るおよそ400年にわたる沖縄の歴史を、沖縄の人々とともに写真によって描写する石川の代表作だ。地芝居さながらに衣装を身につけた人々が沖縄で起こった出来事を演じる様子を撮影し、時制が進むほど現在進行形で起きている沖縄の状況が見えてくる。2013年に撮影を開始してから、ほぼ1年に1度のペースで那覇市民ギャラリーにおいて発表、更新されてきた。
展示番号16番(パート2-12)は、1970年のコザ反米騒動を表わしたもので、廃車とおぼしき車群の前で、瓶や瓦礫をふりかざす4人の男性と銃剣を持った1人の米軍兵士が対峙している。車両の奥には鬱蒼とした草木が繁り、さらにその奥には現代的な建材を用いた一軒家らしき屋根が見える。向き合う人々の様子に、彼らの扮装やポーズから予期されるほどの緊張感はなく、それが石川の写真の魅力である。出来事を言語化したときに抜け落ちていく様相が写真に写っている。
最奥で瓶を掲げる男性の伸びやかな背中にとても惹かれるが、フォームの柔和さや薄明るい空、現代的な屋根といったどことなく不自然さを感じる組み合わせから、一回的な出来事を捉えた瞬間ではなく、出来事を視覚的に表わした状況を撮影したことが窺える。つまり「この状況を写真にすることにした」という撮影行為そのものの記録性が見てとれる。
それは過去と現在という点的な時間よりも、彼らがそうした出来事とつき合ってきたという途切れない時間を感じさせる。この写真を撮る、撮ることに協力する、という判断を醸造させた時間である。コザ反米騒動も、複数の出来事が連なっての衝突であり、絵巻という形式もまた流れ続ける時間や出来事を捉える本作に適している。
近年はドキュメントの挿入も増え(現実があまりにも厳しいものとなり、創作写真をつくる余裕がないためだと言う★1)、19番(パート10-8)の写真は、パイナップル農家の女性が糸仕事をする姿を捉えたものだ。カメラに向かう堂々とした微笑みの後ろに、撮影をまるで気にすることなく団欒する人々の様子が見える。石川の撮影行為と、その奥で流れる生活の時間とが同居している。
複数の時間と状況を感じられるのが「大琉球写真絵巻」の魅力であり、本作は創作性と語りを捉えた記録写真だと言える。そのためドキュメントらしい写真が加わっても、異質に感じられることはない。
写真集を対象とすることが多い土門拳賞において、2024年度は7年振りに写真展への賞与となった。展示の企画者である天野太郎は、2021年に沖縄県立博物館・美術館が主催した展覧会「石川真生展:醜くも美しい人の一生、私は人間が好きだ。」(2021年3月5日~6月27日 *新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言により5月23日で終了)の成果が礎にあると強調する★2。同館での展示もまた、撮影と発表を重ねてきた石川自身の活動に由来することは誰もが了解している。
受賞展覧会のカタログは黄色く細長い直方体で、掲載されている「大琉球写真絵巻」の写真は本企画展のものよりずっと小さい。石川が「カステラ」と呼ぶ身軽な印象そのままに、片脇に挟んで携帯できる。彼女の写真と沖縄の時間を小片でも抱え、語りを継ぐことが、関東で暮らす私が沖縄に対して表明できる小さな連帯である。
鑑賞日:2024/05/14(火)
★1──「ARTIST INTERVIEW 石川真生」(『美術手帖』2024年1月号、美術出版社、2023)
★2──「写真家 石川真生トークイベント」2024年4月27日ジュンク堂書店那覇店より。
関連レビュー
飯沢耕太郎|石川真生「私に何ができるか」:artscapeレビュー(2023年11月01日)