artscapeレビュー
石川真生「私に何ができるか」
2023年11月15日号
会期:2023/10/13~2023/12/24
東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]
1953年に沖縄県大宜味村に生まれ、1970年代から沖縄の社会的現実に肉薄する写真を発表し続けてきた石川真生の、東京では初めての本格的な個展である。
会場の写真はくっきりと二つに分かれているように見える。前半部には「赤花 アカバナー 沖縄の女」(1975-1977)、「沖縄芝居―仲田幸子一行物語」(1977-1992)、「沖縄芝居―名優たち」(1989-1992)、「港町エレジー」(1983-1986)、「Life in Philly」(1986)、「沖縄と自衛隊」(1991-1995、2003~)、「基地を取り巻く人々」(1989~)、「私の家族」(2001-2005)と、沖縄を舞台として、文字通り体を張ったドキュメンタリー作品が並ぶ。後半部には、「日の丸を視る目」(1993-2011)、「森花―夢の世界」(2012-2013)といった演出的なパフォーマンスの記録を挟んで、2014年から続けている大作「大琉球写真絵巻」のシリーズが並んでいた。
前半部の、スナップ写真の偶発性を取り込んだドキュメンタリーは、石川以外の誰にも成しえなかった凄みのある写真群といえる。あくまでもプライヴェートな視点にこだわりながら、時にユーモアさえ感じさせる自在なカメラワークで、沖縄の半世紀に及ぶ歴史と時間の厚みを浮かび上がらせていく。だが、後半部分の「大琉球写真絵巻」については、やや割り切れない気持ちが残った。沖縄の過酷な社会状況に対して、多くの人たちとの共同作業を通じて「私に何ができるか」という真摯な問いかけを投げかけていこうという意図は強く伝わるのだが、写真の発するメッセージが直裁的すぎて、イデオロギーのイラストレーションに見えかねないところがあった。
とはいえ、石川が苦闘しつつ編み出していった、演出的な写真とスナップ的な写真の共存という方向性は、さらなる可能性を孕んでいる。ぜひ、より若い世代の沖縄の写真家たちに受け継いでいってもらいたいものだ。
石川真生「私に何ができるか」:https://www.operacity.jp/ag/exh267/
2023/11/01(水)(飯沢耕太郎)