2024年7月7日夕方から7月22日朝まで国際芸術センター青森(ACAC)へ滞在した。7月13日~9月29日開催の展覧会「currents / undercurrents -いま、めくるめく流れは出会って」後期日程のインストール立ち会いおよびイベント参加のためである。筆者は、当該展示の会場構成を担当しており、4月13日~6月30日の前期日程に続いての参加となる。
筆者は展覧会関係者にあたるためACACについては取り上げられないが、そのほかに巡ったものの一部を駆け足に紹介したい。
7月15日:青森矯正展
会期:2024/07/15
会場:青森刑務所[青森県]
公式サイト:https://www.instagram.com/p/C88PqUms5C6/
本展は、青森刑務所と青森少年鑑別所が毎年開催している、矯正行政の果たす役割や社会からの理解を促す目的のイベント。「展」とあるが、内容は主に三つに分けられる。ひとつは刑務作業者の製作したプロダクトの展示販売、二つ目は矯正行政に関わるパネル展示、三つ目は地域事業者を中心としたキッチンカーの出店およびステージでのパフォーマンスである。連れ立ってやってきた子どもや若者もおり、本イベントが地域に定着していることが伺える。
エントランスの様子。奥に見える建物でパネル展示が行なわれている。建物の裏手・両脇に塀が続き、その向こうが刑務所内となる
一方、会場はあくまで塀の外側であり、刑務作業の「成果」であるプロダクトも、退所「後」の就労支援に関わる団体の展示や資料も、どれもいま中にいる人々の「声」を聞くこととは異なっている。いままさに起きていることや、どのような過程や環境に受刑者がいるのかといったことを考えるのは困難であった。
しかし、階段を上りきった先の事務所の塔屋で、書棚の一部が公開されていたことを記しておきたい。ここで見られたのは関係省庁の発行する年報や、刑務所運営に関わる研究資料、全国の刑務所や少年鑑別所の発行する年鑑だ。これら運営・管理側の資料のなかからなんとか「声」を聞き取ることも、枠組みや立て付けを超える方法となるはずだ。そうしたやり方も我々は身につけていく必要があるのだと感じる。
7月18日:野良になる
会期:2024/04/13〜2024/11/17
会場:十和田市現代美術館[青森県]
公式サイト:https://towadaartcenter.com/exhibitions/noraninaru/
ACACも参加する「AOMORI GOKAN アートフェス 2024」の展覧会のひとつである。
自身の移動・滞在が語りを推し進めるように記述された丹羽海子の日記(のようなテキスト)には、単線にしか読みえないテキストのなかにある思考のスライドや拡縮が見て取れる。Wordの機能をそのまま用いたかのような、文中に小さく挿入され続けるサムネイル画像たちが、読み手にも書き手の実感を手渡す機能をもっていた。すぐ隣にあるインスタレーション以上に印象に残っている。
永田康祐は、目の前の料理の介入も受けながらさまざまに語りが変化していく166分間の対話のドキュメントをミュージアムカフェで流す一方、同じ筆致の鉛筆画・一定のトーンやスケールで物語が続く14分11秒間のアニメーション作品を展示している。展覧会の動線の折り返しにこのアニメーションは位置する。重なりや拡縮を伴う各作家の語りを巡ったうえで出会うこの作品は、突如としてフォーカスが合うような、鮮やかな経験となる。
最初の展示室の様子。中央のインスタレーション、突き当たりの壁の白い印刷物が丹羽海子、左右壁面に䑓原蓉子。奥の廊下と廊下沿いの小さな展示室、そして中庭にアナイス・カレニン、一番奥に小さく見えるモニターのある展示室に永田康祐が展示を行なう
一方で、これは建築物としての十和田市現代美術館の特性かつ課題だが、大小さまざまなボックス状の展示室が分散され廊下で連結される形式は、どうしても展覧会の全体というものを描きづらい。前述の2名、そして䑓原蓉子、アナイス・カレニンの作品もそれぞれ興味深く観ることができたものの、作品それぞれを観たという以上の経験とはなっていない。作品が並ぶことがもたらす経験の豊かさが欠けているように感じられたのは、キュレーションだけに由来するものではないだろう。ちなみに丹羽、䑓原作品は一番大きな展示室で隣り合っていたのだが、それぞれ観たという以上の印象をもてなかった。
一室に1作品(主にインスタレーション)という十和田の強い形式は、鑑賞という経験をいたずらに軽くしていくというのが筆者の考えだ。つまり、入室さえすればそこに居ることになる、という短絡が発生しやすい。展覧会に居るということはそう簡単なことではなく、これはアートが高尚であるという話でもなく、作品を介した対話は作者にも鑑賞者にも手間がかかるということに過ぎない。この手間をないことにせず、複数の作品を巡るなかから居方を心得ていく。そういった展覧会が十和田で可能なのかがいつも気になっている。
7月18日:エンジョイ!アートファーム!!
会期:2024/04/13〜2024/09/01
会場:八戸市美術館[青森県]
公式サイト:https://hachinohe-art-museum.jp/project/3467/
こちらもAOMORI GOKAN アートフェス 2024に参加する企画のひとつ。「ラーニング」がコンセプトである八戸市美術館らしい、活動および活動体を重視した企画である。主にジャイアントルームでプログラムが実施されたり、ドキュメンテーションが展開する。
企画全体のインフォメーションを兼ねるサインボードは各活動のこれまで/これからが端的に示されたもので好印象だったが、そのあとジャイアントルームで実際に来場者が得られる情報は圧倒的に不足していたと言わざるをえない。おそらく、間違いなく、各活動にはさまざまな出来事があり、その場に居合わせたかった……! と思わせる物事があるはずだ。そう思えるのは八戸市美術館への期待や信頼ゆえである。
活動のすべてを残すことも語り尽くすことも困難だ。しかし、どれだけやっても十分ではないときに、どこまでやるべきなのかはやれるだけやったうえで後から検討してほしい、と思うのは鑑賞者のわがままだろうか。参加者たりえる条件は、どうしたら広げていけるのだろうか。
7月18日:三沢市民の森温泉浴場
国交省、自衛隊、在日米軍の三者共用である三沢空港のなかでも、米軍基地側の向かいにある三沢市が運営する温泉。公共施設であり、入浴料は市民160円、ビジター220円と大変安い。この施設を含めキャンプ場やスポーツ施設などが三沢市民の森には充実しているが、つねに基地から飛行機のエンジン音が聞こえ続ける。
航空写真では明快な基地内の施設配置も、現地では森の厚みに阻まれて中を伺い知ることはかなわない。温泉至近の小川原湖畔の一部も米軍管理となっており、フェンスで囲われた小さな一帯はパラソルとデイベッドの並ぶ砂浜のビーチになっていた。
基地に限らず、制限区域となるものがどのような力のはたらきによって維持されているのか、各地で気にしていきたい。一カ所の具体性だけから考えることが、筆者にはまだ難しいからでもある。
(後編へ)
鑑賞日:2024/07/15(月祝)、18(木)