会期:2024/7/30~2024/11/3
会場:東京都写真美術館[東京都]
公式サイト:https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4818.html

本展は3つのパート「Ⅰ 19世紀の映像装置」「Ⅱ 岩井俊雄のメディアアート」「Ⅲ イワイラボ──19世紀を再発明する」に分かれている。岩井俊雄は「この展覧会でやってみたいこと」のひとつに「僕のメディアアート作品をルーツである19世紀の映像装置とつなぐ」を挙げ★1、彼の代表作である「時間層」シリーズと、東京都写真美術館が収蔵する1800年代の視覚玩具との接点が見える構成となっている。

一般にメディアという言葉は、何かと何かのあいだをつなぐ媒体や手段を意味する。ノートやブラウン管テレビを媒介物とし、それらの特徴や構造を活用する岩井の表現は、メディアアートの定義を確認する手本のようにさえ感じられる。一方で、メディアという語感が持つ不可視的な印象に反して、彼の作品は「ふれる」ことへの関心を誘発し、原始的な感覚を呼び起こす。

本展は岩井が10代の頃に作った驚き盤やフリップブック、またエミール・レイノーによるプラクシノスコープなどの複製品を展示し、来館者がそれらを体験できるようになっている。そこでは自らの手の運動が、現象として起こる映像にどのように反映されるかを知ることができる。また「Ⅱ 岩井俊雄のメディアアート」には、「時間層」シリーズや驚き盤を現代的に改作した《STEP MOTION》(1990)、《光の驚き盤》(2003)のほか、鑑賞者が参加可能なインタラクティブな作品として、デジタル空間の身体性を探る《Another Space, Another Time》(1993)、《マシュマロスコープ》(2002)、直接に装置にふれられる《映像装置としてのピアノ》(1995)、《Floating Music》(2002)などが出品された。

《映像装置としてのピアノ》はグランドピアノの現物があり、その鍵盤から上下にくちばしが突き出るようなかたちで巨大なスクリーンが2枚設置されている。トラックボールとボタンの操作が、鍵盤を引き伸ばしたような下のスクリーンに反映され、任意の位置でボタンを押すと、光の粒が現われて上昇を始め、ピアノに達すると実際に鍵盤が凹み、音が鳴る。そして光の粒だったものは、色とかたちをともなって上のスクリーンに広がっていく。ボタンを押し続けると光の粒が連続して生成され、上記の工程によってグラフィカルな映像の演奏が可能となる。

華やかな上面のスクリーンに目を奪われるが、鑑賞者の押したボタンが間接的にピアノの鍵盤を沈ませる様子が見えること、装置と身体の調和が感じられる仕掛けの開示が本作の要だろう。

「時間層」は体験型の作品ではないが、いずれも紙という手触りが想像できるモチーフが扱われるとともに、テレビやプロジェクションの装置が露出し、ブラウン管のシステムを活用していること自体に興味がいく構造になっている。本展においては「時間層Ⅳ」の台座の一部が鉄板からクリアパネルに変更され、回転する構造が見やすい仕掛けにもなっていた。

「時間層Ⅱ」[筆者撮影]

岩井俊雄は1982年に「第一回OMNIアートコンテスト」で作品を発表して以来、日本のメディアアート史とともに歩んできたような印象がある。本展には《時間層Ⅰ》(1985)と《時間層Ⅲ》(1989)に関連して、それらが最初に出品されたハイテクノロジー・アート国際展とアーテックの資料も展示されている。

日本のメディアアートは企業や祭典とともに発展してきた歴史があり、両展を含む祭典には、岩井の筑波大学時代の恩師である山口勝弘が携わっている。「国際コンピュータ・アート展」(1973〜1977)、「ハイテクノロジー・アート国際展」(1983〜1988)、「名古屋国際ビエンナーレ アーテック」(1989〜1997)などである。本展の展示会場となった東京都写真美術館の地下一階もまた、1995年の開館当初、山口によって「映像工夫館」および「イマジナリュウム」と名付けられた場所である。

山口は実験工房、E.A.T.、ビデオひろば、アール・ジュニといったグループに参加し、70年万博を含む祭典や教育の振興に勤しんできた。彼が歩んだアートとテクノロジーの邂逅は振り返りの時期を迎えている。そして本展は日本のメディアアート史に欠くことができない、岩井俊雄のアーカイブの研究成果としての側面も持つ。

2021年に開始した岩井と明貫紘子による「岩井俊雄アーカイブ&リサーチ」は、2023年にCCBTで開催された「岩井俊雄ディレクション『メディアアート・スタディーズ 2023:眼と遊ぶ』」において「時間層」の修復と展示を行ない、その詳細は「時間層シリーズを(逆)再生する」で読むことができる。2024年8月にはメディアアートに長く携わってきた四方幸子による「メディア・アートのアーカイブをめぐって(キヤノン・アートラボと資生堂CyGnetを中心に)」も公開され、実例を元にしたメディアアートの研究が盛んになりつつある。

本展は資料を通じて岩井と国内メディアアート史との関係を見せながらも、さらに深い時間軸で彼の作品群を貫き、映像装置の歴史と岩井の活動とのつながりを提示する。「Ⅲ イワイラボ」では、ふれられるメディアと現代のテクノロジーを融合させ、過去の映像装置をアップデートしながら、次の世代にその魅力を伝える活動を紹介している。人の手による視覚玩具の現象は一回限りであり、常に同じということが起こらない。生のメディアが私たちにもたらす現象の魅力はますます注目されていくだろう。

鑑賞日:2024/09/13(金)

★1──『いわいとしお×東京都写真美術館 光と動きの100かいだてのいえ―19世紀の映像装置とメディアアートをつなぐ』(東京都写真美術館、2024)