12月25日(水)まで銀座MMMで開催中のミュージアムグッズフェア。11月の前半、そのなかでオリジナルグッズを紹介・販売させていただいている5館のうちのひとつ、山形県酒田市にある土門拳記念館に取材してきました(そのときのインタビュー記事はこちら:「土門拳の何んでも帖」制作チーム(土門拳記念館、コマツ・コーポレーション)×大澤夏美|「撮る」とはどういうことなのか。グッズで伝える土門拳の素顔と、写真というメディアの奥深さ

これまで筆者にとってほとんど縁がなかった酒田という街は、ひっそりと落ち着いた雰囲気を纏いながら、行く先々で出会う人々から伺うお話や、目にする風景のなかに深く豊かな文化の水脈を感じさせる土地でした。

ホテルの部屋から見下ろした酒田駅

JR羽越本線・酒田駅を出て目の前に位置する公共施設「ミライニ」は、酒田市立中央図書館や観光案内所などを擁する、2022年にオープンした新しい文化交流拠点。同じ建物内にあるホテルに泊まっていたので、まだ真新しさが残る明るい空間の中、閉館時間まで図書館で勉強する学生さんや、朝一番に新聞に目を通す高齢の方など、地元の人々の息遣いを近くに感じながらの1泊2日を過ごしました。

居心地の良い空間づくりが徹底されている酒田市立中央図書館の館内。さすが米どころの庄内、テーブルもお米の形(現地で食べた新米、すごく美味しかったな……)

酒田の名誉市民第一号、土門拳の関連書籍コーナーももちろんありました

そんななかふと目に止まったのは、図書館のカウンター横にあるこのA4のパンフレットが収められたラック。

図書館スタッフの方が制作されていると思われる「しらべるきほん MIRAINI PATHFINDER/酒田市立中央図書館パスファインダー」と銘打たれたこのシリーズには、「酒田の食文化」「黒森歌舞伎」「ニホンイヌワシ」「みちのく豆本」など、酒田や山形のローカルな文化に関するさまざまなキーワードとともに、それらを深く知るための補助線となるような図書館資料やウェブサイト、デジタルアーカイブなどへのアクセス方法がいくつか、かいつまんで紹介されています。

そもそも「パスファインダー」というのは、「国立国会図書館サーチ リサーチ・ナビ」によると「特定のテーマに関する文献・情報のリストや、調べ方の案内」。「特定地域についての情報に関しては、地域に根差した公共図書館のほうが、より多く蓄積している場合があります」と同ページの説明にある通り、各都道府県や自治体ごとのローカルなテーマのパスファインダーが広く公開されています。

調べる力はほとんどそのまま生きる力だ、とも言えてしまいそうな現代で、「あくまで自力で欲しい情報にたどり着けるようになるための支援」という関与の塩梅が良いよなあと、こういうものを目にするたびに思います。具体的に目に見える、未来への種蒔きのひとつ。

先に挙げたテーマのうち「みちのく豆本」に焦点を当ててみます。土門拳記念館のミュージアムグッズとして入手できる『ぼくと酒田』も、元を辿ると、1957〜95年の間、当時酒田市立図書館長であった佐藤公太郎氏が主宰し刊行していた全130冊の「みちのく豆本」という豆本のシリーズのうちの一冊を元にしたもの。

土門拳以外にも庄内在住または出身者の多様な顔ぶれを著者に迎え、詩人・デザイナーの佐藤十弥氏による美しい装丁で出版されてきたこの一連の豆本たちには、このたびの短い期間でも行く先々で出会いました。地元の人々にとっては、土地に結びついたアイデンティティを長年にわたり醸成してきた出版文化の一端として、大きな存在なのだろうと思います。

ホテルのロビーにも飾ってあった「みちのく豆本」(一部)

「土門拳の何んでも帖」制作チームの一員としてインタビューさせていただいた、地元企業であるコマツ・コーポレーションさんが印刷を手掛けられている出羽庄内地域文化情報誌『Cradle』(季刊)も、丁寧な取材・編集、デザインのもと地域の話題を掬い取り定着させている贅沢な誌面で、脈々と受け継がれてきたこの地域のローカル出版文化がいまも高いレベルで息づいていることを強く感じさせるものでした。

出羽庄内地域文化情報誌『Cradle』(発行:Cradle事務局)

ほかにも地元で長く活動する詩人グループが自主的に頒布する詩誌やミニコミ、大学のゼミの活動を伝える冊子など、道中で出会った小さくも熱気にあふれる出版物たちは多岐に及びます。

脈絡なく書き連ねてしまいましたが、こういった一定の方向にぐいぐいと歩みを進めていく自分の興味の指向性を俯瞰して妙に納得する、そんな不思議な気持ちにもなった酒田滞在でした。物理的な移動を繰り返していると、自分の深層のなかに点在していた興味がこうして目の前に突如輪郭をもって現前してくる瞬間があって、まさにパスファインダーから思わぬ地点にジャンプできるような感覚が訪れる。だから旅は面白いし、そういう瞬間のために日々目にするさまざまな物事を心のなかに静かに蓄積していきたいなとあらためて思います。(g)

おまけ①。取材日の夜、同行していた大澤夏美さんと訪れた地元の割烹(土門拳記念館学芸員・田中さんレコメンド)の店頭で、なぜか北海道・標津サーモン科学館のオリジナルグッズ「鮭ポーチ」(詳細はこちらで!)と遭遇。これも今回のミュージアムグッズフェアで取り扱っている商品のひとつという、タイムリーかつありえない確率での偶然に、大澤さんと二人で息を呑んだのでした

おまけ②。そのお店でいただいて衝撃だった、ハタハタの田楽。焼いた身の上に乗った甘辛い田楽味噌、そして大根おろしとでつくられる三位一体のマリアージュが、想像の範囲をいとも簡単に越えてくる。酒田の出版文化はもとより、食文化も目を見張るものがあります