会期:2024/12/14~2025/03/23
会場:印刷博物館 P&Pギャラリー[東京都]
公式サイト:https://www.printing-museum.org/collection/exhibition/g20241214.php

「世界で最も美しい本2024コンクール」の受賞図書をはじめ、世界各国の優れたブックデザインが並ぶ本展を今年も観覧した。同受賞図書14点を観て感じたのは、固定概念にとらわれない製本を大胆に行なうことで、書籍に新たな魅力を持たせられるということだ。それが如実に表われていたのが、金賞を受賞したオランダ・スイスの書籍『Walking as Research Practice』である。同書は歩きながら読むのに最適なウォーキングに関する研究書で、片手で持ちやすく読みやすい本作りに挑んでいた。右ページに本文を集約し、左ページに出典や脚注、イラストや写真を載せた秀逸なレイアウトも然りだが、何より目を引いたのは小口である。結構な厚みがあるにもかかわらず、針金や糸の代わりに接着剤のコールドグルーを用いた中綴じにし、小口からはみ出た部分をあえて断裁せず、自然な山型に仕上げていたのである。まるで分厚い紙の束をバサっと二つ折りにしたかのように……。一見、奇をてらったかのような外見であるが、確かに片手でもページが繰りやすい形態となっていた。


Lynn Gommes ほか著『Walking as Research Practice(研究実践としての歩行)』
発行:Soapbox、デザイン:Jana Sofi e Liebe、世界で最も美しい本2024 金の活字賞(オランダ、スイス)

また、栄誉賞を受賞した中国の書籍『Glory Through the Ages: the Culture of Hanfu』は、複雑な折り込みを多用して、ページを繰るたびにそれを広げる楽しみを読者に与えている。同賞受賞のフランスの書籍『UPO 4: Reading the Sky』は、ノドで綴じた上で、全ページを小口からノドに向かってさらに二つ折りにする製本にしていた。それによって見開きの幅が倍になり、たっぷりとしたスペースのなかで絵画の魅力を伝えている。他に3種類の紙と特殊なニスを使用することで視覚と触覚に加え、指でこすると香りがする仕掛けで嗅覚まで取り入れた絵本があり、書籍の可能性を広げていた。書籍は当然、企画に基づいたテキストや画像、レイアウトに関する編集方針があり、装丁の仕方がある。その上でよりコンセプチュアルにデザインするには製本のあり方をゼロから見直す方法もあることを、本展を通して学ぶことができた。

「世界のブックデザイン2023-24」展示風景 印刷博物館 P&Pギャラリー

「世界のブックデザイン2023-24」展示風景 印刷博物館 P&Pギャラリー

鑑賞日:2025/01/07(火)