会期:2024/11/01〜2025/02/24
会場:東京国立博物館 表慶館[東京都]
※以降、沖縄、福岡、京都、名古屋の各都市へ巡回予定
公式サイト:https://hellokittyexhibition.com/
(前編より)
もちろんこうした状況は、上野千鶴子がかつて論じた「〈私〉探しゲーム」そのものであるし、マーケティングの問題として社会学的な検討も加えなければいけないテーマではあるのだが、かつては小学生がメインユーザーだったハローキティというキャラクターが、それを「卒業」することなく高校生にも愛され、1998年にはダイハツから軽自動車ミラのハローキティバージョンという大人でなければ買えない高額商品まで登場した。このような90年代後半のターゲット層の拡大は、日本のイラストレーション史にとっても重要なポイントである。
©2025 SANRIO CO., LTD. APPROVAL NO. SP650123
ハローキティのグッズ展開においてもうひとつ触れておきたいのは、男性向けブランド「HELLO KITTY MEN」だろう。同ブランドが始動した2014年以降、現在も男性向けのアパレルが販売されている。ご当地キティは熱心なコレクターを生み、「カワイイカルチャー」の象徴としてローカルにもグローバルにもその影響力を発揮しているハローキティであるが、私はこうした話題と同程度に、ここ10年で成し遂げられたジェンダーの乗り越えは重要なものだと捉えている。3代目デザイナーの山口裕子も「今の二〇代の男性って、キティちゃんを女の子のものだとはあんまり思ってないみたい」★3と発言しており、女性の来場者に向けられた構成とはいえ、会場には「HELLO KITTY MEN」の展示ブースも設置されていたことは記憶に留めておきたい。
最初にも述べたように、同展はストレートにハローキティの魅力を伝える機会になっていた。「わたしが変わるとキティも変わる」という展覧会コピーは多様なグッズ展開やコラボレーションによって(主に女性の)人生に寄り添ってきたハローキティのあり方を表現してるし、パネル解説も短いセンテンスながら要点を抑えていた。そして何よりも、ポイントポイントで設けられていた撮影コーナーでは、来場者が各々持参したグッズと共にフレームに収まる「推し活フォト」の撮影を楽しんでいた。展覧会とは、その場所でしかできない体験を提供する機会でもある。そのことを踏まえると、ハローキティを主題とするにあたっては、理解するためには専門的な知識が必要となる色指定におけるCMYKのパーセンテージがメモ書きされた版下や、クリーンナップされてないアイデアスケッチなどプロダクトが完成する途上にあるクリエイティビティはそこまで強調せずに、完成品を数多く並べ、各々がすでに抱いているキャラクターに対するエモーションを昂進させたり、「映え写真」をSNSで共有するセルフプロデュースの助けとして来場体験を演出するほうが勝ち筋なのだろう。
©2025 SANRIO CO., LTD. APPROVAL NO. SP650123
©2025 SANRIO CO., LTD. APPROVAL NO. SP650123
「ハローキティ展」に来場していた世代は幅広く、これだけ長く愛されているキャラクターはそうそうない。杉浦太陽と辻希美という芸能人を両親にもち、昨年11月に17歳の誕生日を迎えたことを機にYoutubeチャンネルを開設したことで話題を呼んだ希空も、動画の背景に数多くのハローキティグッズを並べている。彼女の動画を見た際に、私はかつて90年代に歌手の華原朋美がハローキティ好きを公言し、多くの若い女性がそれに追随したことを連想した。ハローキティの人気にはこういった著名人の支持も貢献しており、そういったことも踏まえると、その勢いは、まだまだ衰えなさそうだ★4。
★3──中村佑介『わたしのかたち 中村佑介対談集』(青土社、2017)、p.226
★4──本文で触れることはできなかったが、同展には30人のアーティストによるハローキティをオマージュしたイラストレーションが展示されていた。同時代のイラストレーションをキャッチアップすることに長けたギャラリールモンドもキュレーションに参加したそのチョイスは、現代イラストレーションの一断面を示していたことを付言しておく。
参考資料
・グラフィック社編集部編『’90s~2010s サンリオのデザイン』(グラフィック社、2020)
・マット・アルト『新ジャポニズム産業史』(村井章子訳、日経BP社、2021)
・『Hello Kitty展 わたしが変わるとキティも変わる』(TMエンタテイメント、2024)
・『60TH ANNIVERSARY SANRIO EXHIBITION THE BIGNNING OF KAWAII』(TMエンタテイメント、2021)
・東京国立博物館ウェブサイト(https://www.tnm.jp/)
鑑賞日:2024/12/14(土)