会期:2024/12/14~2025/12/29
会場:PHOTO GALLERY FLOW NAGOYA[愛知県]
公式サイト:https://note.com/photo260nagoya/n/n4afdb00301bc
名古屋駅近くのPHOTO GALLERY FLOW NAGOYAで、荻野良樹の個展「去来」が開催された。荻野は日本各地に伝わる民間信仰「山神(やまのかみ)」に関心を持ち、とくに自身の出身地である三重県の山神にまつわる風景の撮影と聞き書きを行なっている。会場には床置きの写真作品4点と、壁に2点とQRコード1点、壁から出た台座の上に文章と組み合わせた写真6点が置かれていた。
荻野の写真を見ると、写っているもの同士の配色と構図の魅力に惹かれる。4:5の写真サイズがやたら際立って感じられるのは、撮影対象がよく見る景色であり、個人的にはスマホでよく撮る景色でありながら、スマホでは選択することができない比率で撮られているからかもしれない★1。
荻野の写真は多くの場合、その正方形に近いフレームの中心部に被写体があり、何を捉えた写真かが分かる。たとえば線遠近法における2本の線がちょうど交わるような位置に、周囲と異なる種類の植物の塊があったり(図1)、家の角や畑の縁、藁や木の対角線上の先に空洞があったりと(図2)、いずれも画面の中心部に視線が向かう構図が多い★2。それらは構図としては幾何学的な印象を与えながら「そのように見える」や「おおよそそのあたり」といった緩やかさを保ち、さらにはその寛容さが撮影対象である生活空間のモードと調和している。
図1:荻野良樹「去来」展より[筆者撮影]
図2:荻野良樹「去来」展より[筆者撮影]
会場にあるステートメントには、山神は生活の場に降りてきて、また去っていく去来型の神であること、聞き起こしの文章には土師町の人が山神と竹の山神を祀ってきたことがつづられている。それらの言葉を手がかりに、山神と関係があるらしい展示写真を眺める。誰かが植えたり、切ったり、立てかけたりしたものが捉えられている。それらは信仰と生活が続く景色の一部なのだろう。
去来型の神は、器となる具体物に降りてきて去っていくため、いつ来て、いつ去っているのか、見た目では判別できない。それは写真におけるコンセプトのようなもので、明示されないテーマを見出す写真的な態度と親和性のある対象を扱っているように見える。ギャラリストの方が、写真を床や板に置いた意図を教えてくれた。それは、覗き込む姿勢によって博物館の展示品を見るような意識を喚起させるためだという。民俗学的な山神への関心と、写真作品としての強度が調和する写真展だった。
鑑賞日:2024/12/28(土)
★1──iOSの標準カメラアプリにおいて、4:5のアスペクト比で撮影することはできないが、写真アプリにおいて5:4でトリミングすることができる。
★2──2021年に発表された《土のにおい》も、同じスタイルで撮られているように見える。https://thebackyard.jp/portfolio/yoshiki_ogino/