今年の夏は、連載「もしもし、キュレーター?」(旧記事はこちら)の次回の対談収録のために久々に遠出してきました。前回の熊本編に続く今回の対談の舞台は、香川県高松市。

「さぬき高松まつり」を直前に控えていた高松市中央公園と、そのモニュメント「ハゲさん」[筆者撮影]

筆者にとっては2019年の瀬戸内国際芸術祭の夏会期に行ったとき以来、だいぶご無沙汰の香川です。街には海外から来ている人の割合がかなり増えたような気がして、一方でお盆休みのシーズン真っ只中の日程だったこともあって、街には普段より人が多いのか少ないのか、歩いているのは外から来たツーリストなのか、お盆で帰省中の地元出身の方なのか──いまいち街のテンションの具合が掴みきれないまま、そして飲食店やうどん屋さんもイレギュラーな営業時間だったり臨時休業だったりで、暑さと湿気も相まってどこかふわふわとした心地で過ごした2日間でした(ちなみにメインの目的だった対談はとても充実したものに。こちらもこの秋公開の記事をお楽しみに)。

早起きして商店街を散歩をするも、Googleマップでは営業中と表示されていたうどん屋さんに何軒もふられる(ほかにも同じ目論見だったと思われる旅行者の方にちらほら出会いました)[筆者撮影]


中心部の丸亀商店街はお祭りのやぐらも組まれ、ローカルなお盆の風景特有のゆるさが妙に心休まる[筆者撮影]

高松での収録の帰り、JR予讃線で西に移動すること約30分、「大竹伸朗展 網膜」が開催中(2025年11月24日まで)の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)にも寄ってから東京に戻ることに。

駅前にそびえ立つ谷口吉生建築、やはり圧倒的な存在感。artscape連載陣のひとり・五十嵐太郎さんが監修され、最近発行された「MIMOCA建築見どころマップ」も館内で配布されていました[筆者撮影]


ふとartscapeの過去のMIMOCA関連の記事をあたると、筆者が編集部に合流するよりも前、2017年の「アート・アーカイブ探求」で猪熊弦一郎の作品を扱った記事が見つかりました。

影山幸一|猪熊弦一郎《自由》──平和への扉「古野華奈子」(アート・アーカイブ探求、2017年09月15日号)

まさか、JR上野駅の構内にも猪熊の壁画があったなんて。中央改札、何度となく通り過ぎているはずの場所なのに、いままで壁画の存在をまったく知らなかったことにちょっと愕然。

この《自由》(1951)はちょうど今年の6月から、駅のグランドコンコースのリニューアルに合わせて修復作業が行なわれているようで、2025年9月現在は見ることができないものの、年度内に修復完了、来年には再設置される予定だそう。偶然にもタイムリーな状況にある作品でした。

スキー板を担いでいる人、旅の装いの人だけでなく、馬や犬などの動物たちも思い思いの姿勢や格好で、みなどこか笑みをたたえて画面のなかに同居する。終戦から数年後に企画され、制作されたこの作品、多くの人の旅や新生活の出発地点でもあったであろう制作当時の上野駅と、あらゆる国や地域、年齢の人が雑多に行き交う現在の駅の風景とが頭のなかでどことなく重なります。

「戦後の物のない殺伐たる時代。もっと自由な気持ちで物の本質を見よう、と“人間の自由”を訴えたかった」(『アサヒグラフ』No.3209、p.7)と猪熊は述べている。
(「影山幸一|猪熊弦一郎《自由》──平和への扉「古野華奈子」より)

来年の上野ではこの作品がどのように私たちの目に映るのか。過去何度かの改修・修復を経て長らく駅構内で人の行き交いを見守ってきた《自由》、再び公開された折には、立ち止まってじっくり眺めたいと思います。(g)

MIMOCAで「大竹伸朗展 網膜」とともに開催されていた「猪熊弦一郎展 Since 1955」[筆者撮影]

館内のいろいろなスポットから視線が遠くに促される。やはり気持ちの良い空間でした[筆者撮影]