
会期:2025/09/27~2025/10/26
会場:尾張東地方卸売市場[愛知県]
公式サイト:https://cafebarrack.com/scae/2025/
愛知県・尾張東地方卸売市場で「瀬戸現代美術展2025」が開催された。2019年から3年に一度開かれる、瀬戸にゆかりのある作家を中心とする美術展で、3回目にあたる本展は国際芸術祭「あいち2025」の連携事業の側面も兼ねるものだった。
本展の見どころはまず、農産物直売所の跡地を活用した美術展という点にある。開催地となった「ふれあい市場 せとの里」は2016年に開設され、2023年末に閉館した。ただし「せとの里」は瀬戸総合卸売市場に併設されたもので、卸売市場ともうひとつの施設「山の上農園」は営業を続けている。この場所が美術展として使用されるのは、今回が初めてだという。最寄駅の愛・地球博記念公園駅から徒歩で向かう。県道209号線の一本道を進むと右手に、野菜のキャラクターたちが描かれた巨大な看板が見えてくる。展覧会名を示す鮮やかな黄色の垂れ幕との対比に惹かれる。

「瀬戸現代美術展2025」展示会場・旧「せとの里」[以下すべて、筆者撮影]
会場は直売所として運営していた1階と、冷蔵庫などの用途に使われていた2階、また別棟の喫茶スペースへと広がり、絵画や立体作品、写真、映像、インスタレーションと幅広い分野の作品を展覧していた。台座やりんご箱、果物専用の段ボールなど、もともとこの場所で使われていた用具を活用した作品が目立つ。写真家の城戸保は壁面のほか、生鮮食品の陳列棚に写真を展開していた。食品を鮮やかに見せるための強い蛍光灯のもと、コントラストの強い城戸のカラー写真が煌々と照らされている。作品主体でなく、場所主体の見せ方や、反射による見えづらさが展示場所との関わりとしてライブ的な鑑賞体験を与えてくれていた。

城戸保、展示風景
また現役の作家のみならず、1960年代に瀬戸で活動した芸術家・あさいますお、中武久を紹介するアーカイブブースが特別連携企画として設けられていた。名古屋で結成された前衛芸術グループ・ゼロ次元とも親交があったあさいと、彼が主催する「アンドロメダ」のメンバーでもあった中の活動をリーフレットと映像で紹介し、中が制作していた人形も展示していた。二人は現在隆盛する地方芸術祭の先駆けともいえる活動を瀬戸で行なっていたようだ。

あさいますお・中武久アーカイブ実行委員会によるZINE「あさいなか」
あさいは1964年4月に瀬戸市民会館を中心に「縄文祭」を主催し、廃品オブジェを使用した劇や、夜中にデモ行進などを行なったという★。中は1972年7月に陶土採掘場でパフォーマンスを中心とする「かまぐれ祭」を開催し、こちらは焼きものの産地である瀬戸の土壌により関連したものだったようだ。ほかに場所や時期が近接する芸術祭として、VAVAが主催し、グループ〈位〉が参加した岐阜の「長良川アンデパンダン」(1965年8月9日〜19日)、知多の大宝寺で行なわれた「72時間の行為」(1972)、名古屋に関連する30人の作家が好きな場所を会場とし、国道なども使用された「やろまいか’76」(1976年6月6日〜9月9日)などがあるという。自らが暮らす場所を基盤に制作するのみならず、発表を行なうというふるまいは、本芸術祭のルーツとも考えられるだろう。
11月末には「あいち2025」のパートナーシップ・プログラムとして豊田市の大橋園芸で、ビニールハウスと田園を活用したアートプロジェクト「Alternative Rice Field」が開催されるという。さまざまな野外芸術祭があるなかでも産地直売所や陶土採掘場、またビニールハウスというように、人の生活や営みと関わる場所において美術を含む交流が生まれていく風土の豊かさを感じる展覧会だった。
鑑賞日:2025/10/24(金)
★──長野県でインディペンデントな芸術祭を主導していた松澤宥の手引きがあってか、第2回「縄文祭」は翌1965年に諏訪で開催された。しかし1966年にあさいは事故でこの世を去る。彼の活動や思想がよくわかる追悼文を友人の伊藤益臣が執筆している。参照=伊藤益臣「裸の底点工作者─あさい・ますおのことなど─」『思想の科学 第5次』(思想の科学社、1968年5月号)