アメリカ中西部、ウィスコンシン州最大の都市、ミルウォーキー。シカゴから列車で約1時間半、ミシガン湖に面したこのまちに、10年ほど続く「スカルプチャー・ミルウォーキー(Sculpture Milwaukee)」というプロジェクトがあります。その魅力は、年間を通して、第一線で活動する作家の作品に出会えること。非営利団体が主催しながらも、地域の協力や寄付を経て成り立つスカルプチャー・ミルウォーキーの運営と関係づくりとは? 本プロジェクトにキュレーターとして参加する竹崎瑞季さんが、3回にわたりレポートします。(artscape編集部)

国を超えて地域をつなぐ

筆者は現在、アメリカ合衆国ウィスコンシン州にある都市、ミルウォーキーに滞在している。令和7年度文化庁新進芸術家海外研修員として2026年2月に渡米し、12月までの約1年弱、ミルウォーキーに滞在する予定である。同地ではパブリック・アートのプロジェクトを展開している非営利団体スカルプチャー・ミルウォーキーを研修先として、その戦略や運営についてリサーチするとともに、今年度の展覧会「Power of the Margins」における日本人アーティストのキュレーションに携わっている。

これまで筆者は、香川県にある丸亀市猪熊弦一郎現代美術館のキュレーターとして、この場所で見せるべきアーティストや企画とは何かを考え、美術館や地域の特性を生かした展覧会をつくることに努めてきた。出身地である関東から四国に拠点を移して10年が過ぎたが、首都圏に比べて展覧会やアーティストの活動に触れる機会は限られる。一方で、キュレーションを通して離れた地域とつながり、コラボレーションや交流を通して、新たな動きをつくりだしていくことができる可能性を感じていた。

そうしたなかで、スカルプチャー・ミルウォーキーについて、ミルウォーキーを拠点とするアーティストであり同プロジェクトのエクゼクティブ・ディレクターを務めるジョン・リーペンホフを通して詳しく知る機会を得た。ミルウォーキーはアメリカ中西部に位置する中規模都市であり、近隣の大都市であるシカゴからは列車で1時間半程度の距離にある。人口面で日本の都市と比較すると、市単位(約56万人)では高松市(約40万人)をやや上回り、都市圏(約157万人)では岡山(約165万人)に迫る規模である。もともと市や州による文化政策が手厚いわけでも、また成熟したアートマーケットが存在するわけでもないアメリカ中西部の地方都市でありながら、第一線で活躍するアーティストを現代的なキュレーションのもとで紹介し、独自のアートシーンを構築している。文化庁の海外研修の支援と、所属美術館の理解を得て実現したこの長期滞在の目的の一つは、プロジェクトの現場に実践的に参与しながらリサーチを行ない、国を超えて異なる地域とつながり、国際的なネットワーク構築の可能性を探ることにあった。


メアリー・ミス《WaterMarks: An Atlas of Water for Milwaukee》(2024)
Courtesy of WaterMarks and City as Living Laboratory Project with support from the National Science Foundation. Photography by Michael Lagerman. Originally presented by Sculpture Milwaukee’s exhibition, “Actual Fractals, Act II” (2024-2025).

スカルプチャー・ミルウォーキーとは

まずはその概要について触れておくと、スカルプチャー・ミルウォーキーは2017年の設立以来、ミルウォーキーの中心市街地で1年ごとにパブリック・アートの展覧会を開催している団体である。もともとミルウォーキーを拠点に映画館やホテルを運営する企業、マーカス・コーポレーション(The Marcus Corporation)の当時会長であったスティーブ・マーカスの構想を起点に、人々に街の中でアートに触れる機会を提供することを目的に、ミルウォーキー中心市街地改善団体、ミルウォーキー市、地域企業の協力のもとプロジェクトが立ち上げられ、2019年に501(c)(3)★1の資格を認定された非営利団体となった。プロジェクトの主な舞台は、ミシガン湖に面するミルウォーキー美術館の正面エントランスから西に向かって延びる大通り、ウィスコンシン・アベニューを主軸とし、展覧会によって近隣エリアも含めた市内一帯をその活動範囲としている。いずれも24時間365日、街を訪れる人々がいつでも自由にアクセスでき、無料で観覧できる場所に展示され、ミルウォーキーの中心市街地の活性化と文化的土壌の育成に貢献している。

これまで1年に一度のペースで、今年も含めると10回の展覧会が開催され、国内外のアーティストによる作品が展示されてきた。過去の展覧会では、トニー・クラッグやアニッシュ・カプーアなど現代彫刻を代表するアーティストから、ソル・ルウィットやフェリックス・ゴンザレス=トレスら国際的に注目を集めるアーティスト、トーマス・J・プライスやラシッド・ジョンソンらアフリカ系アメリカ人アーティスト、メグ・ウェブスターやメアリー・ミスら自然環境を扱うアーティスト、トゥルーマン・ローやスカイ・ホピンカら先住民のルーツを持つアーティストなど、幅広い世代と多様なアプローチによる作品が紹介されてきた(これまでの展覧会やキュレーションについては次回詳しく触れたい)。


ソル・ルウィット《Tower (Gubbio)》(1996)
Courtesy Pace Gallery, New York. Photography by Kevin J. Miyazaki. Presented by Sculpture Milwaukee’s exhibition (2017).


フェリックス・ゴンザレス=トレス《Untitled (The New Plan)》(1991)
Courtesy of the Estate of Felix Gonzalez-Torres. Photography by Michael Lagerman. Presented by Sculpture Milwaukee’s exhibition, “Actual Fractals, Act III” (2025-2026).

シカゴ、ミネアポリスのパブリック・アート

パブリック・アートという点でアメリカ中西部の他都市の事例と比較してみたい。ミルウォーキーの南に位置し、アメリカ第3の人口規模を誇るシカゴにも多くの作品が存在する。例えば、「The Bean」の通称で世界的にも知られるアニッシュ・カプーアの《Cloud Gate》★2は、中心市街地にあるグラント・パークの一部を再開発するプロジェクトとしてのミレニアム・パークの開園に合わせて2004年に公開された(正式な完成は2006年)。シカゴ美術館(Art Institute of Chicago)に隣接する同園には、ほかにもジャウメ・プレンサらの作品やフランク・ゲーリーの建築が設置され、シカゴの文化的な中心地を形成している。同エリアの南には、マグダレーナ・アバカノヴィッチの106体の彫像による大規模なインスタレーション《Agora》も2006年に設置されている。さらに前史を遡ると、1967年に「Chicago Picasso」の名で親しまれるパブロ・ピカソの《Untitled》★3、1970〜80年代にはアレクサンダー・カルダーやジョアン・ミロなどの彫刻作品が設置された。シカゴはこのようにアメリカでも早い時期から、都市開発の一環としてパブリック・アートが設置され、街の景観が形成されてきたと言える。

ウィスコンシン州の西隣に位置するミネソタ州の最大都市であり、人口規模としてはミルウォーキーよりもやや少ないミネアポリス★4にも、多くの屋外作品が展示されたミネアポリス彫刻庭園(Minneapolis Sculpture Garden)★5が存在する。世界有数の現代美術のアートセンターであるウォーカー・アート・センター(Walker Art Center)とミネアポリス市の行政機関、ミネアポリス公園・レクリエーション委員会(Minneapolis Park and Recreation Board )★6との連携により1980年代から計画が着手され、1988年に開園、2017年に再整備された。同園のシンボルである巨大なシルバースプーンとチェリーを模った《Spoonbridge and Cherry》(クレス・オルデンバーグとコーシェ・ファン・ブリュッヘンによる共同制作)のほか、マーク・マンダースら約60点を超える作品が、ウォーカー・アート・センターに隣接する約11エーカー(約4.5ヘクタール)の敷地に展示されている。

対してスカルプチャー・ミルウォーキーの場合、上述のとおりウィスコンシン・アベニューを中心としながらも、ある特定のエリアへの恒久展示が目的ではなく、作品ごとにふさわしい候補地を検討し、アーティストと事務局で協議を重ね、敷地の管理者やオーナーからの協力を経てはじめて展示が決定する。例えば、市が管轄する公園や大通り沿いの歩道から、ミルウォーキー美術館など近隣の文化施設の敷地、ホテルやオフィスビルのエントランス、商業施設の一角や空き店舗のファサードなど、街の文化産業活動を担う多様なプレイヤーとの協働により、広域エリアも含めたさまざまな場所での展示が実現されてきた。


デボラ・カス《OY/YO》(2020)
Courtesy of the artist and Kavi Gupta, Chicago. Photography by Sculpture Milwaukee’s exhibition, “there is this We” (2021-2022).


エリン・シレフ《Dusk Form》(2024)
Courtesy of the artist, Sikkema Malloy Jenkins, and Bradley Ertaskiran. Photography by Michael Lagerman. Presented by Sculpture Milwaukee’s exhibition, “Actual Fractals, Act III” (2025-2026).

ハイブリッドなファンドレイジング

スカルプチャー・ミルウォーキーの運営面、特にファンドレイジングに関しては、企業や団体、個人からの寄付がその主軸となっている。文化芸術のための助成ももちろん一つの方法であり、例えば今年度はウィスコンシン州観光局による観光支援プログラム、JEM グラント(Joint Effort Marketing Grant)★7や、アメリカにおける先駆的な女性団体の一つであるウーマンズ・クラブ・オブ・ウィスコンシン(Woman’s Club of Wisconsin)から地域住民向けのアーティスト・トークのための資金提供を受けているが、これらは主に関連イベントや普及活動に充てられるものであり、全体の事業予算のうちで占める割合は小さい。ミルウォーキーでは、市による文化芸術への直接的な予算・助成は、シカゴやミネアポリスと比較して小規模である。先述した近隣都市のパブリック・アートの事例と比較すると、シカゴは公共空間や公共のインフラにアートを取り入れるための行政主導の試みとして、市によるパブリック・アート事業や地域への委託事業を通して発展したものであり★8、ミネアポリス彫刻庭園はミネアポリス市の行政機関とウォーカー・アート・センターの連携である。対して、スカルプチャー・ミルウォーキーは中心市街地の企業らによるエリアマネジメントのための団体が主導となり、その後、アートを通して公益に貢献する性質を深め、非営利団体となり活動を続けている。

アメリカでは企業や団体、個人からのドネーションなど、民間による芸術文化への支援が根付いている。もちろん、その時々の政治や経済の状況、また支援者の個別の事情によっても左右され、文化芸術事業を金銭面から支えるファンドレイジングは決して盤石なものではない。スカルプチャー・ミルウォーキーでは近年、上述の企業や団体、個人からの寄付のほか、少額からの寄付も含むメンバーシップ制度や、作品販売やコンサルティング、ほかの非営利団体や公共期間からの業務委託などの方法にも取り組んでいる。公共の資金源に頼らず、新たな方法を取り入れながらハイブリッドなファンドレイジングを採用する柔軟性は、スカルプチャー・ミルウォーキーの運営面での特色の一つと言えるだろう。日本でも寄付による税制控除がないわけではないが、対象となる団体がアメリカよりも限定されており、また芸術への寄付が慣習としても一般的ではないため、民間支援によるファンドレイジングを探るには多くの時間と労力が必要だろう。そうだとしても、アートの枠内での言葉と思考に偏らず、街を動かしているプレイヤーとの関係の構築や、異なる目的意識をもつオーディエンスに向けた言葉やコミュニケーションの回路を開拓していく姿勢には、学ぶべきものが多いことを感じた。


2026年に実施された観光プロジェクト「Milwaukee Art Escape」のポスター  https://www.milwaukeeartescape.com/

生きたプラットフォームとして

パブリック・アートのプロジェクトとしてのスカルプチャー・ミルウォーキーの特徴をいくつか挙げたい。一つ目は、地域を拠点に、国際的に第一線で活躍するアーティストによるクオリティの高い作品を紹介していることである。ニューヨークでもロサンゼルスでもなく、アメリカ中西部の都市であるミルウォーキーで、必ずしも現代アートに親しみのある人々ばかりでないオーディエンスに向けて、優れたアートを通して街の日常の風景をアップデートし続けている。二つ目の特徴は、その年の展覧会で新たに展示される作品と、過去の展覧会で展示された作品が共存している点である。過去に展示された作品の一部は「Legacy Artwork」と呼ばれ、恒久展示作品として街に残り続けている。三つ目は、展覧会を主軸とするプロジェクトの性質に導かれるものでもあるが、その年ごとに、新たなアプローチで地域との連携や普及活動に取り組んでいる点である。例えばミルウォーキー美術館とは、敷地内での展示による連携だけでなく、コロナ禍により一時見合わせていた「ドーセント」と呼ばれるボランティアによる展示解説ガイドと連携したツアープログラムの開発を今年より再開した。また、今年の取り組みとしては、中心市街地の人々やミルウォーキー大学の大学生に向けた交流イベント★9や、州郊外で開催された現代美術のアートフェア、ドア・カウンティ・コンテンポラリー(Door County Contemporary) ★10へのブース出展、アーティストのジョエル・オッターソンとミルウォーキー交響楽団の音楽監督、ケン=デイヴィッド・マズアによる対談★11、非営利団体のミルウォーキー・フィルム(Milwaukee Film)との連携によるマーティン・シムズの映画上映★12が実施された。今秋にはシカゴ・アートブック・フェア(Chicago Art Book Fair)への出展や、アメリカのモン族支援団体、モン・アメリカン・ウィメンズ・アソシエーション(Hmong American Women’s Association〈HAWA〉)との連携によるパオ・フア・ハーのトークイベント★13も予定されている。公民の別を問わず、新たなコラボレーターとともに、型にとらわれない取り組みでアウトリーチを拡張し続けている。

このようにスカルプチャー・ミルウォーキーは、都市開発の流れの中でダイナミックな恒久展示の作品を設置するパブリック・アートのプロジェクトではなく、街と人々とアーティストが織りなす関係性のなかで、プロジェクト自体が柔らかく変化してきたユニークな取り組みであると言える。次回は、生きたプラットフォームとして動き続けるスカルプチャー・ミルウォーキーについて、2017年からのキュレーションの変遷とともにこれまでの展覧会を詳しく見ていきたい。


マーティン・シムズ《Find A Way》(2022)
Courtesy of the artist and Hoffman Donahue. Photography by Sculpture Milwaukee’s exhibition, “Actual Fractals, Act III” (2025-2026).


キム・ミラー《Social Choreography》(2024)
Courtesy of the artist. Photography by Menyeneabasi Akpan and Peter Barrickman. Presented by Sculpture Milwaukee’s exhibition, “Actual Fractals, Act Ⅱ” (2024-2025).

★1──スカルプチャー・ミルウォーキーは2019年にアメリカの税法上の非課税資格である501(c)(3)を取得した。
★2──アメリカにおけるアニッシュ・カプーアの最初の屋外作品であるとされる。幅約20メートル、高さ約10メートル、ステンレス製彫刻でその表面に周囲の建築や空、人々を映し出し、シカゴの街のシンボルとして親しまれている。
https://www.chicago.gov/city/en/depts/dca/supp_info/chicago_s_publicartcloudgateinmillenniumpark.html
★3──シカゴ市中心部の行政・司法複合施設、リチャード・J・デイリー・センター(Richard J. Daley Center)前の広場に設置されている。高さ約15メートル、施設の外装と同じコールテン鋼で制作された。
https://thedaleycenter.com/the-picasso-2/
★4──ただし、ミネアポリス市と隣接するセントポール市を合わせた「Twin Cities」の人口(約73万人)はミルウォーキー市の人口を上回る。
★5──《Spoonbridge and Cherry》などは1988年の開園時に、マーク・マンダースの《September Room》などは2017年の再整備の際に設置された。
https://www.walkerart.org/minneapolis-sculpture-garden/#about-the-garden
★6──ミネアポリス市内の公園管理を行う独立した行政機関。
★7──JEMグラントの助成を得て、近隣からの観光誘致のプロジェクト「Milwaukee Art Escape」を実施している(2026年8月21日〜10月6日)。
https://www.milwaukeeartescape.com/
★8──パブロ・ピカソの《Untitled》やアレクサンダー・カルダーの《Flamingo》はシカゴ市や公共機関によって委嘱された作品である。ただし、アニッシュ・カプーアの《Cloud Gate》はシカゴ市によるミレニアム・パークの開発に合わせて設置されたが、その実現には民間企業AT&Tなどからの資金提供を得ている。
★9──ダウンタウンで働く人々を対象とした「Downtown Employee Appreciation Week」や、UWM(ウィスコンシン大学ミルウォーキー校)の学生を対象とした「The Peck Art School Welcome Back Event」などの交流イベント。
★10──ウィスコンシン州北東部のドア群で開催された民間のアートフェア。非営利の美術教育施設、ペニンシュラ・スクール・オブ・アート(Peninsula School of Art)を会場とし、2026年6月4日〜7日に開催された。
https://www.doorcountycontemporary.com/
★11──ジョエル・オッターソンはスカルプチャー・ミルウォーキーの2025年度の展覧会「Actual Fractals, Act III」の参加アーティストであり、作品はミルウォーキー交響楽団(Milwaukee Symphony Orchestra)の本拠地に展示されている。トークイベントはスカルプチャー・ミルウォーキーの関連プログラムとして一般に向けて無料で開催された。
★12──スカルプチャー・ミルウォーキーの展覧会「Actual Fractals, Act III」(2025-2026)の参加アーティストであるマーティン・シムズ
の監督映画『The African Desperate』(2022)が、スカルプチャー・ミルウォーキー、ミルウォーキー・フィルム、ブロンズウィル・センター・フォー・ジ・アーツ(Bronzeville Center for the Arts)の連携により上映された。
https://mkefilm.org/films/6a6ce1d8b3889a8985120f60/
★13──モン・アメリカン・ウィメンズ・アソシエーションは、東南アジア系の女性、BIPOC(黒人、先住民、有色人種)の女性や少女、クィアやトランスジェンダーの人々、モン族系アメリカ人コミュニティを支援する団体。パオ・フア・ハーはスカルプチャー・ミルウォーキーの展覧会「Actual Fractals, Act I」(2023-2024)に参加した、モン族出身のアメリカ人アーティストである。