会期:2024/03/14~2024/03/30
会場:上野の森美術館[東京都]
公式サイト:https://www.ueno-mori.org/exhibitions/voca/2024/

今回もいろんな作品が集まったなあ。「VOCA展」がほかのコンペと異なるのは、公募作品を審査して入選作を公開するのではなく、全国の学芸員や評論家が推薦するアーティストの作品を原則的にすべて陳列すること。取捨選択がないため、各地の埋もれた才能や思いがけない表現に出会う可能性が高い(ハズレも多いが)。

今回でいえば宮内裕賀がそれだ。作品は幅4メートル近い大画面にセピア色でイカのみを詳細に描いたもの。よく見ると、イカの足のあいだからもう1匹のイカがのぞいており、共食いしている場面だという。変わった絵ではあるけど、絵画として特別優れているわけではない。と思って推薦者の坂本顕子氏(熊本市現代美術館学芸員)によるコメントを読んで驚いた。作者は「約20年間イカだけを描き続けてきた『イカ画家』であり、「ほぼ毎日イカを食し、墨をインクとして用い、石灰質の甲を漂白・乾燥させて自ら胡粉に加工する」というのだ。日本画でも西洋画でもない「イカ画」、素材もモチーフもイカ、タイトルも《生かされていくこと》。そして「いつか自身もイカに共食いされ、死因イカとしてイカと一体化することを目指す」というから感動する。共感はしないが。

イカ画家とは「イカす画家」であり、「イカがわしい画家」であり、「イカれた画家」でもあるだろう。略歴によると鹿児島県出身で、九州での発表が多い。以前「岡本太郎現代芸術賞展」にも出したことがあるそうだが、ああいう目立ったもん勝ちみたいなお祭り騒ぎのコンペでは絵画は疎んじられ(最近ますますその傾向が強まっている)、この「VOCA展」のように全国から集まった平面作品を1点ずつ見てもらえる展覧会のほうが、発表の場所としてはふさわしいと思う。

やはり推薦者のコメントを読んで興味を惹かれたものに、松元悠の版画がある。作品自体は3点の具象的なリトグラフなので目立たないが、推薦した荒井保洋氏(滋賀県立美術館主任学芸員)によると、松元は京都で法定画家を務めており、その法廷で立ち会ったALS患者嘱託殺人事件の裁判で印象に残った3つの証言から描き起こした絵だという。その情景を忠実に再現するために現場を訪れたのだろうか、JRの切符も証拠品のように展示され、現実とのつながりを強調している。現代の「ルポルタージュ版画」というべきか。彼女の作品は昨年、町田市立国際版画美術館の「出来事との距離 -描かれたニュース・戦争・日常」展で初めて見て「変わった版画家がいるなあ」と思ったが、その特異性は「ニュース」をテーマにした企画展よりも、社会性に欠けた作品が並ぶ「VOCA展」においていっそう際立つ。

これらとは逆に、コメント抜きに作品だけで目を惹くのがVOCA佳作賞を受賞した笹岡由梨子だ。映像、電飾、音楽と盛りだくさんの騒がしい作品だから目を惹くというだけではない。レトロでキッチュでグロテスクでメルヘンチックなテイストの、独自としかいいようのない世界観が発散しているからだ。推薦者の藤田瑞穂氏(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAチーフキュレーター/プログラムディレクター)によれば、「地球軌道を周回した最初の動物である犬のライカ、第二次世界大戦時にポーランド軍に所属したヒグマのヴォイテクなど、動物の労働の歴史に関する綿密なリサーチが基点となっている」そうだが、だれもこの作品からそんなこと読み取れる人はいないだろうってくらいぶっ飛んでいる。ただし、彼女は本来インスタレーション作家であり、サイズや音や光など制約を課せられた壁掛けの平面作品によるグループ展のなかでは、いささか窮屈そうだった。

笹岡由梨子《Animale/ベルリンのマーケットで働くクマ》[筆者撮影]

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鑑賞日:2024/03/15(金)