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VOCA展2021 現代美術の展望—新しい平面の作家たち—

2021年04月15日号

会期:2021/03/12~2021/03/30

上野の森美術館[東京都]

昨年の「VOCA展」はコロナ騒ぎのまっただなかに開かれ、最後の数日は閉館を余儀なくされ、直後に最初の緊急事態宣言が出された。今年は2度目の緊急事態宣言の最中に始まり、会期中に解除された。10年前は震災直後に初日を迎えたものの、翌日からしばらく閉館したという。弥生は厄月か? 来年はどうなっているやら。

そんな厄災もどこ吹く風、展覧会はおもしろかった。なにがおもしろいかって、まず表現メディアが多彩なこと。いちおう「平面」に限定しているが、油彩、日本画、写真に加え、ヴィデオ映像や壁面インスタレーションも珍しくなくなった。VOCA賞を受賞した尾花賢一の《上野山コスモロジー》も壁面インスタレーションというべき作品。さまざまな大きさのキャンバスの木枠や額縁を組み合わせ、その上に紙にインクで描いたマンガチックな絵を載せている。その絵は、ロダンの《考える人》や高村光雲の《老猿》などの美術品だったり、「モナリザ展」に詰めかける群衆だったり、寝場所を追われたホームレスだったり、落書きだらけの交通標識だったり、路上のゴミを漁るカラスだったり、いずれもいまこの作品が置かれている「上野」に関係する事象ばかり。形式と内容と場所が一致した稀有な例といえるだろう。

ほかに、半透明の布に祖父母や母の画像をプリントして重ねた鄭梨愛や、ブルーシートの下半分に10万3千個のBB弾を縫いつけた長田綾美の作品も目を引いた。作品の意味や内容はさておき、どちらも物理的に柔らかい布なのでタブローのように壁にかけられず、カーテンみたいに吊るしている。カーテンとしての絵画、あるいは絵画としてのカーテン。これは屏風絵や襖絵にも通じる発想で、美術を家具や建材として見直す視点を与えてくれる。襖絵といえば、岡本秀の《複数の真理とその二次的な利用》は、襖と画中画と遠近法を巧みに掛け合わせて位相空間を現出させている。また、支持体に透明アクリル板を使った者が2人いて、武田竜真はパースがついたような変形アクリル板に古典的な花柄を描き、薬師川千晴はアクリル板の両面にやはり花柄のようなタッチの絵具を載せている。透明板は両面使えるため絵画の可能性を広げてくれるかもしれない。でもなんでアクリル板に油彩なのか。アクリル板ならアクリル絵具のほうがふさわしいし、油彩なら不便でもガラス板を使うべきではないか、と思ってしまう。

真っ当(?)な絵画にも見るべき作品は多い。薄塗りの今井麗の《SUMMIT》は一見さわやかでじつは不気味な印象を残し、逆に絵具を何センチも盛り上げた水戸部七絵の2点はそれだけでうっとうしいほど存在感を発揮する。設楽陸、永畑智大、弓指寛治の3人はいずれもゴテゴテとにぎやかに画面を埋め、時代や世相を反映させて見応えがある。もう1人、ジンバブウェ生まれの吉國元の《来者たち》は、紙に色鉛筆で描いた33点セットだけど、不思議な求心力を備えていて注目した。

2021/03/30(火)(村田真)

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