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VOCA展2023 現代美術の展望─新しい平面の作家たち─

2023年04月15日号

会期:2023/03/16~2023/03/30

上野の森美術館[東京都]

1994年に始まったVOCA展が今年30回目を迎えるのを記念して、『VOCA 30 YEARS STORY 30周年記念記録1994-2023』を出した。これを見ると、第1回には大竹伸朗、岡﨑乾二郎、福田美蘭、村上隆、吉澤美香といった錚々たる画家たちが名を連ねていたことがわかる。でもこのなかで受賞したのはVOCA賞の福田だけ(受賞者は計5人)だと知ると、審査員の目は節穴だったのかと思いたくもなるが、そうではなく、おそらく彼らの作品に対する評価がまだ定まっていなかったのだ。まさに隔世の感あり。

VOCA展は、推薦委員によって選ばれた40歳以下の美術家による平面作品という「縛り」があるため、作品傾向が大きく変わったりバラツキが出たりすることはない。それでも初期のころの絵画中心の展示から次第に写真が増え、厚さ20センチ以内の半立体やインスタレーションが登場し、液晶ディスプレイの普及により映像作品も珍しくなくなってきた。絵画が中心であることに変わりはないが、時代を反映して少しずつ変化が見られるのも事実。新しい世代の絵画の動向を観察できるだけでなく、「平面」の枠内でどれだけ冒険しているかを見る楽しみもあるのだ。

今回目についたのは、布地に桃太郎の物語の1シーンを糸で抽象的に縫いつけて棒から吊るした金藤みなみ《桃太郎の母》、9組の兄弟姉妹のそれぞれの服を重ねて縫い合わせた黒山真央《SIBLINGS》(VOCA佳作賞)、日本各地を歩くなかから生み出された陶板、ドローイング、テキストを壁に配置したエレナ・トゥタッチコワ《手のひらの距離とポケットの土》(VOCA奨励賞)、黒い箱に7つのステンドグラスをはめ込み裏から光を当てた中村愛子《Loin de…》、石膏を塗った合板を削って波が押し寄せる海岸のような風景を現出させた七搦綾乃《Paradise Ⅳ》(VOCA奨励賞+大原美術館賞)など、絵画から外れた表現。挙げてみて気づいたが、全員が女性だ。出品者の男女比はほぼ半々なので、女性のほうが「絵画」とか「写真」といった形式にはまらない傾向が強いのかもしれない。

男性で変わり種をひとつ挙げれば、都築崇広の《OSB・森・風》だ。木材の破片を固めたOSB合板を支持体に、植物イメージをコラージュして森を表わした作品。それだけでは珍しくもないが、彼は同時期に開かれている「岡本太郎現代芸術賞展」にも入選していて、そちらには合板に都市の風景を焼きつけた《構造用合板都市図》を出しているのだ。絵画中心のVOCA展と、ドハデなインスタレーションが売りの岡本太郎現代芸術賞展という、二つのコンペをまたいで対照的な作品を出品し、両者でひとつの世界観を示そうとしたってわけ。特にVOCA展は公募ではなく推薦制だから、狙ってできるものではない。これは見事。


公式サイト:https://www.ueno-mori.org/exhibitions/voca/2023/

2023/03/30(木)(村田真)

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