会期:2024/02/10~2024/03/27
会場:静岡県立美術館[静岡県]
公式サイト:https://spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/exhibition/detail/97

「天地耕作(あまつちこうさく)」は、1980年代後半から静岡県西部の山間部(現在の浜松市)で、村上誠・渡の兄弟と山本裕司の3人が協働で行なったアートプロジェクト。関西からの帰りとはいえ、わざわざ静岡県立美術館(静岡駅からけっこう遠い)まで見に行ったのは、確か以前どこかで彼らに会ってこのプロジェクトの話を聞き、いずれ見に行きたいと思いながら叶わなかった心残りがあるからだ。解説を読むと、1988年に川俣正が袋井でプロジェクトを行なったとき彼らもスタッフとして参加したとの記述があり、きっとそのとき会ったに違いない。

今回展示を見て、「見に行きたいと思いながら叶わなかった」理由もわかった。このアートプロジェクトがあらゆる意味で捉えどころがないからだ。彼らは浜名湖北岸の山間部に木や石、土、縄などを使って作品をつくり、見に行きたい人を案内していたという。まず彼らのこの行為・作品をなんと呼べばいいのだろうか。屋外彫刻ともいえるし、アースワークと呼んでもいいし、民俗学的フィールドワークの側面もあるし、野外美術展でもあるし、のちに舞踏やパフォーマンスも行なったところは芸術祭の走りともいえるが、そのどれにも当てはまりそうにない。

そもそも「天地耕作」は作品なのか展覧会なのか。いまでこそ「アートプロジェクト」という包括的な概念で捉えることはできるが、当時はまだそんな用語はなく、川俣がそうであったように単に「プロジェクト」と称していた。また、アートプロジェクトがある計画のもとに社会と関わりながら遂行される活動を指すのであれば、「天地耕作」には明確な計画性はないし、場所も彼らの所有地やその近辺なので社会との関わりも希薄である点でも当てはまらない。ただし、作品の完成を目指すのではなく、表現行為そのものを重視する点ではまさにアートプロジェクトと呼ぶしかないのだが。従って見に行きたくても、特に宣伝しているわけでもないから、いつ、どこに行けばいいのかもよくわからないし、結局いつまで続いたのかすら不明のまま現在に至っているのだ。

展示は記録写真が中心で、館内にインスタレーションするほか、美術館裏の山林にもインスタレーションを試みている。写真で見る限りアースワークのような仕事だが、最初からその地域にまつわる民俗学的な視点も取り入れていたようだ。また、制作中に台風に襲われて水没したこともあるが、彼らはそれをもって完成としたという。作品の最終形態はあらかじめ決めた計画より自然条件に左右されるのだ。そして完成した作品も自然に朽ちるに任せるか、みずから燃やしたりして後に残さない。


村上誠・渡・山本裕二により美術館裏山に設置されたインスタレーション[筆者撮影]

やがて作品を舞台にパフォーマンスを行なったり、海外から呼ばれてオーストラリアやフィンランドでも実施したりと活動は広がりを見せる一方、作品公開を1日だけにしたり、ついには非公開にしたりと「見せない」方向に進んでいく。通常のアートプロジェクトなら作品を残し、徐々に規模を拡大し、観客を増やしていくが、天地耕作はそうした方向性に逆らう。モダンアートの流れに背を向けるのだ。かといって現代の美術制度をすべて否定するわけではなく、記録写真は残しているし、美術館で展覧会を開くこともいとわない。きわめて柔軟であり、ある意味では成り行き任せで、それゆえ捉えどころがないのだ。

残念に思ったのは、会場が閑散としていて観客はぼく以外2組だけしか見かけなかったこと。いくら「天地耕作」の知名度が低いとはいえ、いくら彼らの活動が捉えどころがないとはいえ、またいくら美術館が駅から離れているとはいえ、もう少し静岡県民は地元のアーティストの活動に関心をもってもいいのではないか。静岡に限ったことではないけれど。

鑑賞日:2024/03/01(金)