artscape
artscape English site
プライバシーステートメント
デジタルアーカイブ百景
デジタルアーカイブは今
笠羽晴夫
 「デジタルアーカイブ」が語られ始め世に出てからほぼ十年になる。貴重な文化遺産の姿をデジタルデータで記録し、それを高精細なイメージでまたインターネットなどで離れたところから見ることができるようにということを目的の基本としてきた。
細かく言えば、
  • 劣化していくものに対してその今を記録する
  • 非接触と言う形で無制限多数に対しアクセスを可能とする
  • 対象との距離、角度などの限界をなくす
である。
文化遺産オンライン
文化遺産オンライン
 ここartscapeでもたびたび紹介されているように、多くのミュージアムの名品をインターネット上で鑑賞できるようになってきた。たとえばいまだ対象範囲が限定されたものではあるが、「文化遺産オンライン」では国立の館と一部の県立館を中心として、全体を通した見方、検索手段を提供している。電子美術館、電子博物館という言葉で当初イメージされたものがこれであろう。
 その一方で、デジタルアーカイブの「アーカイブ」については当初それほど意識されておらず、単に古いものが保存されている場所という程度の認識であった。しかしアーカイブというものはある程度の量的な集合がありそれに対する整理分類がなされるということが前提で、デジタルアーカイブという以上そちらにも目を向けたいという動きも出てきた。
 これまで我が国一般のミュージアム、図書館、資料館などでは、ごく少数をのぞいてあまりアーカイブという意識はなかったであろう。それがデジタルアーカイブの進展と併行して「アーカイブ」という概念、その意義が認められ始め、国立国会図書館の情報関連事業、国立公文書館のデジタルアーカイブが推進され注目されてきた、という経緯がある。NHKアーカイブスの始動、日本アーカイブズ学会の設立も関連した動きとしてよく知られている。このようにある範囲における収集・保存の網羅性ということ、またデジタルデータ化された場合の総覧性ということは、「アーカイブ」、「デジタルアーカイブ」という考え方がこの社会に持ち込んだといってもよい。
 そしてデジタルアーカイブの世界に限定すれば、物理的な集中は必ずしも要求されない。そうなると、日本の各地域において、大きなミュージアムがなく、実物は散在しているものをひとつのまとまりとして見せるということも可能になってくる。各地域のアイデンティティの探求とインターネットの仕掛けが結びつくということだってありうるわけだし、現にそういう例をいくつか挙げることもできる。
 今回から連続して、ここまで来たデジタルアーカイブの「今」について、インターネットの世界で見ることができる景色を例示しながら、それが意味するもの、今後への示唆をわかりやすく述べていきたい。
 最初にコンパクトにまとまったデジタルアーカイブの好例として、東京文化財研究所黒田清輝記念館を上げよう。  
 ここは「デジタルアーカイヴ」と銘うっているように、黒田清輝について(幸いにも)125点の絵を持っていること、日記をはじめとする多くの文章を持っていることを活かし、この画家の残したものに関する情報センター的な役割をネットワーク上でも果たしている。
 ここではまず目録の公開性を基本とし、「黒田清輝の生涯と芸術」という詳細な解説、所蔵作品と時期に応じた展示情報が提示されており、また黒田が書いた文章については通常表紙と一部の体裁の公開が多いなか、文章そのものを公開している。著作権がなくなっている作者の作品をまとめて所蔵しているところがなすべきアーカイブそしてデジタルアーカイブのひとつのモデルとなるであろう。この段階までくれば、現在ここにない情報もいずれ集まってこようというものである。
 なお、同じ文化財研究所でも奈良文化財研究所は、人気ある公開施設と高度な研究体制を併せ持つユニークな組織であるが、前者のサービス精神は後者でも活かされており、その公開データベースは見事なものである。たとえば「木簡データベース」、木簡画像データベース[木簡字典]」をみればそれをうかがうことができる。
 今後ここでさらに言及することがあるかもしれないが、東西の文化財研究所が一般のミュージアムに範を示しているというのは面白いことである。
東京文化財研究所黒田清輝記念館 奈良文化財研究所
左:東京文化財研究所黒田清輝記念館
右:奈良文化財研究所、公開データベース
2006年1月
[ かさば はるお ]
次号
掲載/笠羽晴夫
ページTOPartscapeTOP