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プライバシーステートメント
デジタルアーカイブ百景
「地域」という「事実上のミュージアム」
笠羽晴夫
 国レベルでデジタルアーカイブが推進され充実されつつあるということは前回述べた。一方、全国各地域においても本格的なデジタルアーカイブを装備中のミュージアムがこの間続々と輩出している。例えば、熊本県立美術館鳥取県立博物館岩手県立美術館などからそれを見てとることができる。これらは今後他の県立ミュージアムの模範となっていくであろう。
 ただ今回はデジタルアーカイブの妙味を示すものとして、分散しているものを「同一地域」としてリンクしひとつのまとまりとして見せようという動きを紹介し、その可能性を問うこととしたい。分散しているものをリンクしてみせるという意味ではそのテーマはなにも「地域」に限らず特定の作家あるいは何か抽象的なものでもかまわないが、それは別の機会とする。

千葉の県立博物館デジタルミュージアム
千葉の県立博物館デジタルミュージアム
 さて「地域」のデジタルアーカイブといっても、行政的な地域区分の大きさや性格によって、その取り組みの視点に違いを見ることができる。
 まず大きなところでは県単位で10館から構成される「千葉の県立博物館デジタルミュージアム」がある。
 見ていただけばわかるようにデジタルアーカイブは館毎であり、その導入で複数の館を横断した区分ができているわけではない。しかしながら、県としていくつかの特長ある地域を記録する博物館や県の特徴に焦点をあてた館などこれだけのものをもっているところは少ないし、それらのデジタルアーカイブを併行して推進、同様のユーザ・インタフェースを与え、ひとつのページで大項目が一覧できるということだけでも、我が国の中では先進的ということができる。一覧の項目には、県ゆかりの画家「浅井忠」をはじめとする美術作品から、産業遺跡、水郷、漁撈、自然史など、さらに植物学雑誌、1980年代の県全域空撮写真、昭和30年代東京湾岸地域の写真など、県全体の相貌を示すという意味では力作であり、デジタルアーカイブという手法を使わなければこうはできない。参考にする地域が他にも出てきてほしいものである。
 県の次は市のレベルである。行政の役割としても実際には市のほうが現場密着であるから、地域によってはそれを語るものを集約するという行動をとりやすい。ここで「事実上の」という意味での「バーチャル」なミュージアムというものが少しずつ見えてくる。
 まず長野県上田市から、3つのミュージアムを見てみよう。
 最初は上田市山本鼎記念館、ここはこの地ゆかりの画家山本鼎の作品をはじめ関連する資料情報をもとに、その生涯のあらすじ、年譜、作品、関連する当時の社会とその動きなどがよく整理され、画像と文字で説明されている。しかもそれらのガイドやインデックスにおいて、内容をシンボライズする部分をサムネイル表示することにより、文字だけの堅苦しさからのがれているし、左側にインデックス、操作機能が表示されているところから、自分がどこにいるかよくわかり、次の操作にも気がつきやすい。こう書けば当たり前のようであるが、これができている館は稀である。
 一人の画家に集中しているからこれができるのかとも思われたが、次の上田市立信濃国分寺資料館のサイトを見ると、その地域がどんなところか、他の多くの自治体がお子様向けに古代から説き起こしているものとことなり、興味ある大人の参照に耐えるものとなっている。また館内と屋外のものがうまく組み合わされている。欲をいえば、全体の俯瞰から個別対象にもっと簡単に到達する方法が提供されているとよい。
 そして上田市立博物館では、これまであげた方式が総合され洗練されたということができる。ここで収蔵品は大きく藩主(真田)関連文書一般、郷土史、美術工芸、民俗(養蚕など)、甲冑、自然などにわけられ、前記2館と同様なインタフェースで見ることができる。さらに別出しされた「最後の藩主藤井松平氏」というカテゴリでは年表、系図、歴史記述がうまく組み合わされ、記述事項に関連した館収蔵品、屋外にある関連建造物、墓などがリンクされている。前述のようにつくりがいいから初めてここに入りいろいろ見ていても疲れない。
 そしてこれら3つのオーバヘッドとして上田デジタルミュージアムネットワーク
があり、その中の「上田情報蔵」、「上田市文化財マップ」などに、地域を語るさまざまな情報がリンクされている。屋外建造物の画像品質も高い。
 このプロジェクトは1995年に設立された上田市マルチメディア情報センターによって運営されている。全体としてまだ開発途上とのことであるが、楽しみであり注目を続けたい。
上田市山本鼎記念館
上田市立信濃国分寺資料館
上左:上田市山本鼎記念館
上右:上田市立信濃国分寺資料館
下左:上田市立博物館
上田市立博物館

かごしまデジタルミュージアム
かごしまデジタルミュージアム
 次に鹿児島市は「かごしまデジタルミュージアム」として、その市立美術館をはじめ、ふるさと考古歴史館、かごしま近代文学館・メルヘン館、西郷南州顕彰館、維新ふるさと館、その他市内に点在する彫刻・記念碑、文化財などを、美術品、考古資料、文学、人形、西郷隆盛ゆかりの品、明治維新ゆかりの品、彫刻・記念碑、伝統工芸品、自然遊歩道、文化財というカテゴリで各館を横断してまとめている。
 それらの検索方法にはMAP検索(地図からの検索)、分類検索、年代検索があり、またおすすめキーワードのサポートもある。質量とも充実したものといえよう。
 ただ欲をいえば、検索目的がある人にはいいが、初心者にはこの地を語るなんらかのストーリーが関連コンテンツとしてほしいところである。
 このほか、市にあるいくつかのミュージアム一覧に名前をつけて紹介していこうという動きに、カナザワ・ミュージアム・コレクション(金沢市)、岡山市The Lit City Museum高松市ウェブミュージアムなどがある。ただの一覧表といわれればそれまでであるが、これらの自治体が上田市、鹿児島市のようなものを今後志向していくことを期待したい。
 町単位のものについてはいずれ触れることにする。
カナザワ・ミュージアム・コレクション 岡山市The Lit City Museum 高松市ウェブミュージアム
左:カナザワ・ミュージアム・コレクション
中:岡山市The Lit City Museum
右:高松市ウェブミュージアム
2006年2月
[ かさば はるお ]
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掲載/笠羽晴夫
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