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オープンソースの最前線
──NPO法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン
「ドミニク・チェン」
影山幸一 |
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NPO法人CCJP起動
クリエイティブ・コモンズ(Creative Commons、以下CC)の世界大会がクロアチアで開かれたと聞いた。イタリアの対岸、アドリア海に面した世界遺産の町が会場となったそうだ。アメリカ・ボストンで2001年に生まれたCCは、クリエイティブな作品を共有するというしくみを作り、インターネットの普及とともに着実に広がりを見せていた。20世紀の従来のコピーライト(=著作権)に対して、著作権を柔軟に開放する21世紀のライセンス・システムである。作者の意思を著作権にも反映させて定義できるライセンスを、各国固有の法律に合わせて提供している。CCは進化している。日本では2004年から国際大学GLOCOM内に置かれていた任意団体クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(ミュージアムIT情報2005年3月15日号参照)が、2007年7月25日にNPO法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(以下、CCJP)となって起動した。NPO法人の安定した活動を通して豊かな社会と文化の発展に貢献すべく再スタートを切ったのだ。CCJPの理事を務め、CCの世界大会「iSummit」に例年参加している気鋭の研究者ドミニク・チェン氏(Dominick Chen,以下、ドミニク)に、CCの現在の状況とデジタルアーカイブとの関わりなどを伺うため、東京大学工学部を訪ねた。
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クリエイティブ・コモンズ世界大会
米国のボストン、ブラジルのリオデジャネイロに続いて第3回目のCC世界大会iSummit2007は、iCommons(CCをはじめオープン・カルチャーの普及促進のために設立された国際団体)主催で2007年6月13日から4日間、クロアチアの最南端の美しい町ドブロヴニクで開催された。58カ国より法律家・教育者・企業家・アクティビスト・ジャーナリストなど約300人が集まり、主にオープンな教育、オープンなビジネスなどコンテンツの促進・活用方法が議論されたようだ。その教育の目標は、教育資源や教育環境の整わない地域に、優れた教育をどのように与えるかということ。フリーな高校の科学の教科書や、南アフリカで物理と数学のオープン教材に取り組んでいるプロジェクト(Free High Schools Science Textbook Project)、Wikiを使った教育プロジェクト、One Laptop per Childプロジェクト(発展途上国の子供1人に1ノートパソコンを配布するプロジェクト)などが紹介され、議論された。課題はたくさんあるようだが、CC米国は新しい部門として「CC Learn」という教育部門をヒューレット財団と共に立ち上げる。来年の「iSummit2008」は、「北海道洞爺湖サミット」も開催される北海道の札幌に決まった。「創造都市さっぽろ」を推進する札幌市がiCommonsに働きかけたプレゼンテーションが有効だったらしい。iSummit2008では札幌に従来よりも多くのアーティストが参加する機会を検討中という。
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iSummit2007の基調講演
CCの創立者であるローレンス・レッシグ教授(Lawrence Lessig,以下、レッシグ教授)はiSummit2007の基調講演で次のように語った。1926年パリに設立され、100カ国以上、200以上の著作権管理団体の上部組織であるCISAC(著作権協会国際連合)が属する「商業的経済」と、CCの属する「共有経済」の二つがあることを指摘した。商業的経済が、お金をインセンティブとして動いているのだとすれば、共有経済は創作に対する愛情や友人知人・社会への貢献などの非金銭的なインセンティブで動いていると解説。これら二つの経済の橋渡しをする役割も果たして行きたいと、これからのCCは、非営利のライセンスのライセンス文章(コモンズ証)において、商業的なライセンスを得るためのリンク先を表示する機能を実装するなど、著作権にまつわる経済の融合に向けて前向きな姿勢を示した。この講演でレッシグ教授はCCのCEOを継続しながら、新たに政治の世界に関与していくことを明言した。CCのフェーズが変わりつつある。 |
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ドミニクというキーワード
博士論文が期待されるドミニクは、メディアアート、メディアカルチャーの視点から評論活動も行なっているので、ご存知の方も多いだろう。26歳という若さながら穏やかなジェントルマンはアジアの青年の域を越え、不思議な落ち着きがある。ドミニクは、台湾とベトナムのハーフで台湾人の父と日本人の母のもとに生まれた。日本に留学経験のある父は日本のフランス大使館に勤務、フランスへ帰化したのち外交官となる。1981年東京に生まれたドミニクは、東京・飯田橋の在日フランス人学校(リセ・フランコ・ジャポネ・ド・トウキョウ)に通っていた。12歳の頃に父の仕事の関係で4年間ほどパリに暮らす。その後ロサンゼルス転勤となった父と共に米国へ行き、ロサンゼルスのフランス人学校を卒業。哲学を専攻しようとソルボンヌ大学と、UCLAに新設されたDesign/Media Arts学科を受験し共に受かるがUCLAに進学した。2003年卒業し、日本に活動の場を移した。NTT InterCommunication Center(ICC)に入社し、ICCの研究員としてオープンなオンライン映像アーカイブの「HIVE」の設計・構築を担当。同時に2004年4月から東京大学大学院学際情報学府の修士課程に学び、現在は日本学術振興会特別研究員として同大学院博士課程に在籍している。 2005年2月から国際大学GLOCOMリサーチ・アソシエートとして、批評家・東浩紀の研究室においてオープン著作権システムのプロジェクトに参加した。主な関心はメディアアートからメディアカルチャーへと移行している。実験的な領域からより一般的な文化的な状況へ向かっているドミニク自身がメディアカルチャーのキーワードともいえそうな、国際派若手研究員である。CCとの最初の出会いはWebだが、同時に米国でNHKスペシャルが放映され「変革の世紀」という番組の中でレッシグ教授の活動を知ったことが、当時デザインの学生として衝撃的だったという。そしてICCに入社した数日後、12月2日に東京・市ヶ谷でスタンフォード大学ロースクールのレッシグ教授の講演があった。レッシグ教授や他のCCの活動家たち、そして野口祐子氏(現CCJP常務理事)との劇的な出会いとなった。このようにして日本におけるCCの活動に参加をし、現在は非法律家としてCCJPの理事も務めている。
バージョン3.0
CC米国のライセンスがバージョン3.0になったのを受けて、日本でも年内には現行の2.1から3.0へバージョンアップが予定されている。バージョンアップして変わるのは、主に法的な頑健性と他のオープンライセンスとの互換性である。Wikipediaで利用されているGNU Free Documentation License(GFDL)とCCの互換性が整ってくればCCもWikipediaで利用できる。世界のCCライセンス利用数は、6,000万コンテンツ以上が確認されている。日本はYahoo!とGoogleのバックリンク検索の両方で、35か国中6位から10位の間にランクしている(人口比率でいえば18位)。各国に適したCCライセンスを新たに作成するためには翻訳のプロセスを経るルールがあるという。現地の弁護士や活動家がCC本部のCCライセンスを自国の言語に翻訳し、それを基に新しくCCライセンスのドラフトを書き、さらに英訳したものをCC本部に送って了承を得る。そのプロセスを経た世界中のCCの数は現在36カ国、あと4、5カ国が間もなく了承を得る予定だ。CCは米国の一元管理というものではなく、各国のCCがノード(結節点)となって結ばれている。CCの商標を変えないというような基本的なことを守れば、各国のCCはCC本部(米国)への報告の義務もなく、現地で自治権をもって運営される。
デジタルアーカイブはプロクロニズム
『精神と自然』を著した文化人類学者グレゴリー・ベイトソン(Gregory Bateson)は、生命体の生成履歴情報は、表層の形態に現れるという意味を「プロクロニズム(prochronism)」と呼んだとドミニクは述べた。「情報のプロクロニズムを設計できるのではないか」。メディアアートの資源を集積しているICCでオンライン映像アーカイブ「HIVE」の設計と構築に取り組むドミニクは、「HIVE」にCCライセンスを採用し、約300本の映像記録の権利処理などを行い、安定稼働の確認後、それらをコンテンツとして積極的に一般公開・提供している。その結果、ユーザーはICC というアートセンターの資源を、当該CCライセンスの規定に従えば、自由に複製したり改変したりすることができる。美術館やアートセンターの領域では世界初の試みとなった。コンテンツが連鎖的に使われていくことにより、映像アーカイブの価値が上がり、それらはネットワークを通じて「HIVE」へ還元されてくる。「メディアアートを扱うICCのデジタルアーカイブは、時代の先端性というイメージも意識しつつ、その時々の最適な技術を援用しながら、いかに生きた組織体としてのアーカイブを構築していくか、という解を求めるための手段に過ぎない。つまりデジタルアーカイブはICCという組織のプロクロニズムであると考えている。ある組織の活動履歴、制作履歴やプロセスが開示されて初めてオープンな情報の共有が可能になるのではないだろうか。ICCで考えたことは、デジタルアーカイブ「HIVE」の自律性だけではなく、ICCという一つの組織体をどうオープンに再構築するような機構というものを構築するか。またはICCの外部の人たちがどのようにICCの形成に参加できるか。ICCの歴史そのものの映像記録を教育機関などで使ってもらい、異なる文脈で語ってもらう。それによりICCの資産を中心に、より広いネットワークが展開するというネットワーク的な思想だ。それが正統かということよりも雑種主義であって、ハイブリッドが生まれてはじめて価値が生じる。異なる文脈にどんどん入っていって次の世代に繋げるという発想なのだ」。プロセスに配慮した情報の扱いを、上昇させるのではなく、広く下降化させ、情報が多次創造的に使われていくという現象にドミニクは注目している。多様なデジタルアーカイブが生成されてきた現在、情報文化の基盤となるデジタルアーカイブの整備も不可欠となってきた。CCはデジタルアーカイブにどのように役立つのか。ドミニクは情報の可塑性(plasticity)、あるいはOpen-ended性(限定的な目的をもたない)なコミュニケーションとも呼んでいるが、完成形が設定されていないコミュニケーションを誘発させるのがCCの持つ機能であるという。そして「方法論としてのOpen-endedなコミュニケーションは、プロセスを愛でるためにあり、そこでCCは情報に法的な可塑性を与える。私がこういうことをしておくことで、あなたはこういうふうに変えることができる。アフォーダンスと呼ぶ人もいる。可塑性に満ちた情報環境というのは同時に大きなアフォーダンスを湛えていて、そういう意味でデジタルアーカイブの最大の目的は学習であり、教育であると思う。デジタルアーカイブは、その利用者が文化資源をこねくりまわし(tinker)ながら学習するためにあるプラットフォームだ」と穏やかに語った。取材の翌日ドミニクは台湾に飛び、ウィキメディア国際カンファランス「Wikimania 2007」に参加し、workshop「remix with wikipedia, remix on wikipedia」を行なっている。
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■どみにく ちぇん略歴
1981年1月9日東京生まれ
2003年UCLA Design/Media Arts卒業
2003年NTT InterCommunication Center(ICC)研究員,HIVE担当
2004年東京大学大学院学際情報学府修士課程入学
2005年国際大学GLOCOMリサーチ・アソシエート
2006年日本学術振興会特別研究員[東京大学大学院学際情報学府博士課程]
2007年NPO法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事
■NPO法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン概要
理事長:中山信弘(東京大学法学部教授)
常務理事:野口祐子
所在地:未定
設立年:2007年7月25日
目的:広く一般に市民に対して、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(デジタル著作権ライセンス)等の著作権に関する調査研究、普及啓発及び人材育成を行い、著作物の公正かつ多様な創作及び利用の促進と健全なネットワーク社会の形成に寄与することを目的とする。
主な活動:
1.セミナー、シンポジウム、イベントの開催
2.学生インターンシップ・プログラムの主催
3.関連活動への協力、支援(Think Cへの事務協力、JOCWとの連携)
4.独自メディアの展開(ホームページ、メールマガジンなど)
5.国際連携とライセンス更新(最新バージョン3.0の日本法への移植など)
■参考文献
クリエイティブ・コモンズ・ジャパン関連:
・野口祐子「iSummit報告:ライセンスの最新議論いろいろ」クリエイティブ・コモンズ・ジャパン,2007.7.27
(http://www.creativecommons.jp/news/2007/07/27/isummit_7.html)2007.8.6
・野口祐子「iSummit報告:著作権管理団体との対話」クリエイティブ・コモンズ・ジャパン,2007.7.27
(http://www.creativecommons.jp/news/2007/07/27/isummit_8.html)2007.8.6
・野口祐子「iSummit報告:オープン教育」クリエイティブ・コモンズ・ジャパン,2007.7.21
(http://www.creativecommons.jp/news/2007/07/21/isummit_6.html)2007.8.6
・ドミニク・チェン「iSummit報告:基調講演ダイジェスト 1」クリエイティブ・コモンズ・ジャパン,2007.7.11
(http://www.creativecommons.jp/news/2007/07/11/isummit_5.html)2007.8.6
・ドミニク・チェン「iSummit報告:基調講演ダイジェスト 2」クリエイティブ・コモンズ・ジャパン,2007.7.11
(http://www.creativecommons.jp/news/2007/07/11/isummit_2_2.html)2007.8.6
・ドミニク・チェン「iSummit報告:基調講演ダイジェスト 3」クリエイティブ・コモンズ・ジャパン,2007.7.11
(http://www.creativecommons.jp/news/2007/07/11/isummit_3_1.html)2007.8.6
・ドミニク・チェン「iSummit報告:CCライセンスの統計研究」クリエイティブ・コモンズ・ジャパン,2007.7.7
(http://www.creativecommons.jp/news/2007/07/07/isummitcc_3.html)2007.8.6
・生貝直人・ドミニク・チェン・松本昂・野口祐子「クリエイティブ・コモンズの進化と変容:ビジネスモデルとWeb2.0を巡って」情報管理,2006.11.27
(http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/49/10/49_576/_article/-char/ja)2007.8.9
・クリエイティブ・コモンズ・ジャパン事務局「クリエイティブ・コモンズの理念と実践:Web2.0における権利表現という文化について」情報管理,2006.8.29
(http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/49/7/49_387/_article/-char/ja) 2007.8.9
論文等:
ドミニク・チェン「混交都市TOKYO-都市の優生学に抗うために」『InterCommunication』No.61 summer 2007, p.64-p.71, 2007.7.1, NTT出版
ドミニク・チェン「プロクロニズムとその都市への適応について」『10+1』No.47, p.129-p.135, 2007.6.30, INAX出版
ドミニク・チェン「NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]」『デジタルアーカイブ白書2005』p.52-p.53, 2005.3.31, デジタルアーカイブ推進協議会
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2007年8月 |
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[ かげやま こういち ] |
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